斉藤由貴の圧倒的な表現力!愛と希望のあふれる名曲「悲しみよこんにちは」  女優歌唱と呼ぶ斉藤由貴の魅力がつまった「悲しみよこんにちは」

人気アニメ「めぞん一刻」の主題歌「悲しみよこんにちは」

“悲しみ” や “せつなさ” で思い悩むこと、苦しむことはあっても、ここまで受け入れようとする前向きさを感じさせる曲は過去にあっただろうか。斉藤由貴の「悲しみよこんにちは」はまさにそんな曲だ。

“悲しみ” なんてものはない方がいいし、そうした出来事を受け入れることに苦しみ苦悩する人が多い中、この曲はそんな “悲しみ” に対して、 “こんにちは” という言葉で優しく受け止め、傷ついた人々の心をそっと抱きしめる、そんな包容力のある曲だ。“悲しみ” の解釈としては稀有な曲ともいえる。

この曲は1986年にフジテレビ系列で放送されたアニメ『めぞん一刻』の主題歌であり、愛する夫を亡くし、その悲しみをそっと受け入れて暮らす、古い木造アパート・一刻館の管理人 音無響子と、それを取り巻く住人達との物語。作詞が森雪之丞、作曲は玉置浩二、そして、斉藤由貴作品には欠かせない武部聡志がアレンジを担当している。

女優歌唱と呼ぶ斉藤由貴の歌声の魅力

斉藤由貴はBillboardライブの様子を収めたBlu-ray『水響曲』の中で、武部聡志と対談し、自身の歌のことを “女優歌唱" と表現するシーンがとても印象的だった。そう自ら語っているように、ライブで彼女がいったん歌い始めると、それぞれの曲の主人公を演じるように、くるくるとその表情を変えていく。

聴いている私たちは、まるで映画や物語を見せられているかのようで、斉藤由貴の世界にどんどん引き込まれていく。80年代当時は歌うことに対して、あまり乗り気ではなかったという斉藤由貴だが、昨今の表現力は圧巻だ。

ただ、「悲しみよこんにちは」をライブで歌う時は、役を演じるかのように曲に没入するというよりも、斉藤由貴自身のぽわんとしたちょっぴり天然で温かな人柄のまま、素のままに歌っているようにも見えて、思わず笑顔になる。斉藤由貴の歌声は、澄み渡るような純粋さを持ち、神聖な空気を作り出す。

聴いているうちに心が癒やされていくような気持ちになり、リスナーの心に優しい風が吹く。そうしたところが斉藤由貴の歌声の最大の魅力であり、この曲の世界観にはそうしたところもぴったりとハマる。

”悲しみとの上手な付き合い方” をそっと優しく伝えてくれる

作曲した玉置浩二に「悲しみにさよなら」という名曲があるが、この曲では愛する人と痛みを分け合い、支え合うことで “悲しみを手放そう” とする。

けれど、斉藤由貴の「悲しみにこんにちは」は、避けては通れない “悲しみ” に対して、けっして抗うのではなく、“悲しい出来事” すら自然なこととして受け入れていく。“こんにちは” という私たちにとって一番身近で日常使いの言葉の中でも優しい言葉で、静かに受け入れていく表現は秀逸だと思う。そんな素晴らしい歌詞の世界と斉藤由貴の神聖でそよ風のような歌声がリンクすることで、悲しみに希望のようなものを与えてくれる。

悲しみや辛い出来事というものは、人が生きていく上で避けて通れない。それにいつ訪れるかだってわからない。今、年を重ねそんな現実を実感し、この曲を改めて聴くと響き方が少し違ってくる。それは、人生を歩んでいけば行くほど “人との別れ” が増えるからだ。

そうやって悲しみが訪れた時の付き合い方は、年を重ねるとより哲学的に考えるようになる。だから若い頃よりずっとずっとリアルに心に響く。そんな時、この曲は “悲しいけれど、それでもゆっくりと歩いて行こう。そうしたら新しい扉が開かれていくよ” と明るい方へと導いてくれるのだ。そんな愛と希望に溢れた曲だ。

最後になるが、1985年にデビューした斉藤由貴は2月21日に39周年を迎えた。彼女の豊かな表現力を持った歌声が今後も楽しみで仕方がない。これからも長く長く、名曲たちを歌い続けてほしい。80年代のシーンで活躍し、今、女優としても歌手としても輝いているのは斉藤由貴で間違いない。

カタリベ: 村上あやの

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