日本のクマを絶滅させたらどうなるのか? 調べてみた 【指定管理鳥獣に追加】

近年、日本全国各地で報道されているクマの出没情報。いかにクマが危険で恐ろしいかを煽り立て、駆除(補殺)する正当性をこれでもかと強調しています。

これまでにないペースで駆除されているクマたち。まるで根絶やしにせんばかりの勢いですが、もし日本からクマを絶滅させたらどうなるのでしょうか。

クマがいなくなれば作物は荒らされないし、人間も襲われなくなって幸せに暮らせるのでしょうか。それとも今まで考えもしなかったデメリットがあるのでしょうか。

「クマが絶滅して、何か困ることってあるんですか?」

今回は日本のクマ問題について、少しばかり考察したいと思います。

目次

日本からクマが絶滅するとこうなる?

結論から言うと、以下のメリット&デメリットが想定されるでしょう。

画像 : クマ出没注意の標識

【日本からクマが絶滅するメリット】

  • 死傷被害がなくなる
  • 作物被害もなくなる……等

【日本からクマが絶滅するデメリット】

  • 山林が荒廃する
  • 生態系が崩れる
  • 自然災害が増加する
  • 水不足が深刻化する
  • 気候が変動する可能性……等

メリットの方は、言うまでもありませんね。山野を闊歩する大型獣がいなくなれば、人間が襲われるリスクは大きく減ります。また、飢えて農作物や生ゴミなどをあさることもなくなるでしょう。

デメリットの大きさはともあれ、これらがクマを絶滅させるメリットと言えば言えそうです。

しかし、デメリットの方はかなり甚大であり、人類生活に深刻な悪影響を及ぼすことが想定されます。

それはなぜなのか?クマが自然界において果たしている役割を考えれば、その理由が見えてくるでしょう。

クマが自然界で果たす役割

荒廃した山林がもたらす土石流災害(イメージ)

クマは雑食で、木の実など植物性の食糧を中心に、必要や状況に応じて動物性の食料(魚や昆虫、生物の死骸など)も口にします。

食べたら出てくるのは自然の摂理。クマが広範囲(成獣で数十キロ以上)にわたって歩き回ることで、その排泄物が大地に栄養をもたらすのです。

大型獣だからこそ草木の繁茂した地域にも入って行けるし、クマが通った跡は日当たりや風通しがよくなるため植物の生育を促進します。これは他の野生動物たち(シカ、イノシシ、サル等)には難しい役割です。

また、クマは日向(ひなた)だけでなく日陰も作り出します。クマは木の枝から実を食べ終えると、折りとった枝を尻の下に敷き込んでいくのです。これを俗に熊棚(くまだな)と言い、小動物の巣になったり半日陰を好む植物の成長を助けます。

また、クマは「樹皮をはがすと樹木が枯れる(枯らすことができる)」という知恵を持っていることが明らかになりました。食べられる木の実をつけず、日光をさえぎって森を暗闇にしてしまう杉などの針葉樹を枯らすため、樹皮をはがして回る事例が発見されたのです。

針葉樹が枯れて倒れれば、その場所には日光が入って植物たちが復活する。クマは中長期的に森林を管理する視野を持っています。

クマは、こうした自然界の新陳代謝を促す役割を果たしていると言えるでしょう。

クマは本当に「増えた」のか?

知床半島に棲息するヒグマ。

さて、昨今の報道では、クマが増えすぎて山から人里に下りて悪さをしているような印象を受けます。

果たして本当にクマは「増えた」のでしょうか?参考として、環境省が出しているクマの被害データを見てみましょう。

クマによる人身被害
※ツキノワグマ/ヒグマ

【R5・2023年度】負傷 209名/9名 死亡 4名/2名

【R4・2022年度】負傷71名/4名 死亡2名/0名

【R3・2021年度】負傷74名/14名 死亡1名/4名

【R2・2020年度】負傷158名/2名 死亡2名/0名

【R元・2019年度】負傷154名/3名 死亡1名/0名

【H30・2018年度】負傷50名/3名 死亡0名/0名

【H29・2017年度】負傷104名/4名 死亡1名/1名

【H28・2016年度】負傷104名/1名 死亡4名/0名

【H27・2015年度】負傷58名/0名 死亡0名/0名

【H26・2014年度】負傷117名/5名 死亡1名/1名

過去10年度分のデータを見てみると、確かに2023年度はツキノワグマによる負傷者が多くなっています。

しかし増える一方という訳ではないようで、年によって増えたり減ったりしているようです。

少なくとも、クマによる人身被害と個体数の因果関係について、確実なことは分かりません。そもそも行政当局が把握しているクマの個体数データ自体があいまいな状態です。

クマが山から下りてくるのは、増えすぎたからと言うより、山に食糧がなく飢えているからではないでしょうか。

画像 : メガソーラー事業により、山野が荒廃していく。太陽光パネル自体も土壌を汚染していく(イメージ)

近年は中国資本を中心としたメガソーラーの乱開発が推し進められ、全国各地の山林が無惨に破壊されています。

保水力を失った山は雨が降れば土砂災害を引き起こし、水を貯めることができずに水不足を引き起こすようになってしまいました。

クマが棲める山と森の復活こそが、クマ被害をなくし人類生活を豊かにする上で喫緊の課題と言えます。

指定管理鳥獣とは何か?

さて、そんなクマ(ツキノワグマ/ヒグマ)が、指定管理鳥獣(していかんりちょうじゅう)に追加指定されるという報道を耳にしました。

この指定管理鳥獣とは何か?調べてみると鳥獣保護法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律。以下、長いので通称の「鳥獣保護法」で統一)にこう定義されています。

鳥獣保護法 第2条5項

5 この法律において「指定管理鳥獣」とは、希少鳥獣以外の鳥獣であって、集中的かつ広域的に管理を図る必要があるものとして環境省令で定めるものをいう。

要するに「希少動物でない動物のうち、全国的に『管理』する必要があると環境省が指定した動物」と解釈できるでしょう。

指定管理鳥獣となっているニホンジカ。

令和6年3月1日現在、指定管理鳥獣には二ホンジカとイノシシの2種類が指定されています。

ではこの「管理」とは何か?同じ第2条3項にこう定義されていました。

鳥獣保護法 第2条3項

この法律において鳥獣について「管理」とは、生物の多様性の確保、生活環境の保全又は農林水産業の健全な発展を図る観点から、その生息数を適正な水準に減少させ、又はその生息地を適正な範囲に縮小させることをいう。

今度は「自然の全体的なバランスから見て、増え過ぎた動物を適正な数まで減らしたり生活範囲を縮小させたりすること」と言えそうです。

しかしクマって、そんなに増えていましたっけ?

例えばヒグマ(エゾヒグマ)は天塩・増毛地方と石狩西部について「絶滅のおそれのある地域個体群(LP)」に指定されています。

また、ツキノワグマについても青森県下北半島・和歌山県など紀伊半島・東中国地域・西中国地域についても同様です。

今回は絶滅のおそれが高い四国地域のツキノワグマは追加指定の対象外となっていますが、他地域についても絶滅のおそれが高い状態が続いています。

確かに、地域によっては「クマが増えた」と感じる(実際は山を追われたクマが決死の覚悟で里に下りてきている)ことがあるのかも知れません。

しかし、限られた地域の事情をもとに全国的な管理を拡大してしまうのはいかがなものでしょうか。

指定管理鳥獣に追加されると、クマはどうなる?

イメージ

鳥獣保護法において、指定管理鳥獣の具体的な取り扱いについて第14条の2に詳しく定められています。

……が、その条文は非常に長ったらしいので読まなくても問題ありません(きちんと読むに越したことはありませんが……)。大きな変化として、ここでは以下3つのポイントをおさえておきましょう。

  • 基本的に、許可なしでクマの捕獲等が可能となります(第8条の適用除外)。
  • 捕獲したクマ(の死体)を放置が条件付きで可能となります(第18条の適用除外)。
  • 都道府県知事の確認があれば、夜間にクマを銃で撃てます(第38条1項の適用除外)。

また、国から都道府県等に対して指定管理鳥獣捕獲等事業交付金が支給されます。よく「シカやイノシシ等を撃つ(駆除する)と、カネがもらえる」というのは、これが財源となっているようです。

今後、カネ目当てでクマの乱獲が助長され、絶滅を加速させてしまうことが心配でなりません。

終わりに

熊の棲める自然環境こそが、日本の生命線(イメージ)

以上、ごく簡潔ながら日本からクマを絶滅させた場合に想定されるリスクや、指定管理鳥獣制度について紹介してきました。

豊かな自然環境によって育まれてきた日本の文化。その恩恵を忘れて山野の切り売り(メガソーラー事業など乱開発)を続けていけば、遠からずクマは絶滅してしまいます。

クマが絶滅すれば日本の文化を支え続けた豊かな自然環境は決定的に衰退し、やがて災害や飢餓にたびたび悩まされる貧しい島国となってしまうことでしょう。

クマによる被害が増えているのは、決してクマが増え過ぎているのではなく、彼らが暮らす山野が人間によって荒らされた結果に他なりません。

昔からクマは山の守り神として、人々から畏敬の念を持って扱われてきました。クマが飢餓に苦しむことなく生きていける自然環境を取り戻すことこそ、日本人の急務と言えます。

※参考文献:

  • 佐藤喜和『アーバン・ベア となりのヒグマと向き合う』東京大学出版会、2021年7月
  • 坪田敏男ら編『日本のクマ ヒグマとツキノワグマの生物学』東京大学出版会、2011年2月
  • 森山まり子『日本くま森協会の誕生秘話 クマともりとひと』日本熊森協会、2007年

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