有名店だと〈3万円超〉がザラだが…〈2万円以下〉で「最高クラスの鮨」が食べられる“隠れた名店”を見つけるコツ

(※写真はイメージです/PIXTA)

日本人のみならず海外の観光客からも愛される「江戸前鮨」。メディアにもよく登場するような、予約の取れない鮨屋だと、「おまかせコース」で3万円超えの場合もザラですが、「2万円前後やそれ以下でも、3万円超の店と同等かそれ以上の魚を使っている店はいくつもある」と、鮨評論界の第一人者であり、著述家の早川光氏はいいます。早川氏の著書『新時代の江戸前鮨がわかる本 訪れるべき本当の名店』より、詳しく見ていきましょう。

高級な鮨屋なら常に「最高クラスの魚」が出てくるという“思い込み”

10年前は『ミシュランガイド東京』や『東京最高のレストラン』といったガイドブックを見て鮨屋を選ぶというのが普通でした。でも今はツイッターやフェイスブック、インスタグラムなどのSNSや、ネットの口コミサイトを通じて店選びをする人が多数派になっています。

SNSは拡散するスピードが早く、その店がいかに予約が取りにくいか、どんな内容のおまかせを出しているかといった、目を引きやすい話題が中心ですから、ガイドブックの情報よりリアルで真実味があるように見えます。最近は「ガイドブックが褒める店よりSNSで評価される店の方が本物」と解釈している人が多いのではないでしょうか。

ある意味ではそれも正しいと思います。ガイドブックは店の格式や伝統といった目に見えないものを含めて評価する面があり、同じ店がずっとトップ評価のまま動かなかったりするからです。それに比べれば、すべての店を同じ土俵に上げて語るSNSは、公平であると感じます。

でも僕がどうしても気になるのは、SNSの中で、鮨バブルに乗じて値段を上げたおまかせ3万円超の店が、2万円以下の価格帯の店より、押し並べて高い評価を受けていることです。コメントに「最高級食材のオンパレード」などと書かれているのを見て、首を傾げたくなることもあります。

はっきり書きますが、おまかせ3万円超の店なら常に最高クラスの魚ばかりが出てくるというのは思い込みです。もちろん中にはそういう店もありますが、僕の知る限り、それはほんの数軒だけです。

鮨屋の経費は食材の仕入れだけではなく、店の家賃とスタッフの人件費も大きな割合を占めます。つまり家賃相場が高い場所に広い店を構え、サービスを充実させるためスタッフを多く雇っている店は、魚ばかりにお金をかけるというわけにはいきません。

そしてここが大事なポイントですが、最高クラスの魚はお金さえ出せば買えるというものではありません。そもそも最高クラスの魚を扱う業者は限られていて、買うことができるのはその業者が認めた店だけです。特に不漁などの理由で高騰した場合、つまり市場に品物が少ない時は、買えるのは業者との信頼関係が厚い店に限定されます。単純に大金を積んだからといって買うことはできないのです。

中には、マグロとウニだけ高価なものを仕入れて他を抑えるという所もあります。市場で高値をつけるのはマグロとウニだけではなく、シラカワ(シロアマダイ)やホシガレイ、そして水管の部分しか使わない本ミル貝(ミルクイ)なども、握り1貫あたりの値段に換算すればほとんど同じレベルです。その味を知る人には垂涎の高級食材ですが、一般的にはそこまで高価であるとは知られていない。そこでこうした魚をあえて使わないことで全体の値段を調整するというわけです。

もしSNSで鮨屋について語っている人たちが、こうした事情に気づいてくれたら、僕は店の評価やランキングは大きく変わるのではないかと思っています。

2万円前後やそれ以下でも、他の経費を抑え仕入れに充てることで、3万円超の店と同等かそれ以上の魚を使っている店はいくつもあります。

もし高級店ならではのゴージャス感を楽しみたいのではなく、単に「美味しい鮨が食べたい」というのが目的なのであれば、3万円超のバブル店よりこうした鮨屋を選ぶことをお薦めします。

本当の「名店」は隠れている

ご存じの方もおられると思いますが、僕は2014年から2019年までBS放送の『早川光の最高に旨い寿司』という番組のナビゲーターを務め、90回の放送で89軒の鮨屋を紹介してきました。この89軒はすべて、僕が客として足を運び、実際に食べた中から選んだものです。

最初のうちは有名店や人気店、前々から親しくしている店を中心に選んでいましたが、やがてそれにも限界が来て、出演してくれる鮨屋を一から探さなくてはならなくなりました。とはいえ闇雲に訪ねるわけにもいかないので、鮨職人や仲買人などの同業者に情報を聞いて回ることにしました。

なぜ同業者に聞いたのかというと、純粋に築地や豊洲市場で上質な魚を買っている店を知りたかったからです。評判や噂はあてになりませんが、同業者の目から見て「いい魚を買っている」「上手な買い方をしている」店であれば間違いなくレベルが高いだろう。そう考えました。

情報を集めてみて驚いたのは、名前が挙がった中に僕が知らない店がいっぱいあったことです。初めて名前を聞く店もあれば、ネット検索をしてもほとんど口コミが出てこない店もある。なのでちょっと不安に思いながら食べ歩いたら、何軒も見つかりました。「知られざる名店」が。

住宅街で極上の魚ばかり揃えている店。伝説の名人の薫陶を受けた燻し銀職人がやっている店。仲卸の修業経験がありマグロの熟成に一家言ある店。どこも銀座の高級店とは違う、独自の個性を持った鮨屋ばかりです。

ところがそういう店はみんなテレビに出たがらない。親方のポリシーというのもありますけど、だいたいはメディアに出ることで店が混んで「常連客に迷惑をかけたくない」という理由からです。頑張って交渉したのですが、番組に出てくれたのは2軒に1軒ぐらいでしょうか。その時に思い知らされました。「本当の名店は隠れている」と。

僕も関わっているからわかりますが、雑誌やテレビ等のメディアは出たがらない鮨屋を口説くことは基本的にはしません。逆に積極的で喋りが達者な鮨職人には何度も出演をお願いしてしまったりする。だからメディアに出る“名店”は同じ顔ぶれになりやすい。でも本当はそうした“表に出る名店”より“隠れた名店”の方が数が多いのです。

だから「そんな店は聞いたことがない」と知名度だけで敬遠したりせず、好奇心を持っていろんな店を訪ねてみてほしい。結果としてそれが、本当に旨い店を見つけるための近道なのだと思います。

早川 光
著述家

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