インボイス開始後、初の確定申告で事業者は大混乱?税理士に寄せられた身につまされるお悩みとは

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2023年10月にインボイス制度がスタートしてから初めての確定申告を迎えた。

制度の開始以前より「みんなの税務相談(https://www.zeiri4.com/qa/)※」には「インボイスに登録すべきか」「登録番号の記載はどうればいいか」など、実に多くの相談が寄せられている。

さらに年が明けてからは、インボイスに登録をした事業者から、確定申告に関連した具体的な相談が増えてきた。

インボイス導入に伴い、いったいどんなことに悩んでいるのだろうか。詳しくみていこう。

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●領収書が発行されないフリマアプリは「仕入税額控除」の対象になる?

オークションサイトやフリマアプリで仕入れを行っている事業者から、仕入れ先が個人であることに関連した投稿が寄せられている。

「仕入れでヤフオクを利用していますが、インボイスの領収書が発行されない取引があります。クレカの利用明細でインボイスの領収書代わりになるでしょうか?領収書が発行されなければ仕入れ分の消費税は仕入税額控除にできない、ということはあるのでしょうか」

同様に、EC物販を行う課税事業者は、フリマサイトでの仕入れが匿名取引であることに、手続き上の不安を感じているという。

「課税売上高が1億円以下であれば、1万円未満の少額取引はインボイス不要で、仕入税額控除が可能だと聞いています。メルカリなど相手方の住所等がわからない匿名取引の場合でも、1万円以下の仕入れであれば、今まで通り仕入税額控除ができるでしょうか?」

相談者は、税込1万円未満の少額特例(令和11年9月末まで)の存在を知りつつも、領収書や請求書がない仕入れが、仕入税額控除の対象になるか確証が持てないでいるようだ。免税事業者からの仕入れが仕入税額控除の対象外になってしまうと、売上の消費税から差し引ける税額が減り、コストが増えるのではないかと困惑しているのだ。

海外へ輸出を行っている課税事業者からは「フリマアプリでの仕入れ分の消費税は還付されないのではないか」という相談が寄せられた。

「2022年から輸出をはじめ、2023年に消費税の還付金を受け取ることができました。2023年10月からは、メルカリなどでインボイス登録を行っていない個人からの仕入れは、消費税の還付は受けられないのでのでしょうか」

消費税は国内で消費されるものに対して課税されるため、海外へ輸出する商品は免税となる。そのため国内で仕入れた商品の消費税負担分は、本来申告により還付を受けられるのだが、インボイス導入後は、仕入れ先が免税事業者だと消費税の還付が受けられないのではと心配している。

●交通費のインボイス対応、どうすべき?

交通費の精算についての相談も多い。

ある経理担当者は、出張時の経費精算について、次のように投稿している。

「これまで出張時の新幹線利用に関して、スマートEXご利用票(青い半券)での精算を認めてきましたが、インボイス制度開始後も引き続き利用票での精算を認めて問題ないでしょうか」

この相談者はさらに「利用票にはJRの登録番号の記載はないのでいくらJRと判断できても、別途登録番号ありの領収書を入手しなければ、交通費の仕入税額控除ができないのではないか」と続けている。

スマートEXご利用票をインボイス代わりに利用することに不安を感じている経理担当者からの相談は複数あり、「スマートEXの利用票を領収書代わりにしていると、税務調査が入ったときは不十分なのではないか」「社外同行者の新幹線代を当社で負担したが、スマートEX利用票を領収書として大丈夫か?」といった声が挙がっている。

インボイス制度では、3万円未満の公共交通機関の旅客の運送に関しては、帳簿に記載すれば、交通機関である事業者からの適格確請求書の交付が免除される。だが、仕入税額控除が認められなかった場合、その分の消費税を利用者が負担することになるため、コスト増につながってしまう。コスト増を避けたいのはもちろんだが、確定申告でどう処理をするのが正解なのか、判断がつかないという人が多いようだ。

続いても同じく交通費に関するお悩みだが、業界特有の慣習についてインボイス後の対処を迷っている事業者も多かった。

「運送業界では『運賃+高速料金』で請求する慣習があります。高速料金は実費を請求しますが、内税であるため特に内税の記載はしていませんでした。インボイス後は、高速料金の消費税と消費税抜きの消費税対象額を別にする必要があると思いますが、どう記載すればいいのでしょうか?」

これまで高速料金は消費税と消費税抜き価格で記載する必要がなかったが、もし内税の高速料金+消費税で請求すると二重課税になってしまうため、正しい記載方法がわからないようだ。

また、高速料金のインボイスの保管方法に関する質問も寄せられている。

「ETCクレジットカードの明細を印刷して保管していれば、インボイスとして認められるでしょうか?」こう投稿をしたのは仕事で高速道路をよく利用している個人事業主だ。

これまではクレジットカードの明細を保存しておけばよかったが、それだけでは仕入税額控除の対象外になってしまうのでは、と不安な気持ちを吐露している。

さらに、従業員へ出張旅費を支給する際の扱いについて、相談を寄せた経理担当者は次のように投稿している。

「インボイス制度で出張旅費特例の場合、帳簿に特例の旨を記載しますが、適格請求書がある場合でも、事務処理の簡略化のため特例の旨を使用しても問題ないでしょうか?それとも、特例の使用と使用しないで分けたほうがよいのでしょうか?」

従業員に出張旅費を支給すれば、出張旅費特例によりインボイス不要で仕入税額控除が認められる。この特例はインボイスの交付を受けることが困難であるなどの理由により認められるものだが、特例ありと特例なしを区別しないことで、記帳などの事務処理の簡略化を図れないかと考えているようだ。

●使用したときに課税仕入れにする経費の処理方法は?

今年初めて青色申告を行う個人事業主から、「確定申告の際、郵便切手の消費税をどう処理すればいいか教えてほしい」という相談が寄せられた。

「切手を購入し、領収書は非課税となっているのですが、確定申告ではどのように申告すればいいのでしょうか?会計ソフトには消費税8%と10%の項目がありますが、非課税の項目はありません」

郵便切手は、購入時は非課税と取り扱われ、使用時に課税仕入れにすることができる。ただし会計ソフトには非課税の項目はないため、記載を誤ると仕入税額控除が認められないのではないかと思い悩んでいる。

購入時は非課税と取り扱われる経費に関しては、ほかにも質問が寄せられている。

「贈答用にホテル食事券を購入し、領収書に10%の消費税が記載されていました。商品券や食事券などは、購入時は消費税非課税で課税仕入れにできないと思っていましたが、領収書がインボイスで消費税が明記されているなら課税仕入れにしていいのでしょうか」

郵便切手と同様に、商品券や食事券などは購入時に非課税で、使用時に課税仕入れとして処理することができる。ただし、インボイスが発行されているならば、贈呈用の商品券や食事券でも、仕入税額控除の対象とすることができるのではないか、と期待しているようだ。

このように、多くの相談者において、所得税の経費計上についてはおおよそ理解できているものの、消費税の仕入税額控除の処理について、心許なく感じていることがわかる。

所得税や消費税の申告で間違いが生じると、修正申告が必要となったり、場合によっては本来の税額にプラスして加算税などが追徴されてしまうケースもある。

今年の所得税の申告は3月15日(金)まで、消費税の申告は4月1日(月)までと、期限まではあとわずか。少しでも不安を感じるようであれば、税務署に直接問い合わせるほか、税理士に相談するなどで、生じた疑問を1つひとつ解決し、無事ゴールまで完走していただきたいと思う。

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