JSBIから考える、コミュニケーションから生まれるサステナブル・ブランディング

Day2 アフタヌーンプレナリー
青木茂樹・SB国際会議 アカデミック・プロデューサー/ 駒澤大学 経営学部 教授
Sanam Akhavannasab・オールボー大学ビジネススクール 准教授

JSBI(Japan Sustainable Brands Index)は、生活者から見た企業のサステナビリティへの取り組みやブランドイメージを調査・分析し、2021年からレポートを発表している。併せて生活者のSDGs認知度なども調査しているが、SDGsの言葉自体の認知度は89.8%と高いものの、「内容を知っている」と答えた人は2021年の20.6%から、その後も20%前後にとどまっている。なぜ、生活者のSDGsの内容に対する認知度は上がっていないのか? 本プレナリーでは「コミュニケーション」をキーワードに企業は生活者に向けてどのような取り組みが必要なのかを考察した。

はじめに、企業のサステナビリティへの取り組み状況を測るJSBIについて、なぜこうした指標を作ったか、監修を務める青木茂樹氏が説明した。青木氏によればマーケティングという言葉は約120年前にできたという。長い間、企業が作りたい商品を作り販売する「プロダクトアウト」で市場は成立してきていたが、そこには、欧州では自国で売れない商品は植民地で売ることができ、売る努力の必要がなかったという背景があった。だが、植民地がない米国ではプロダクトアウトだけでは市場は成立せず、消費者の求める商品を開発・販売する「マーケットイン」が必要になったという。

こうした市場の変化を踏まえ、青木氏は「一方で、我々はさまざまな社会課題、地球課題、環境課題を抱えている。企業はCSRに取り組んでいるが、それが目に見える形になっていない場合は『のれんに腕押し』だ」「企業はCSR報告書などを作成しているが、それが成果につながっているのか分からないという悩みもある」などと話し、それらを解決するために「ソーシャルインパクト的に企業活動を評価した指標が必要だと考えた」という。

青木氏

SB国際会議2024東京・丸の内に合わせて発表された「JSBI 2023 Report」は、SDGs貢献イメージと企業の具体的な取り組みを基に算出したSDGs評価得点を合わせて抽出した企業ランキングしている。トップ5には、良品計画(無印良品)、トヨタ自動車(TOYOTA)、ファーストリテイリング、住友林業、クボタが名を連ねた。またレポートでは生活者のSDGs認知度なども調査しており、青木氏は経年変化のグラフを示しながら、「いちばんの問題はSDGsの理解度が進んでいないこと」だと指摘した。「内容を知っている」と回答した数は昨年の21.8%から、19.7%に低下した。

青木氏は「つまり企業活動が、生活者の理解につながっておらず、理解の喚起すらできていないということ。もっと言うならば、生活者が『SDGs疲れ』になっているような状態」だと懸念を示し、続けて「だが、地球課題はまだまだ解決してない。生活者にアクションを起こしてもらうような方法を考えるべき」だと力を込めた。

生活者にアクションを起こしてもらうために企業は何をすればいいのか? 青木氏は、「生活者は、気候変動やエネルギー、平和などの項目を重要視しているが、企業の取り組みが少なく解決していない」と生活者が重要視するSDGs項目と企業が取り組んでいるSDGs項目にギャップがあることを指摘し、生活者のニーズを把握しギャップを小さくする取り組みが必要だと強調した。

消費者エンパワーメントは、地球を積極的に保護するように考えること

青木氏は、「メディアコミュニケーションの力を持ち始めた生活者を企業はどう捉えたらいいのか」と前置きし、自身が客員研究員として在籍しているオールボー大学ビジネススクール(デンマーク)で、消費者エンパワーメントを研究しているSanam Akhavannasab准教授を紹介。Akhavannasab氏は動画で登壇し、「消費者エンパワーメント:持続可能な市場における定義、課題、機会」と題して講演した。

Akhavannasab氏

Akhavannasab氏は、消費者エンパワーメントの過程には、個人のシチュエーションや行動などの「消費者のファクター」と、対応力やエンパワーメント戦略を持った「企業のファクター」、そして「環境要因、市場競争、技術の進歩」などの外部要因があると説明した。SNSなどの情報技術の発達は、消費者が企業の意思決定プロセスをコントロールできるように後押ししているという。

また消費者エンパワーメントには、製品や流通の決定などのマーケティングを変更することができる「社会的な力」と、競合する企業・ブランドの中から選択する「個人の力」という、2つの側面があると説明した。こうした背景や過程を経て、消費者は企業に満足したり信頼を感じたりして、支払い意欲のある行動につながるという。

そのうえでAkhavannasab氏は、消費者エンパワーメントは「グリーンであること」が重要だと強調する。社会はグリーン製品を使用することが重要であると認識し、そういった方向に向かっているが、一方で消費者は市場競争を歓迎しているという課題がある。「企業は、なぜこの製品なのか、どういった特徴があるかなど情報をすべて伝え、消費者に選択の役割と選択の自由を与えることが大切である」と話した。

また企業が消費者同士をつなぎ、コミュニティに参加し、情報を提供し、消費者に力を与えることで、消費者が責任を持って環境により良い行動をとれるように促すことができる。こうした企業の取り組みは、「消費者を受動的な市場プレーヤーから積極的な市場プレーヤーへと移行させるのに役立つ」とAkhavannasab氏は話し、「エンパワーメントは、単に『よし、これだ。これを使わなければならない』と言うことではなく、地球を積極的に保護するように考えることだ」と強調する。

だが、同時に注意しなければならないことがある。こうした手法は、マーケティング分野では新しく現段階ではある種の挑戦であり、単純に消費者に選択を迫ることは、消費者のエンパワーメントの概念とは正反対だという。さらにEUがグリーン移行を実現するために促進している立法措置について言及し、「欧州委員会は消費者が望むときにグリーンな選択をするよう求めているだけだ」と懸念を示した。

こうしたミスマッチは考慮されるべきであり、改善されるべきであるだとAkhavannasab氏は言う。そして「エンパワーメントの概念とそれを作る方法が、消費者をよりアクティブにし、市場でグリーン製品を選択する真のビジネスメーカーに役割を与える」と話し、「研究者と実務家の両方が多くの洞察を得るためにも、継続して深く調べる必要がある」と結んだ。

Akhavannasab氏の講演を受けて青木氏は、消費者の発信力が高まっており、企業はSNSなどへの対応が欠かせないことに触れ、積極的にSNSを使ったカスタマーエンゲージメントをしているかを会場に問いかけた。また、JSBIの調査結果では、10~20代女性の64.2%がインスタグラム、34.3%はX(旧Twitter)で、ファッションに関する情報収集をしていることが分かったと説明。全世代の男女合わせても26.8%がインスタグラムを活用しているという。青木氏は「企業はSNSを活用し、生活者と感情的なつながりをつくることが重要であり、双方向のコミュニケーションでエンゲージメントを高めることが必要だ」とまとめた。(松島香織)

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