Appleは、2024年3月6日より全編iPhone 15 Pro Maxを使って撮影されたショートフィルム｢ミッドナイト｣を公開。その公開に先駆けて行われたプレミア試写会で撮影監督の北信康氏登壇によるトークセッションが行われた。
北氏は日本映画撮影監督協会JSC所属で、三池崇史監督が指揮する作品の撮影経験を多数もつ撮影監督だ。映画｢十三人の刺客｣では第36回日本アカデミー賞最優秀撮影賞も受賞されている。
はじめに、iPhone全編作品撮影については｢チャレンジングな気持ちで新たなところを開拓できれば｣とコメント。｢何か化学反応ができれば｣と思って参加したという。
iPhoneでの撮影については、｢最初にこの話をいただいた時は、iPhoneでピントはどうなるのだろうか｣と不安だった気持ちを明かした。普段の撮影にはピントを合わせるフォーカスプラーがついているが、今回の撮影に助手はつかない。その点を一番心配したという。しかしiPhoneのフォーカスプラーは機能としてはかなり優秀で、割とストレスなくついてきてくれて想像以上に安心して任せられたと振り返った。
｢普段僕らたち私たちが作っている作品においては、僕らカメラマンにアシスタントが3人ぐらい。もしくは作品の規模によっては4人、5人ついてきて、ピントというものに対してはきちんと合わせる助手がいます。そういう人とコラボしながらこう物語を構築していきます。今回の場合は、iPhoneという優秀な助手が一人いたということになりました｣と印象を振り返った。
iPhoneと従来の撮影との違いについては、｢小型かつこのクオリティがあり、普段カメラが入れないところ｣が圧倒的なアドバンテージと語った。｢本来ここから撮った方がこの画は正しいよねという距離感のとこから無理なく撮れるというのが一番の利点です。例えばタクシーの中の撮影で、普通のカメラだったら入れない距離感のところにiPhoneだと入れます。iPhoneの撮影によってその芝居の伝わり方が違ってきました｣と語った。
アクセルの足元にカメラを置きたいと思ったら車体に穴を開けないとできなかったが、iPhoneだったら実現できた。そんなカメラの設置性の自由度の高さを有効活用しながら撮影できたとコメントした。
さらに今回の撮影は時間が潤沢にあったわけではなく、小回りの良さを活かして“行きましょう、行きましょう”とテンポを重視して撮ることができたことも非常に助かったと振り返った。
iPhone 15 Pro Maxのアクションモードについてたずねられると、｢カメラレールや移動車を使うとそのコースしか行けなくなってしまう。iPhoneは手持ちで撮ることによって、芝居に対してアジャストできた｣と答えた。人が走るシーンの撮影であれば、ずっと横の並走だけではなく、顔の手前に回って撮れるのは優れた点だったという。
シネマティックモードについては、｢この機能はピントの見せ方をデフォルメする機能｣と紹介した。本来、人間の目はある一部だけをぼかしてみることはできない。シネマティックモードは、多数の人たちがいる中の2人だけをデフォルメすることが可能。従来の撮影では、絞りと深度をコントロールしながらフォーカスして世界観を作っていたが、それにかなり近い世界感をシネマティックモードによって作れる。手前から奥にピントを送るということもできたと語った。
最後に、iPhone撮影が、撮影の方法やクリエイティビティでもたらす可能性について尋ねられると、｢より感覚的になれる。自分の感覚を信じて、撮っていけるっていうところが一番優れた点｣と回答した。 北氏は、｢何が正しいのかわからない世界の中で、思考錯誤を繰り返しながら撮っている｣という。撮影とは、それに対してアジャストしていく感覚が必要であり、｢iPhoneはものすごく感覚的になれる｣という。｢もちろん狭いとこにも入れるし、軽くて手ぶれも付いてることも大切ですが、一番強調したいことは感覚的にものが撮れることこそもっともありがたいということです。｣とコメントした。
さらに、ロケハンにiPhoneは必須。iPhoneはディレクターズファインダーのソフトがあり、太陽の位置のシミュレーションも可能。大まかにカメラポジションを決められて、余計なものが映り込まないか心配も無用になる。ロケハン時は良かったのに本番は天気の都合などでイメージと違っていたということがあるが、ロケハン時もiPhoneのlogで撮っておけば、本番の素材として活用できるかもしれないという。撮影監督にとってiPhoneはいまやなくてはならないツールであることを紹介して、トークイベントは幕を閉じた。
