災害時の性暴力…その根底に「男女格差」 徳島新聞・乾栄里子記者「解決へしつこく書き続ける」

徳島新聞の乾栄里子記者

 災害時の避難生活や防災活動にも女性の視点は欠かせない。「災害と性暴力」をテーマに取材を続ける徳島新聞社の乾栄里子記者は、根本的に解決すべきはジェンダー不平等なのだと説く。「国際女性デー」の8日を迎え、東日本大震災発生から13年の11日を前に、改めて考えたい。

◆語れぬ被害者 メディアも加担してきた

 「災害と性暴力」というテーマで記事を書き続けています。大きなきっかけは2015年。「東日本大震災『災害・復興時における女性と子どもへの暴力』に関する調査報告書」を読み、衝撃を受けました。

 調査は、全国の女性支援団体や有識者などでつくる「東日本大震災女性支援ネットワーク」が約1年かけて被害者や支援者の声を集め、性暴力やドメスティックバイオレンス(DV)の実態を明らかにしました。さらに、性に基づく暴力を支える社会構造や、男女格差に立脚した加害の構図を浮かび上がらせました。

 災害時の性暴力に関する調査はおそらく、国内初でしょう。13年12月に公表されましたが、メディアではほとんど報じられず、私自身も15年まで報告書の存在に気付くことができませんでした。そもそも、災害時の性暴力という視点を持ち合わせておらず、猛省しました。

 平時から女性に対する性暴力はまん延しています。言葉や身体的接触を伴うセクシュアルハラスメント、パートナーからのDV…。災害時にだけ性暴力がなくなるということはありません。むしろ深刻化する可能性があります。

 災害時の性暴力の問題に着目せず、報じてこなかったことを考えると、メディア自体が被害者の口をふさぐことに加担してきたと思いました。

◆女性たちが上げた声で

 ある時、阪神大震災時に支援に当たった女性団体の方に問われました。

 「大震災時にメディアは美談ばかり報道しがちだ。その風潮が被害者の告発をしにくくさせている」

 耳が痛かったです。災害時、メディアが美談ばかりを報じることで「みんなが大変なときに被害の話をするな」「助け合っているときに性暴力なんて起こるはずがない」と言う空気をつくりだしていないでしょうか。そうした空気が被害者をより苦しめていないでしょうか。阪神大震災では性暴力を告発した女性たちを一部のメディアが「捏造(ねつぞう)だ」「デマだ」とバッシングしました。

 性暴力の被害者は平時においてもなかなか声を上げることができません。でも、性暴力を告発する「#MeToo」運動や「フラワーデモ」が全国に広がり、社会が少しずつ聞く力を蓄え、「#WithYou(あなたの声を信じます)」の空気が広がりました。女性たちの声が社会を変えたのです。

 メディアは残念ながら先導者ではありませんでしたが、社会の変化に動かされ、災害時の性暴力の問題を報じるようになってきました。私の住む徳島県では南海トラフ巨大地震が想定されています。被災するだけでも大変な目に遭うのに、女性であるが故に暴力にさらされ、二重、三重に苦しむなんてことがあってはなりません。

 東日本大震災の調査は、性に基づく暴力の根底には平時から続くジェンダー格差があることを指摘しています。根本的に解決すべきはジェンダー不平等なのです。これからもしつこく、しつこく書き続けなければいけないと思っています。

 いぬい・えりこ 2007年徳島新聞社に入社。社会部や政経部などを経て、15年から災害とジェンダーをテーマに執筆している。

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