荻上チキさん「多様なニーズくみ取れる社会を」 避難所運営や防災活動で抜け落ちる女性視点 いま必要なことは

「ジェンダー比率の改善も含め、平時から社会の強みを構築していくことが必要」と語る荻上さん=東京都内(矢部 真太写す)

 災害時の避難生活や防災活動にも女性の視点は欠かせない。政治や社会、文化まで幅広く論じる評論家・ラジオパーソナリティーの荻上チキさんは、平時からのジェンダー平等が必要と説く。「国際女性デー」の8日を迎え、東日本大震災発生から13年の11日を前に、改めて考えたい。

◆「長時間労働=男性」は偏見

 不均衡なジェンダーバランスによって、防災活動や避難所運営に女性の視点が反映されにくくなることがあります。2月に能登半島地震の被災地を取材した際、女性用下着を一家に1枚しか配らなかったり、母乳パッドといった女性用アイテムが入手しにくかったりという話を伺いました。女性をはじめ、障害者や「在宅避難者」ら、多様なニーズへの想像力が働かなくなってしまうのです。

 熊本地震が起き、テレビの報道番組に出演した時、次のような経験をしました。「避難所では、生理用品や粉ミルクなど女性向けの物資が不足しがちになる」と指摘したところ、放送後、男性の著名人にブログで「(生理用品について)男が言うと気色悪い」などと書かれてしまったのです。しかし、必要な支援の周知をちゅうちょさせるようなことがあってはなりません。

 災害時など緊急対応する自治体の部署は長時間労働が避けられないから男性が適任、との声もあります。それも思い込みや偏見で、一つの「神話」です。看護師や客室乗務員など、緊急対応する職業に女性が多いことも多々あります。

 2年前、ウクライナとその周辺国の調査に行きました。難民を受け入れる団体の避難所などを訪問したら、女性の運営リーダーの多さが印象に残りました。日本の避難所は男性のリーダーが目立ちます。ただし、災害時だけ急に女性を招いても機能するはずがありません。町内会長、校長、館長、部局長…。こうした役職に就いている人が、非常時にそのままリーダーになることが多いため、平時のジェンダーギャップの解消が必要です。近道はありません。

◆日々の営みに解決の糸口

 もちろん、単に女性を増やすだけでは不十分です。ジェンダーバランスの改善に加えて、困り事がある当事者が何を必要としているのかを把握し、適切に評価するニーズアセスメントが欠かせません。そうしたニーズは、女性職員がいるだけでは把握できません。女性といっても年齢、疾病、職業など多様だからです。災害時の備えだけでなく、平時から当事者とつながっているようなコミュニティーが必要です。

 阪神大震災が起きたころから、「結果防災」という概念が言われるようになりました。例えば、高台にある神社で毎年地域のお祭りを開催することで避難場所の周知につながるなど、日々の営みが結果的に防災につながるというアプローチです。こうした「結果防災」につながるように、普段から社会の厚みを増していくこと、それによって当事者のニーズをくみ取ることが問題解決のベースにあると思います。

 現状を変えるために、メディアの役割は重要です。報道を通じて、議題を設定し続けること。人々の意識は変えられなくても、議論の優先順位を変えることはできます。神奈川新聞社のような地方紙が、他のメディアよりも粒度高く各自治体の実態を伝えれば、議会などで議論の材料になります。その繰り返しによってのみ、地方民主主義が進むと思います。

 おぎうえ・ちき 1981年兵庫県生まれ。一般社団法人「社会調査支援機構チキラボ」所長。「災害支援手帖」など著書多数。

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