【レポ】注目の歌舞伎俳優3人が魅せる、京都で上演中の話題作

アニメなどを原作にした新作歌舞伎が全盛のなか、中村壱太郎、尾上右近、中村隼人の平成世代の俳優たちが古典作品に挑む『三月花形歌舞伎』が、現在「南座」(京都市東山区)で上演中。ロマンスありサスペンスあり、そして歌舞伎舞踊の魅力全部盛りの作品ありと、「これぞ歌舞伎!」と言いたくなるような好舞台だ。

左から尾上右近、中村隼人、中村壱太郎(写真提供:南座)

◆ 客席からはたびたび「笑い声」も

今年は、江戸時代に数々の名作戯曲を発表した近松門左衛門の没後300年ということで「松プログラム」(昼公演)は『心中天網島』、「桜プログラム」(夜公演)は『女殺油地獄』と、それぞれテイストの違う近松作品を上演。それに加えて両プログラムで、舞踊作品『忍夜恋曲者 将門』を上演するが、メインキャストの大宅光圀役を、松は隼人、桜は右近が演じる。

3月2日におこなわれた初日挨拶より(左から)中村隼人、中村壱太郎、尾上右近(写真提供:南座)

『心中天網島』は、妻子持ちの治兵衛(右近)と遊女の小春(壱太郎)が心中を決意するも、小春が治兵衛の妻からの手紙に心を動かされ、別れを決める『河庄』の場を上演。心を鬼にして治兵衛に冷たく当たる小春、その態度に激怒しつつもあふれる愛しさを抑えきれない治兵衛、ひそかに2人の様子を見に来た治兵衛の兄・孫右衛門(隼人)の、悲しいすれ違いをエモーショナルに見せていく。

『河庄』左から尾上右近、中村壱太郎(写真提供:南座)

説明だけを聞くと非常に重苦しそうだけど、実際の舞台は随所にユーモアが散りばめられて、客席もたびたび笑いが起こっていた。特にちょくちょく出入りする、善六&太兵衛コンビの絡みはコントのようで、さすが大阪が舞台の戯曲。治兵衛と小春の関係の辛さだけでなく、ここまで純粋な愛を育んでいたことまで浮かび上がらせる、壱太郎と右近の表情豊かなやり取りも見事だ。

◆ 香りを使ったりと、大胆な「舞台演出」にも注目

一方の『女殺油地獄』は、その名の通り殺人事件を描いたドラマ。複雑な家庭環境から放蕩息子となった与兵衛(隼人)が、顔なじみの油屋・お吉(壱太郎)に、亭主の七左衛門(右近)が留守の間に借金を申し込むが、冷たく断られたために刺殺する。この殺人のシーンは、暗闇かつ店の油が床一面に広がるなか、お互いが必死に追いつ追われつするという、非常にスリリングな名場面だ。

『女殺油地獄』中村隼人(写真提供:南座)

前半は、ケンカをしては周囲に迷惑をかけ、借金をしては家族を泣かせて勘当されるという与兵衛のダメっぷりをたっぷりと見せ、後半は彼が衝動的に殺意を芽生えさせ、冷酷な殺人犯となる様が描かれる。ダメなんだけど放っておけないオーラをかもし出す前半と、残酷な行為を楽しむような狂気すらただよわせた後半と、隼人の多面性的な演技が光る。

『将門』は、魔性の者となった平将門の娘・滝夜叉姫(壱太郎)と、彼女の正体を探る武将・大宅光圀(右近/隼人)の対決を、舞を中心で見せる演目。妖艶な滝夜叉姫を演じる壱太郎も、勇猛な光圀を演じる右近と隼人も、前半の近松作品とはまったく違う雰囲気で、同一人物とは思えないほどの演じ分けだ。

『将門』中村壱太郎、中村隼人(写真提供:南座)

また物語の方も、香りを使った演出、一瞬で衣裳が変わる早替え、歌舞伎独特の優美な殺陣とアクロバット、屋台崩しを使った大胆な美術など、「ケレン」と呼ばれる歌舞伎の持ち味が存分に味わえる作品となっている。また松プログラムと桜プログラムでは、ラストの見せ方が大幅に変わっているので、それを見比べるのも楽しいはずだ。

『将門』左から中村隼人、中村壱太郎(写真提供:南座)

「難しい」と思われがちな古典だけど、そのなかでも初心者にも内容がわかりやすく、かつ感情移入できそうな作品を厳選しているので、チンプンカンプンということはまず起こらないだろう(それでも不安な人は、プログラムやイヤホンガイドがある!)。

また若手中心ということもあってか、会場の雰囲気もカジュアルで、まさに「ジーンズとスニーカで観に行ける」のも、気軽に入りやすいポイント。お手頃価格の席もあるので、ぜひこの機会に古典歌舞伎の入口に入ってみて。

『三月歌舞伎』は3月24日まで開催。3月14日までは、昼公演は「松プログラム」、夜公演は「桜プログラム」を上演。どちらも冒頭で、10分程度の口上付き。15日以降は、昼夜の演目が入れ替わる。チケットは一等席1万2000円、二等席7000円ほか、現在発売中(一部完売の回あり)。

取材・文/吉永美和子

『三月花形歌舞伎』

期間:2024年3月2日(土)~24日(日)
会場:南座(京都市東山区四条 大橋東詰 中之町198)
料金:一等席1万2000円、二等席7000円、三等席4000円、特別席1万3000円

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