理工系学部の「女子枠」が急増。その背景や効果は?2024年度入試以降の導入が約7割

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理工系学部で「女子枠」を導入する大学が急増している。

メルカリのCEOが設立した公益財団法人山田進太郎D&I財団は3月7日、理工系学部の「女子枠」に関する実態調査の結果を公表した。

調査は、2024年度入試までに理工系学部で女子枠を導入している全国40の大学のうち24大学が回答。

回答した24大学のうち、2024年度から女子枠を導入する大学数は16で、回答した大学のうち約7割にあたる。

2020年度以前に女子枠を導入したのは3大学(12.5%)、2023年度に導入したのは4大学(16.7%)だった。なぜ23年以降女子枠が急増しているのか。

「女子枠」の導入時期:理工系学部の「女子枠」実態調査2024

「女子枠」急増の背景は?

近年、STEM(科学・技術・工学・数学)分野のジェンダーギャップが問題になっている。

15歳時点の学習到達度調査(PISA)で、日本では「科学的リテラシー」のスコアにほとんど男女差はないことが判明している一方、自然科学などの分野に進学する女性の割合は27%、工学部に進学する女性の割合は16%と、いずれもOECD加盟国36カ国中最下位だ。

山田進太郎D&I財団の大洲早生李さんは、理工系学部での「女子枠」急増の背景の一つに政府からの要請があると言う。

「2022年6月 の文部科学省通知『令和5年度大学入学者選抜実施要項』において、『多様な背景を持った者を対象とする選抜』の工夫が奨励されました。その中で特に注目を浴びたのが『理工系分野における女子』の言及でした」(大洲さん)

山田進太郎D&I財団の大洲早生李さん

文科省の通知では、「入学者の多様性を確保する観点から対象になると考える者(例えば、理工系分野における女子等)を対象として、入学志願者の努力のプロセス、意欲、目的意識等を重視し、評価・判定する入試方法」が奨励された。

大洲さんは「やはり政府の声は影響が大きいです」と指摘した。

「オーストラリアの事例を見ても、政府のリーダーシップと予算と5年、10年のアクションプランがセットになり、ジェンダーギャップがグッと是正されました」(大洲さん)

文部科学省の高等教育局大学教育・入試課大学 入試室長の平野博紀さんは、大学教育、大学の研究に多様な価値観が集まることは重要だとした上で、「公平性・公正性を欠く不適切な入試にならないよう、気をつける必要がある」と指摘した。

「まず第一に、合理的な説明をしていただく必要があります。例えば当該分野において特定の属性の入学者が過小であるという理由や背景をどう分析しているのか、当該の属性の受験者が入学後どんな能力を発揮してほしいのか、その能力をみるために、現行の選抜方法や評価尺度と比べてどのような違いを設けるのかなどです。また、選抜区分(枠)を分けて実施することも必要です」

文部科学省の高等教育局大学教育・入試課大学 入試室長の平野博紀さん

「女子枠」導入の効果は?

2024年度の女子枠入試の応募状況を聞くと、非公開等の5大学をのぞく19大学のうち、定員を上回る、または同数程度の応募があった大学は12校だった。

定員を下回ったのは7大学で、いずれも2024年度入試から「女子枠」を導入した大学だった。広報の不足などが影響したと考えられる。

ただし、「女子枠」の効果が出てくるまでには時間がかかることが伺える調査結果も。2016年度入試から導入していた兵庫県立大学工学部では、当時10%だった工学部の女性比率が、8年後の2024年度には15%に伸びたという。

2024年度から女子枠を導入した大分大学理工学部では、13人の女子枠に対して、志願者が21人、合格者は14人出すことができたそうだ。

同学部理工学科の信岡かおる准教授は、「まだまだ種まきの状態」とした上で、「女子枠入試は女子高生に希望を与える制度だったと振り返っています」と述べた。

「女子枠入試を始めるとなった時に、オープンキャンパスなどのイベントに『受けたい』という高校生がたくさんきてくれました。そういう学生たちが出願してくれたんじゃないかなと期待しています」

また、男子学生から否定的な意見は特になかったといい、「先生方もすごい期待している、本当に今は前向きな状態だと感じています」と話した。

大分大学理工学部理工学科の信岡かおる准教授

「逆差別ではないか」否定的な意見にどう向き合うか

入試に「女子枠」を導入するにあたって、大学の内外から「否定的なコメントなどがあった」と回答した大学は45.4%だった。

女子枠に対して「逆差別だ」という声もあるという。こうした声に対し、大洲さんは、「理工系学部に進む女性がバイアスの問題でかなり少なくなってしまっている現状があります」と指摘する。

「差別というよりも、いろんな人たちが自分の力を発揮できるような多様性を重視するということをご理解いただければと思います。財団としても、STEM分野でのジェンダーギャップがなくなって、性別に関わらず誰もが自分の好きなことをやっていける社会につなげていきたいなという風に思っております」(大洲さん)

過去にブリヂストンの執行役員などを務め、現在は旭化成の社外取締役を務める九州大学理事の前田裕子さんは、産業界から理工系の女性を求める声は大きいと指摘した。

「女子枠が良いか悪いかというのは議論にあろうかと思いますが、やはりパイを増やすことが大事だと思います。女性が少ないと、ある一人がそこで力を発揮できなかった時に『やっぱり女性を採ったからこうなった』と言われることもあります。ある程度その数字が増えるまでは、こういう枠を設けるっていうことはありなのかと思ってます」(前田さん)

旭化成社外取締役、九州大学理事の前田裕子さん

山田進太郎D&I財団の調査によると、文理選択に悩む大学1、2年生が最終的に理系に行く背景には、中高生時代に理系やSTEM分野の体験があるという。

「今後は企業や大学と連携し、文理選択前に理系に興味を持つきっかけづくり、接点づくりを進めていきたいと考えています」(大洲さん)

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