「知的障害児の息子からの誕生日サプライズに涙がとまらなかった…!」自身の経験を活かし、障害や発達に不安がある子どもと親の居場所ができるまで

大好きなミスチルの曲をママの美華さんと連弾するTくんの様子(当時11歳)。

4回目の妊娠でようやく授かった息子さんのTくんに、先天性の知的障害と運動発達に遅れが出ると告げられた、小児発達専門看護師で保健師の佐々木美華さん(47歳)。

後編は、今春から中学生になるTくん(12歳)のその後の様子や家族の最近の心境、美華さんが代表理事を務める一般社団法人『親子発達サポートそーる』の活動などについて聞きました。

特集「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

三度の流産と不妊治療、不育症治療を経てようやく授かった子に知的障害が…。「私には育てられない」子育てで心が崩壊したことも

楽しみを持って活動できる人になって欲しい

小学校入学を機にパパと本格的に始めた、Tくん52回目の登山の様子。「息子は私よりパパのほうが息が合っている気がします」(美華さん)

最近のTくんはどのような様子なのでしょう?

「息子は好奇心旺盛で、水泳や登山なども好きで、小さいころから楽しんでいます。登山は、毎回終わったあとに温泉に入って食事をするのが楽しみみたいで(笑)。先日もパパと出かけたんですが、途中で座り込んだり、山頂で足が痛いって言い出したり…。道中は困ったことも多かったみたいですが、パパがおだててなんとか乗り切ったようです。
パパは息子が大きくなるにつれ、かわいくてしかたない様子で。昔よりずっと子煩悩になりました。しんどくても最後までやり遂げる息子の姿を見ると、本当に小さな一歩一歩ですが成長したなと思います。今後は、富士山に登ることを目標に、楽しみながら続けてくれたらと思います」

Tくんは、たくさん話す様子もあるそうです。

「お世話になっている放課後デイサービスでは、以前よりもスタッフの方によく話しかけているようです。これまでは“○○さんに会いたい”みたいな短い会話だけだったんですが、最近は“あのとき使った○○のほうがいいんじゃない?”などと少し長い会話も話せるようになってきたかなと思います。そうは言っても、文字盤の文字を指差ししたり、音声ツールを使ってコミュニケーションしていることも多いかなという感じです」(美華さん)

誕生日に歌のプレゼントも!

美華さんの誕生日お祝いをする息子さん(当時10歳)。

Tくんが10歳のころ、成長を実感することがあったそうです。

「キーボードに収録されているハッピーバースデーの曲を自分で選んで、私の誕生日に歌ってくれたんです。びっくりして嬉しくて…、涙が止まりませんでした。
息子は音楽が大好きで、とくにミスチルのファンで。『シンプル』という曲を弾いてみたいと3年くらいかけて練習していました。気が散ったり嫌になったり。その過程を振り返るとなかなか大変でしたが、諦めずにコツコツと練習するうちに弾けるようになって。11歳のときに行われた放課後デイサービスの発表会で披露することができたんです。
“楽しい”“できた!”という経験が増えたことで、“音楽が好き”っていう気持ちがますます強くなったみたいです。今後も自分で楽しめることが増えるように、サポートしていけたらなと思います」(美華さん)

私が学んで息子に試しての繰り返し

Tくんの成長を実感するまでには、どのような過程があったのでしょう?

「息子のために私ができることは何でもやろうと、まずは子どもの発達に関することを基本から学びました。講座を受けたり資格を取ったりもして。今思うと、健康な子に産んであげられなかったことへの息子への罪悪感や、成長発達への不安の埋め合わせをしたくて勉強してきたんだと思います。でも、何が息子のサポートに結び付くかわからず、手探りで学び、試して、また学んでの繰り返しでした」(美華さん)

学び続けるうちに、気づいたことも多かったと美華さん。

「障害児の子育ては特別なイメージを持つ方が多いかもしれませんが、子どもの体と心が発達する順番はみんな同じで、健常のお子さんの子育てにもつながっているんだなと気づきました。たとえば、子どもの力を引き出すかかわり方とか言葉がけとか…。一人一人に合わせたサポートは必要だと思いますが、障害の有無にかかわらず、子どもの発達段階に合った遊びや環境を用意したり、かかわりを持つことは大事だなって実感しました。
もし、私が何も学ばずに子育てしていたら、もっと途方に暮れていただろうし、息子に対して辛く当たることも多かったと思います。今もまだまだ勉強中ですが、お子さんの健やかな育ちにつながる大事なことを『そーる』の活動を通じて伝えていきたいです」(美華さん)

2023年の秋、美華さんはTくんとの12年間の歩みや、療育の様子、学んできたことなどを1冊の本にまとめました。

「障害児の子育てでしんどさを感じている方や、お子さんの発達に気がかりがある方だけでなく、さまざまな子育て家庭や支援者の方などの一助になればうれしいです」(美華さん)

発達の気がかりを共有し、サポートする場に!

一般社団法人『親子発達サポートそーる』が主催する、月1回の子育てサロンの様子。

“障害のある子と家族が笑顔でいきいきと暮らせる地域社会に”という理念のもと、2022年『一般社団法人親子発達サポートそーる』を立ち上げた美華さん。

「今は月1回の子育てサロン以外に、月3~4回開催の音楽教室、オンラインでのタッチケア講座や個別相談、支援者向けの研修、法人や子育て支援施設での講演などもしています。お子さんの発達が気になっても周囲に相談しにくく、私のように悩みを1人で抱え込むかたもいらっしゃるんじゃないかと思うんです。子育てサロンは、そういった悩みを専門家に気軽に相談できる場所でもあります」(美華さん)

参加した親子にうれしい変化も!

子育てサロンで子どもが遊ぶ様子。「ハンモックやすべり台、ボールプール、バランスボールや音楽などの遊びを通じて、お子さんの発達をサポートしています。親御さん同士の交流の場でもあります」(美華さん)

『そーる』の活動は、美華さんの子育て経験を活かしていることが特徴です。

「息子の子育てで得たことや医療職の経験に加え、療育や保育園の先生、先輩ママなどから学んだことや自分で勉強したことなどを活かして活動しています」(美華さん)

『そーる』の活動に参加する親子はどのような様子なのでしょう?

「滑り台で遊べなかったお子さんが、サロンで何度か遊んだら公園の長い滑り台で滑れるようになったり、じっとしていられないお子さんや、かんしゃくを上げやすいお子さんが保育園などでしっかり活動できるようになったなどと伺うと“やってよかったな”って思います。これからもみなさんに必要だと思ってもらえる教室を開催していきたいと思っています。活動理念にご理解いただき、協力してくださる方がいらしたら、ぜひお力をお借りしたいです」(美華さん)

タッチケアで成長を後押し

Tくんにタッチケアをする様子。「触れている親御さんへのリラックス効果も大きいんです」(美華さん)

『そーる』の活動の一つであるタッチケアは、障害の有無にかかわらずおすすめだと美華さん。

「タッチケアとは、お子さんのそばに親御さんが座ってひと声かけ、服の上からお子さんの手足や背中など、体の部位に触れるコミュニケーションの一つです。親御さんが触れることでお子さんの体の緊張がほぐれたり、お子さんによっては “ここが自分の背中だな”などと体の部位の感覚がつかめたりもします。忙しい日は1日2~3分でもいいし、テレビを観ながらでもできるので、取り組みやすいんです」(美華さん)

あらゆる療育に力を注いできた美華さんですが、途中で挫折することも多かったと言います。でも、タッチケアは続けてよかったと話します。

「言葉でのコミュニケーションが難しかったので、コミュニケーションツールの1つとして、3~4歳ごろから今も続けているんです。赤ちゃんのころ、ベビーマッサージをしたら息子は火がついたように泣いてしまって…。触られるのが嫌な子ではなかったんですが、触覚が過敏で直接肌に触れられるのを怖く感じたんだと思います。
でも、タッチケアを続けていくとその恐怖感がなくなって。表情も和らいでいくのがわかりました。息子は左手だけじゃなく、右手も動かしにくかったんですが、4~5歳でピースサインができるようになって。さらに、ほかの指も1本ずつタッチケアしていったら、8~9歳で左右の手のすべての指が動かせるようになりました」(美華さん)

成人後の居場所探しも視野に

Tくんの成長を感じる一方で、美華さんには心配事もあるようです。

「中度知的障害と診断が下りていて、今も指先に力が入りにくく、トイレや着替えなどの介助が必要だったり、1人での登校が難しい感じで…。だいぶ1人でできるようになりましたが、間違えないように声をかけたり、自分では難しいところをサポートしています。
小さいころは、気がかりがあっても“頑張ればできるようになる!”と信じて必死に療育したこともありましたが、最近は素直に息子を取り巻く環境に感謝できるようになりました。これからは、息子に合ういい環境で過ごせるように、サポートしていくのが親の役目かなと思っています。息子の持ち前の人懐っこさでいろいろな方とのかかわりをつくって、助けてもらいながら自立していけるようになったらと思っています。そして、楽しみを持って活動できる人になってくれたらうれしいです」(美華さん)

子育てに悩みを持つママやパパにメッセージを求めると、美華さんはこう話してくれました。

「いろいろな親御さんとつながりが持てるSNSは、悩みを共有しやすくて“1人じゃない”って思えていいですよね。その一方で、対面で交流できる方とのつながりを持つことも、本当にしんどいときに家事などを助けてもらえるんじゃないかなって思うんです。どちらのつながりも大事にしながら、つらいときは“助けて!”って発信して欲しいなと。そして、ほかの困っている親御さんにご自身の経験を伝えてもらえたら、多くの方が救われる社会になるんじゃないかなと思います」

取材協力・写真提供/一般社団法人親子発達サポートそーる 取材・文/茶畑美治子、たまひよONLINE編集部

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●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年3月の情報であり、現在と異なる場合があります。

一般社団法人親子発達サポートそーる 代表理事 佐々木美華さんプロフィール

小児発達専門看護師・保健師・一般社団法人親子発達サポートそーる代表理事。一児のママ。
1976年生まれ。大阪府出身。名古屋市在住。大手企業にて産業保健師として勤務後、保健センターで乳幼児健診に携わる。心療内科、産婦人科などで20年以上にわたり看護職に従事。並行して大学院にて多文化子育てサークルの可能性について研究。2009年、修士課程修了。不妊・不育治療を経て2011年、男の子出産。2019年、親子発達応援room Saule(そーる)立ち上げ。
バランスボールインストラクター取得、NPO法人ベビーボディバランス認定講師、BBA(ビルディングブロックアクティビティ)講座修了、PECS(絵カード交換式コミュニケーションシステム)レベル1ワークショップ修了、NPO法人あっとわん ソーシャルプランナー療育コース修了、発達支援コーチ初級中級修了、JABCベビーマッサージ2級講座修了、障害児向けタッチセラピーインターン、
発達障害の理解と発達遊び・身体的アプローチ(初級)講座修了。乳幼児の発達などに関する数々の講演に登壇。新聞、FMラジオなどのメディアからも注目を浴びる。2023年、著書「一歩、また一歩。(Amazon kindle出版)」を出版。現在は障害福祉事業所のアドバイザーや研修講師、乳幼児発達健診の現場で保健師としても活躍中。

一歩、また一歩。: 障害のある息子と刻んだ12年

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