男女混合「無差別級」で試合、汗ダラダラ 殴られても痛くない「VRボクシング」

VRゴーグルを被れば、そこはボクシングのリング上。殴られても痛くなく、夢中でパンチを打ち込んで汗ダラダラ......気づけばシェイプアップ! メタバースプラットフォーム「VRChat」にある、ボクシングジムを模したワールド「VRCボクシング練習会」でのひと時だ。毎週木曜と日曜に集まり、試合やトレーニングをしているという。

「ボクシング」と聞くと、興味がある人でも「怖い」「痛そう」などのイメージを持つかもしれない。ただ最近では格闘技というだけでなく、エクササイズとしてジムやゲームに取り入れられ、馴染みやすいものになってきている。VR記者カスマルはペンも剣(拳)も強い記者を目指すべく、練習会に参加した。

マネキンを全力パンチ!......あれ?

ワールドに入ると、遊び方の説明書きが現れた。2種類のモードがあるようだが、いずれも本格的なボクシング体験ができるという。

ボクシング経験ゼロのカスマルでも、本当に楽しめるだろうか。緊張しながら進んでいくと、VRCボクシング練習会・広報の零落クリエさんが会場の説明をしてくれた。

すぐ先に見えるロビーには、VRCボクシング練習会の活動内容を漫画にしたものが飾られている。練習会には外国人のVRユーザーもよく来るので、注意事項は日本語だけでなく英語でも説明してあった。

そのままロビーを抜けると、リングが並んだエリアにやってきた。試合中の人、観戦する人、リング外でトレーニングやウォーミングアップらしき動作をしている人などさまざまだ。いかにも「ボクシングジム」感があり、遠目にも熱気が伝わってくる。

各自ウォーミングアップをしている風景

練習会は自主練がメイン。そのため筋トレ仲間を募集し、ひたすらトレーニングに励む人がいれば、試合を中心に行う人もおり、過ごし方は自由だという。

リングを正面にして右に進むと、初心者向けの解説動画が見られるスペースがある。基本の構えや、パンチの打ち方をここで学ぶ。さらに左に進むと、設置されている「練習会専用アバター」に変更ができる場所がある。なぜ専用アバターを置いているかというと、各ユーザーが使うアバターは、それぞれ腕の長さやサイズが異なるため。リーチ面や体格差で、試合の際に不利になる懸念を解消するねらいがある。グローブも「好きな色で試合を楽しんでほしい」との気遣いから、変更が利くようになっている。

アバターとグローブを整えたら、その隣にあるマネキンを相手にパンチを練習。

練習ができるマネキン

マネキンの横にある「白い四角ボタン」を押すと、「マネキン練習用グローブ」が自動的にはまり、すぐパンチできる。マネキンを殴ると「ボスッ」と音がし、当たっていると合図をくれるらしい。日々の仕事で溜まったストレス、ここで晴らしていくぞ!

現実世界でコントローラーを握っている両手を繰り出し、パンチ。ただ勢いが足りていないせいか、なかなか音が鳴らない。コントローラーを投げ飛ばしそうになるほど、出せる限りの全力で打ってみるも――鳴らない。練習試合を控えているのに、かなり不安だ......。

快音を求めてパンチを打ち続けること、数分。とうとうリングに上がる時が来てしまった! 相手はボクシング経験者で、練習会では初心者指導などに当たっているMiniさん。どうしよう。このままだと試合にならず、充実した記事を書けそうにない......。かくなるうえは奥の手を使うしか!

カスマル「(禁術、人格チェンジ!)」

説明しよう! カスマルには複数の記者の人格が宿っており、特定の条件が揃えば交代できるのだ。今回は試合中だけ、ボクシング歴5年の記者にVRゴーグルを渡してバトンタッチ。練習やウォーミングアップはさせていないけど、大丈夫だろう(よい子はマネしないでね)。

打って変わって自信満々の表情で、リングインするカスマル

試合開始早々、軽快なフットワークで相手との距離を測り始めたカスマル。グローブでガードしている場所にはパンチされてもダメージを受けずに済むので、両者は常に体勢を低くして身構えながら、攻撃のチャンスをうかがう。

やがて、カスマルが動いた! 左腕で軽くジャブを打つ。相手には防がれてしまったが、一発目で注意を引きつけたことで空いた左わき腹をねらい、右手でボディブロー。ただ相手もすぐさま身を引き、パンチは空を切った。ストレートにフック、熱い攻撃の応酬だ! カスマルの動きに「見事にパンチを打ち返している!」と、観客から驚きの声が上がる。VR空間にいるのを思わず忘れるほど、せわしなく立ち回る二人にすっかり釘付けになっていた。

パンチを打っても打たれても痛みは一切ないが、ダメージが蓄積されたり、手痛い一撃が入ったりすると「ダウン」する。その時は一定期間内にコントローラーを激しく上下に振り、復帰しないと負けてしまう。カスマルは中盤、相手から一度ダウンを取ったが、終盤に巻き返され、ギリギリ負けてしまった。

カスマルが「悔しい! でも良い汗をかいた......楽しかった」と満足げにリングから出てきたところで、人格を戻してネタバラシ。VRCボクシング練習会・代表の「とり」さんは、びっくりした様子で、

「VRCボクシング練習会トップ選手と、対等に戦えていて素晴らしかった」

とほめてくれた。ふふふ、それほどでも!

アニメーションではなく実際に動いて試合をする

改めて「とり」さんに取材した。メタバースの世界で体を動かし、心身ともに健康になってほしいとの思いから、ワールドを制作したそうだ。試合では、相手と距離を開けすぎるとパンチが届かず、うかつに踏み込みすぎると攻撃にさらされるので、常に足を動かす必要があり、かなりの運動量になる。「アニメーションでのボクシング体験ではない」のがミソだ。

「階級差」がないのもVRならではの魅力。現在、VRCボクシング練習会には男性ユーザーが多く集まっているという。今回、試合に臨んだカスマルの人格は女性で、「相手の性別や体格がどうか、という点を気にせず戦えた。現実のジムではできなかった体験」と話した。

練習会を立ち上げてから二年半、毎週木曜と日曜に休まず行ってきたことで認知度が高まり、来場者が増えてきたと、とりさんは語る。VRCボクシング練習会での経験をきっかけに、現実世界でボクシングを始めた人も多いという。

ボクシングに興味はあるものの、住まいの近くにジムがなかったり、あっても行く勇気がなかったりする人にとっても、気軽に接点を持ちやすい場所だ。参加方法は、VRCボクシング練習会の公式XにリプライやDMで連絡をすると、案内してもらえる。

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