デンマークの食肉メーカーによる取り組み――鍵を握るスコープ3の農家支援

Day2 プレナリー
モーテン・ピーダーセン  Danish Crown Group Sustainability Vice President

欧州の伝統的な食文化に欠かせない牛肉や豚肉などを扱う食肉加工業。しかし、畜産にまつわる温室効果ガス排出量は突出しており、業界には強力できめ細やかな気候変動対策が求められている。そうしたなか、世界の食卓に肉を届け続けるためにデンマーク最大手の食肉加工企業ダニッシュ・クラウンはどんな取り組みを行っているのか――。同社のサステナビリティ責任者が語った。

ビデオで登壇したのは、同社グループでサステナビリティ バイスプレジデントを務めるモーテン・ピーダーセン氏。講演の冒頭、デンマークで130年以上の歴史を持ち、世界に拠点を持つ同社を「品質、食の安全、効率性、高い動物福祉基準をもとに、伝統を築き上げた」と紹介した。近年はサステナビリティに焦点を当て、「2030年までに世界で最も持続可能な食肉加工企業になることを目指している」と続けた。

そして話題は炭素排出量に移り、ピーダーセン氏は同社のスコープ1、2、3を合わせた年間排出量が約1万2200トンであることを説明。これは中米パナマの年間排出量約1万2500トンとほぼ同じで、日本の排出量の約0.5%に当たるという。

ピーダーセン氏は「ダニッシュ・クラウンは自社の生産拠点だけでなく、川上と川下も含めてすべての炭素排出に責任を負っている」と強調した。川上と川下とは、農場、物流業者、生産拠点の塗装や資材、包装、機械、原材料などを含むスコープ3だ。

ダニッシュ・クラウンの排出量の93%は農場レベルから発生しており、バリューチェーンの末端である農場の透明性は極めて重要だ (講演資料より)

2018年に設定したSBT(科学的根拠に基づく温室効果ガスの削減目標)では、スコープ1、2は42%、スコープ3では生産量に基づいて20%の削減を目指している。現状、特に排出量が多いのはスコープ3の農場で、なんと全体の排出量の93%を占める。すなわち目標達成には農家との連携が欠かせず、どう農家を支援するかが鍵を握るというわけだ。

これについて、ピーダーセン氏は、同社が気候変動トラックと呼ばれるプログラムを立ち上げ、環境・社会・ガバナンスの各課題について、農家を支援していると報告。なかでも炭素排出量に関しては各農場のデータを見ながら共に削減計画を立て、その進捗状況を追跡しながら進めていると語った。

こうした計画を達成するためのロードマップはデンマークの在来豚用、牛用、スウェーデンの豚用、放し飼いの豚用など約15種類作成されているという。また、大学などと連携してロードマップに組み込める新技術を模索していることも紹介された。一例として、牛や豚の糞尿を貯留したタンクから発生するメタンガスを濃縮して燃やし、その熱で発電するメタン燃焼プロジェクトなどがある。

CO2排出量などのデータは自社で把握するだけでなく、積極的に開示している。例えば、ソーセージなどの加工製品ごとの正確なカーボンフットプリントを算出するモデルを開発し、消費者向けに表示する。その目的は「消費者自らが気候変動を緩和するために何ができるのかといった観点から商品を選べるようにするため」であり、このモデルは今後日本にも導入する予定だという。

ピーダーセン氏は、デンマークでは2025年に企業向け炭素税が導入され、ダニッシュ・クラウンには約1億デンマーククローネ(約22億円)が課される見込みだと明かした。さらにデンマークでは農家向け炭素税も議論されており、排出削減の指標に基づいた融資を行う銀行も増えている。また小売業者からもデータや削減計画の提出を求められているという。つまり炭素排出削減を巡る要請は高まる一方で、気候変動対策に取り組むことは、必要な資金を調達し、製品を販売し続けるために今や不可欠だということだ。

「何か質問があればぜひご連絡ください」と終わりに自身の連絡先を示したピーダーセン氏。さまざまなステークホルダーの声を聞き、連携しようとする企業姿勢が垣間見られた。(茂木澄花)

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