建築へ/国交省が能登半島地震の建築物被害踏まえ対策検討、耐震化急務

能登半島地震の被災地で低層木造を中心に建築物の倒壊や損傷の被害が多発していることを受け、国土交通省が具体的な被害状況の原因分析を通じ現行の耐震基準の技術的検証に当たる有識者委員会を立ち上げた。基礎データを収集するため、日本建築学会が現地での建物被害の悉皆(しっかい)調査を今月上旬に本格的に開始する。新耐震建築物の被害状況を踏まえ、現行基準の妥当性を検証することが主な狙い。被災地域は全国平均よりも旧耐震建築物が多く残されており、効果的な耐震対策を打ち出すことも求められる。
有識者委を設置し同様の調査・分析に乗り出すのは2016年の熊本地震以来。当時は震度7の揺れが2度起きた熊本県益城町の中心部にある全建築物約2300棟を対象に倒壊や損傷の被害状況を調べた。能登半島地震では建物被害がより広範囲にわたっており、石川県輪島市、珠洲市、穴水町の複数エリアを調査地に選ぶ。石川県によると、5日時点で県内の住宅被害は7万8402棟、住宅以外の建築物の被害も1万4935棟に上る。
調査対象のエリア内では建築物の規模や構造を問わず、全棟を▽旧耐震建築物(建設時期が1981年5月以前)▽必要壁量を強化した新耐震建築物(81年6月~2000年5月)▽接合部の仕様などの明確化で耐震基準を強化した建築物(00年6月以降)-の3パターンに分けて確認。国土技術政策総合研究所(国総研)や建築研究所(建研)、ほかの学術機関の調査なども踏まえ5、6月ごろまでに被害状況の分析結果を整理し、有識者委で検証に当たる。
今回の地震で最も被害を受けた能登北部は、耐震化が遅れている地域とされる。耐震化率の全国平均は18年時点で87%だが、輪島市は19年時点で45%、珠洲市は18年時点で51%と大きく下回る。被害拡大の要因につながったと考えられ、現地調査を踏まえ効果的な対策が必要だ。
新耐震建築物の被害事例も一部の学術機関などから報告されているが、まずは詳細な実態把握が求められる。この地域で07年、23年に発生した過去の大地震が既存の建築物に及ぼした影響も再検証する。
もう一つの焦点となるのが、輪島市や珠洲市を含む能登北部で「0・9」と設定されている地震地域係数の妥当性だ。地域係数は設計震度の補正(割り引き)係数として告示で地域別に定められている。熊本地震時も0・8や0・9と設定されていた地域係数の見直しが検討されたが、その大小が要因となって倒壊するような被害は確認されなかったとして見送られた。
そもそも地域係数は構造計算が必要な一定規模以上の木造建築物やRC造、S造などの建築物に適用が限られる。能登北部で圧倒的に多い低層木造建築物は、構造計算ではなく必要壁量などの仕様規定を満たすことで耐震性を確保しており、その場合は地域係数が考慮されないため全国一律の基準となる。
悉皆調査などで木造以外の建築物も含めた被災原因の詳細な分析が必要となる。今回の地震ではRC造建築物の沈下や転倒といった被害も発生した。ただ個別の要因の可能性も大きく、基礎杭や地盤などを調査し影響を分析する方針。地域係数の見直しの検討に当たっては十分なサンプルを集めた上で、被害拡大との関連性を慎重に見極める必要がありそうだ。
耐震基準の抜本的な見直しは、阪神・淡路大震災の被害を踏まえ規定を強化した00年にさかのぼる。熊本地震の被害検証では現行基準が倒壊防止に有効だったと評価され、国交省は旧基準のストックの建て替えや耐震改修を促進する施策を講じた。今回設置された有識者委は秋ごろまでに検討成果を取りまとめる予定だ。

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