『大奥』世継ぎ争いにピリオド 小芝風花、西野七瀬、森川葵が見せた三者三様の母の顔

神様は倫子(小芝風花)にどれだけ試練を与えるのだろう。親友のような存在であった付き人のお品(西野七瀬)が愛する家治(亀梨和也)の側室となったことを知らされた直後、倫子は産気づく。それは、幼なじみである定信(宮舘涼太)の差し金だった。

それでも子供が元気に生まれてくれたら、どれだけ良かったか。あまりに早すぎるお産だったため、生まれてすぐに姫君は倫子の腕の中で息を引き取った。季節は巡り、お品は家治との若君を出産。お知保(森川葵)との子か、お品との子か――。『大奥』(フジテレビ系)第8話では、次の将軍がついに決定し、大奥での世継ぎ争いに一旦のピリオドが打たれた。

この国のすべての子が通える学問所を作り、諸外国と渡り合える人材を育てる。そんな家治がつくる未来を見せるため、丈夫に育て守り抜くと誓った子供を亡くした倫子は、来る日も来る日も悲しみに明け暮れる。お品との件で信頼を損なってしまった家治でさえ、取り付く島もないほど、彼女はすっかり心を閉ざしてしまった。

その一方で、お知保とお品にはそれぞれ母としての覚悟が芽生え始める。松島の局(栗山千明)に渡された薬を倫子に盛ろうとしたが、直前で思い留まったお知保。その後も傷心の倫子を気遣うなど、始めの頃から比べると見違えるように思いやりのある女性になった。

それは倫子の寛大さに感銘したからでもあるが、やはり一番の理由は若君である竹千代が生まれたからだろう。純真無垢な笑顔を向けてくれる竹千代に胸を張れる母親でいたいとお知保はきっと思ったのだ。その表情は今までになく穏やかで、慈しみにあふれている。

お品も一度はお腹の中に宿る命を自ら奪おうとしたが、できなかった。子供の父親は自分の愛する人ではない。けれど、自然と子供に対する愛情は湧いてくる。そんな中、田沼(安田顕)と高岳(田中道子)から次の将軍が竹千代になれば、自分の子は生涯、日の当たらぬところで生きることになると聞かされたお品は覚悟を決める。貞之助(小関裕太)や倫子からもらった愛や、その大切な人を傷つけてまで母になった罪を忘れず、子供を守り通すと。

貞之助の名前から強い意志を貫くという意味が込められている"貞”の字を取り、お品の子は貞次郎と名付けられた。これまでも彼女は芯の強い女性だったが、身が引き裂かれそうなほどの悲しい別れを経験し、一段と表情が凛々しくなったように感じる。

そんな中、対立する田沼と松島の両名から、世継ぎ争いを収めるために次期将軍を決め、皆の前で宣言するように迫られる家治。松島の言うように長子継承の習わしに従うべきか、それとも田沼の言うように能力に関係なく生まれた順により世継ぎを決める古き風習を変えるべきか。迷いの中で家治は倫子と久しぶりに夫婦水入らずの時間を過ごす。

千代姫と名付けた亡き姫君の墓前で、家治はその存在を生涯胸に刻み、娘に恥じぬ世を作ると誓った。それまで自分との子はなかったものにされているように感じていた倫子。けれど、家治もまた決して癒えぬ悲しみの中にいて、それでもなお前に進もうとしていることを知った。

「この子が運んでくれた喜びも悲しみも、すべて抱えて生きてまいります」

家治の隣でそう誓った倫子の表情にも母としての覚悟が滲む。小芝風花、西野七瀬、森川葵が三者三様の母の顔を見せた。

そして、家治は「いずれも大切な我が子であり、優劣はない」とした上で、次期将軍に竹千代を指名する。娘に恥じぬ世を作るためにも、家治はこれ以上、田沼に屈するわけにはいかなかった。その覚悟を示すため、脅しの道具として使われてきた田沼の扇子を本人の目の前でへし折った家治。それにしても田沼は悪い顔になったものだ。悪人にはいずれ天罰が下るのが世の定め。その時が自分に差し迫っていることを彼は自覚しているのだろうか。

田沼にトドメを刺すのは定信か。失意の倫子を救った花火は、家治より優れた自分を世継ぎに選ばなかった幕府に一矢報いるために定信が上げた狼煙であった。彼は「妹の分も」と倫子に松ぼっくりを分け与えてくれた心優しき竹千代に次の狙いを定める。無事であってほしいと願うばかりだ。

(文=苫とり子)

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