永住許可の取り消し、東京弁護士会が反対声明「差別や偏見の助長を危惧」

永住許可制度の「適正化」などに関する政府方針を議論する自民党外国人労働者等特別委員会=2月5日、東京・永田町の同党本部

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政府が技能実習制度を廃止し、「育成就労」制度を新設するのに併せて、「永住者」の在留資格を持つ外国人が税や社会保険料を納付しない場合などに資格を取り消せるよう制度を見直す方針と報じられたことを受け、東京弁護士会が3月7日に声明を発表した

同会は、新たな制度が「最も安定的な在留資格であるはずの『永住者』の法的地位を著しく脆弱化・不安定化するもの」だと強調し、制度の見直しに反対する姿勢を示した。

税金滞納、1年以下の懲役も取り消し対象に

育成就労制度の導入により、永住許可を得る外国人の増加が見込まれるとして、出入国在留管理庁は、▽故意に税金や社会保険料の未納・滞納を繰り返した場合▽1年以下の懲役や禁錮刑になった場合━に、永住許可の取り消しや資格変更をできるよう、制度を見直す方針と報じられている

入管庁によると、閣議決定を経て、今国会に関連法案を提出する見通し。

東京弁護士会は7日に発表した会長声明で、「政府の方針は、永住者の人々の法的地位を著しく不安定化し、その生活基盤を根底から危険にさらすことを意味する」と警鐘を鳴らした。

加齢や病気、事故、社会状況の変化などの事情によって税金の納付が困難になることは「誰にでも起こりうる」と述べ、「納付の確保自体は必要であるが、永住者に対する納付確保の方法として在留資格取り消しは過度な手段といわざるを得ず、相当性を欠いている」と指摘した。

さらに声明では、永住者以外の在留外国人への影響に関しても次のように懸念を示した。

「このような案を政府が検討すること自体、最も安定した在留資格であるはずの永住者でさえ、経済的に困窮した場合や、わずかでも過ちがあった場合は生活の基盤を奪われても仕方がない、という印象を社会に与えかねない。外国人への差別や偏見を助長することすら危惧される」

日弁連も撤回求める声明

日本弁護士連合会も同日に会長声明を発表し、永住資格取り消し制度や、育成就労制度の問題点を列挙した。

声明では、失業などで税金や社会保険料が支払えなかったり、退去強制の対象には当たらない程度の刑罰法令違反を行ったりした場合には、差押えや刑罰を課すことが現在でも可能だとして、「これに加えて、本人や家族の安定した在留基盤を奪う可能性のある規定は設けるべきではない」と指摘。

「日本を終の棲家とし、あるいはしようとする外国籍者に甚大な影響を与えるものであって、その立法事実の有無などが慎重に検討されるべき」だと述べ、取り消し制度の撤回を求めた。

永住資格取り消しを巡っては、日本で生まれ育った当事者からも「新制度で永住権を失い、家族が離散することになったらと考えると不安でいっぱい」との声が上がる。制度見直しに反対するネットの署名キャンペーンも始まっている

永住者の資格は、法相が永住を認めた場合に取得でき、在留期間は無期限。入管庁の統計によると、2023年6月末時点の永住者は約88万人で、在留資格別では最も多い。

永住許可を受ける法律上の要件として、

・素行が善良である
・原則として日本に10年以上在留、うち5年以上就労か居住資格がある
・罰金刑や懲役刑などを受けていない。納税などの公的義務を適正に履行している
━などがある。

現在の制度でも、「永住者」の在留資格を一度得たからといって、永住許可を受け続けることができるとは限らない。虚偽の申請をしたり、1年を超える懲役や禁錮刑に処せられ強制退去となったりした場合などは、永住権を失う。

【UPDATE】2024年3月8日10:00
日本弁護士連合会の声明の内容を追記しました。

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