齋藤飛鳥、乃木坂46時代からのマイルールとその変化 「自分のことを客観視できるように」

2023年10月から12月にかけてMBS/TBSのドラマイズム枠で放送され好評を博した『マイホームヒーロー』が、『映画 マイホームヒーロー』として帰ってくる。家族思いでミステリー好きの会社員・鳥栖哲雄(佐々木蔵之介)が、愛する娘・零花(齋藤飛鳥)の彼氏を殺してしまい、その彼氏が所属する半グレ犯罪組織と“命がけの騙し合い”を繰り広げたドラマ版。その7年後が描かれる映画では、哲雄が山中に埋めた死体が発見されたことから、哲雄が再び、警察、そして半グレ犯罪組織と対峙することになる。父の罪を知らずに刑事になり、事件の真相に迫っていく娘・零花を演じたのは齋藤飛鳥。ドラマでは大学生だったが映画では刑事となった零花の役作りや共演者との撮影時のエピソード、そして乃木坂46を卒業し新たなスタートを切った2023年以降の活躍について、齋藤に話を聞いた。

ーー連続ドラマ版の放送タイミングでも取材させていただきましたが、映画では舞台が7年後になり、零花が警察官になっているなど大きな変化がありました。

齋藤飛鳥(以下、齋藤):すごく変わりましたね。ドラマは思ったより出番が少ないなと思いながら観ていたんですが、映画ではガッツリとフィーチャーされていて。「こんなに零花ちゃんが出てくるんだ!」と私自身が一番驚いていました(笑)。

ーー冒頭から激しいアクションシーンにも挑まれていましたね。

齋藤:何度もスタッフの方に聞きに行って、なんとか……。アクション自体ももちろん大変だったんですけど、やったことのない動きでしたし、キックボクシングもいかに“普段からやっている感”を出せるかが大変でした。

ーー具体的にどのような準備をされたんですか?

齋藤:食事制限とかはしませんでしたが、痩せないことを意識しつつ、実際にキックボクシングの映像を見て、撮影に入る前から練習やトレーニングを重ねていました。今までは等身大の役を演じることがほとんどだったので、私自身もすごく新鮮でした。ただ、冒頭のアクションシーンでは、零花ちゃんが7年間でどういうふうに変化したかを見せなければいけなかったので、私の動きでちゃんと伝えられるのか、映画が完成するまではものすごく不安でした。

ーー確かにドラマから観ていた視聴者に対しては、その説得力が必要ですよね。齋藤さんがアクションに挑まれているのはかなり意外でした。あまり見たことがないなって。

齋藤:確かにあんなに機敏な動きをしたことはないですね(笑)。映像を観たら「ここはもうちょっとこうすればよかったな」とかはあるんですけど、久しぶりに(佐々木)蔵之介さんにお会いして、「あのアクションすごくよかったよ」と褒めていただけたので、満足しています。

ーードラマではあまり絡みのなかった間島恭一役の高橋恭平さんと今回共演シーンがありましたが、ドラマ・映画を通して実際に共演してみていかがでしたか?

齋藤:高橋さんにとって、恭一という役を演じることは挑戦なのかなという雰囲気があって。現場でも監督に質問をしたり、相談をしている姿が印象的で、すごく一生懸命向き合っていらっしゃるんだなと思いました。あとこれはあとで聞いた話なんですけど、ちょっとした空き時間とかに全然私に喋りかけられなかったみたいで……(笑)。

ーー本人がそう言っていたんですか?

齋藤:いや、スタッフさんを通じて「なんか喋れないみたいだよ」と言われて、「私のことが怖いのかもしれないですね」と返しました。

ーー(笑)。齋藤さんから話しかけることはなかったんですか?

齋藤:もちろん挨拶とかはしますけど、(人見知りということもあって)私から話しかけることは普段からあまりなくて……。蔵之介さんと(木村)多江さんも、向こうからフランクに話しかけてくださったんです。家族の役でもあるので、高橋さんとの関係性とはまたちょっと違いますが、寄り添った会話をしてくださったおかげで距離が縮まったと思います。

ーー映画で最大の見どころとなるのは、犯罪者となってしまった父・哲雄(佐々木蔵之介)と、犯罪を許さない刑事となった娘・零花(齋藤飛鳥)の葛藤と愛情です。

齋藤:ドラマのときよりも、演じるのがさらに難しかったですね。普通の女の子だったらもっと動揺すると思いますし、父親のことを一瞬で嫌いになると思うんです。でも零花ちゃんは警察ですし、お父さんに愛情をかけられて育ったのも自覚している。お父さんが罪を犯したことがわかっても、零花ちゃんはお父さんに対して失望することはないなと思ったので、あまり動揺を前面に押し出すようなお芝居をしようとは思いませんでした。何があっても必ずどこかに芯がある女の子だと思うので、そこを意識して演じました。

ーーそういった“芯がある”部分は、齋藤さんご自身とも近い部分があるのかなと感じました。

齋藤:零花ちゃんはすごくカッコいいところがたくさんあるので、そう見えていたら嬉しいです。

ーー齋藤さんは自分の中で何か曲げられないもの、こだわりはあったりしますか?

齋藤:えー、なんだろう……。グループにいたときは特に強かったですね。自分の中での“アイドルルール”みたいなものがあって、ルールからはみ出すのは絶対にしちゃいけないことだと思いながらやっていたので、結構がんじがらめで活動していたなと、卒業してから思うようになりました。こういう取材の受け答えひとつとっても、私は表に出すことの美しさよりも、出さないことの美しさを感じたがるタイプだったので、それをいろんなことに当てはめていったら、いつの間にか“何も答えない人”みたいになっちゃって……(笑)。

ーーグループ時代に取材させていただいたこともありますが、なんとなくわかる気がします(笑)。

齋藤:その節はご迷惑をおかけしました(笑)。そういうふうに自分で自分の首をしめたことはたくさんありましたね。

ーーそれが卒業してから変わってきた?

齋藤:そうですね。多少そのルールを自分で緩くしたりはしています。けど、根本はそんなに変わってないです(笑)。やっぱり自分の見せたい部分、見せたくない部分ははっきりしているので。

ーー自分自身を客観視することを意識しているところもあるんですかね。

齋藤:そうですね。10代の頃は自分のことを客観視できるようになりたいとずっと思っていましたし、それは今でも意識していることかもしれません。ファンの方が私に何を求めているかはわからないですけど、それをわかろうとすることは好きでしたし、イメージって、どれだけ私が頑張って作っても、基本的には見た人が決めることだと思うので。だからどんなイメージを持たれたとしても、しめしめと思っていました。「へ~。あの発言でそう思うんだ~」みたいな感じで楽しんいでましたね(笑)。

ーー2023年は5月に卒業コンサートもありましたが、個人での活動が本格化し、新たなスタートを切る1年になりました。

齋藤:あっという間の1年でした。卒業してからはゆっくり過ごすつもりで、みんなにも「しばらく働きません」と言いふらしていたんですけど、意外と働かせていただきました(笑)。

ーーそうですよね。てっきりしばらく休まれるのかと思っていました。

齋藤:実は半年くらいは何もせずにどこかに行こうと思っていたんです。「本当に探さないでくださいね」と周りの人にもずっと言っていたんですけど……どこかで騙されたんですかね(笑)。

ーー(笑)。

齋藤:でも、いざ働かせていただくと、やっぱり楽しくて。このタイミングで1人になって、そのありがたみを実感し直すことができてすごくよかったなと思いますし、ちょうどこの『映画 マイホームヒーロー』を撮影していたのが、卒業コンサートのちょっと前だったんです。そのタイミングで、愛をテーマにした作品で、蔵之介さんや多江さんをはじめとするベテランの方々と横で並んでお芝居をさせてもらえる機会をいただけて、本当に貴重な経験をさせていただいたなと思いました。そういうありがたみを感じられる1年でした。

ーー以前のインタビューでは特に目標は定めないというお話をされていましたが、それは今も変わらないですか?

齋藤:それは変わらないです。主演をやりたいとか、こういう役をやりたいとか、この監督に撮ってもらいたいというような夢は特にないので、自分自身が楽しいと思えることと、自分の周りの人が楽しいことさえ守れれば、働いていても働いていなくてもいいかなって。とにかく穏やかに生きていければいいなと思っています。

(取材・文=宮川翔)

© 株式会社blueprint