伊藤忠が必須化した男性育休取得 「夫婦同時にとるか」「交代か」大議論 「交代」圧倒的に多かった理由は? 専門家に聞く(2)

伊藤忠商事が男性社員の育児休業取得を必須化して話題になるなど、男性の育休取得が加速化している。

そんななか、夫の育休は妻と同時に取ったほうがいいか、交代でとったほうがいいかの議論が起こっているが、働く主婦・主夫層のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2024年2月29日に発表した調査「男性の育休取得が必要な時期はいつ?」によると、「夫婦交代で育休をとる」が半数に達し、「同時にとる」の2倍になった。

いったいなぜ交代でとったほうがいいのだろうか。専門家に聞くと――。

3か月以上の長期の男性育児休業取得を希望する女性が増えた

伊藤忠が必須化した男性育休取得 「夫婦同時にとるか」「交代か」大議論 「交代」圧倒的に多かった理由は? 専門家に聞く(1)>の続きです。

――2022年の調査に比べると、3か月以上の長期の男性育児休業取得を希望する女性がぐっと増えていますね。

川上敬太郎さん 「とるだけ育休」が問題視されてはいるものの、やはり女性は男性が育休取得することの意義を感じています。育休取得の実績づくりが目的のような短期間だけの取得ではなく、それなりの期間を取得して、しっかりと育児して欲しいと考えている女性が多いと感じます。

男性に1年以上の育休取得を求める女性の比率は、2022年比で4.2%から8.5%へと2倍以上に増えました。また、生後8週間以内を希望する人が6割近くに達しているのは、産後休業期間に相当する時期だからです。母体が心身ともに不安定で大きな負担がかかるだけに、最も頼りにしたい時期の1つなのではないでしょうか。

これからの職場は「女性も男性も育休とる」が前提に

――興味深いのは、「夫婦同時にとる」より「夫婦交代でとる」ことを望む女性が圧倒的に多いことです。これは、妻側に「自分がいなくても夫がちゃんとやってくれる」という信頼感があるからなのか、それとも、夫が「取るだけ育休」になり、家でゴロゴロしてサボるおそれがあるからでしょうか。

川上敬太郎さん 特に出産直後の負担を考えると、「夫婦が同時に育休をとる」ことの必要性は高いと思います。一方で、半数近い女性が「夫婦交代でとる」ことを希望している背景には、いろんな思いがありそうです。

おっしゃる通り、同時に育休を取得すると、夫が妻に任せきりになって、「とるだけ育休」に陥ってしまうことを懸念するケースもあると思います。

また、育休取得すると他の社員にしわ寄せがいってしまうような職場や、キャリア形成に影響が出る職場であれば、それらの負担を妻だけが被らないよう公平にしたいという思いや、夫にも育児の大変さを知って欲しいという思いなどもあるようです。

――たしかにフリーコメントをみても、妻側にはさまざまな意見がありますね。川上さんが特に心に響いたコメントはどのようなものですか。

川上敬太郎さん 最適な育児の仕方はご夫婦ごとに異なるだけに、「夫婦で話し合って取り方は自由であればいいと思う」というコメントにとてもうなずきました。

また、育休を妻が取るのか夫が取るのかという視点の一方で、「子供はそれぞれ成長も持って生まれた性格も違うのだから、なるべく子供に合わせるべき」というコメントを拝見して、育児の主体はお子さん自身であるという視点の大切さにあらためて気づかされました。

妻と夫とお子さんそれぞれの視点に立って考えて初めて、最適な育休取得のあり方は見えてくるのだと思います。

――伊藤忠の例もありますが、男性の育児休業取得がもっと日本社会に根付くようにするには何が必要でしょうか。

川上敬太郎さん まずは、各ご家庭の中で性別役割分業意識を払拭することが必要だと思いますが、同時に、職場側にこびりついている考え方も変える必要があると思います。

年次有給休暇の取得などもそうですが、多くの職場は社員に対して休む権利を提供する一方で、社員が休まないことを前提に業務体制を構築しています。

その矛盾によって、一日有休を取得するだけでも他の社員にしわ寄せが行ってしまったりします。しかし、最初から付与された分の有休を取得することを前提に業務体制が構築されていれば、有休を取得しても織り込み済みなので、しわ寄せは生じづらくなるはずです。

男性の育休取得においても、同様のことが当てはまります。職場は女性だけでなく男性が長期間の育休を取得するという前提で業務体制を構築する必要があります。

――今回の調査で、特に強調しておきたいことがありますか。

川上敬太郎さん 女性と男性とでは育休取得率に大きな差があるように、これまで職場の中には、「女性は育休をとるが、男性はとらない」という暗黙の前提がありました。しかしこれからは、「女性も男性も育休をとる」ことが前提になります。

ところが、いまでこそ女性の育休取得率は高い水準にあるものの、キャリア形成においてはマミートラックに陥るなど、ずっと子育てによるマイナスの影響を受け続けてきています。それは、これまで「育休をとらない男性」こそが、働き手の標準モデルだと認識されてきたからに他なりません。

しかし、これからの職場は「女性も男性も育休をとる」ことが前提となり、子育てがキャリア形成にマイナスの影響を及ぼさず、かつ成果を上げられる仕組みづくりがすべての職場に求められていきます。これまでのマネジメントシステムを刷新できない職場は、取り残されていくことになるのではないでしょうか。

(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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