母は強し(3月8日)

 90歳を超えた巨匠の新たな看板シリーズと言えよう。山田洋次監督の「母」3部作は吉永小百合さんを迎え、子どもへの無償の愛を描く▼第1作「母[かあ]べえ」は終戦間近の重苦しい空気が覆う。文学者の夫は思想犯として特高警察に逮捕された。主人公は代用教員となって家計を支え、娘2人を育てる。希望を失わず、愛情を注ぐ。戦禍に負けていられない―。強い意志が胸を打つ。第3作「こんにちは、母さん」のDVDが先頃、発売された▼母親は災害にも立ち向かう。郡山市のグループ「ママカラ防災」は、震災の経験を生かし、子どもを災禍から守ろうと結成された。各地で開くワークショップでは、子育て中のママさんが非常乳児食作りを覚え、備蓄品の準備を学ぶ。非常時は、小さな命が真っ先に危険にさらされる。会場に集う顔は真剣そのものだ。あす9日には鏡石町で催す▼吉永さんは震災後、県内を度々訪れている。詩の朗読を通じて被災者を励まし、原発事故の早期収束を祈ってきた。「母べえ」を地で行く献身に感謝は尽きない。13年前の厄災は地域や家族が互いに気遣い、支え合う大切さを教えた。お母さん任せでなく、「チチカラ防災」もお忘れなく。<2024.3・8>

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