「女だから」「年だから」と自分も他人も縛らないで。LiLiCoが日本のジェンダー平等について思うこと

LiLiCoさん

世間を騒がすイシューからプライベートの話題まで、LiLiCoさんがホンネで語り尽くす本連載。今回は、3月8日の国際女性デーにちなみ、「日本におけるジェンダー平等」について語っていただきました。LiLiCoさんは今年、女性のエンパワーメントとジェンダー平等の推進を行うHAPPY WOMANで、個人賞「HAPPY WOMAN賞」を受賞しました。

18歳で来日したばかりの頃、1990年前後の当時、共働き率の高いスウェーデンから一転、男性が家事や育児に関与せず、外へ仕事に出る女性が少ない日本の光景に驚いたそう。そこから30年余り、LiLiCoさんは日本のジェンダー平等や多様性はどのように変化したと感じているのでしょうか。

ジェンダー平等、LiLiCoが感じる変化

ここ10年、日本でもようやくジェンダー平等が進んできたと思うようになりました。一番進化を感じるのは、5年ほど前から赤ちゃんを抱っこしたり、ベビーカーを押したりするパパたちをたくさん見るようになったこと!

私が生まれ育ったスウェーデンを含む北欧は世界幸福度ランキングで上位ですが、そこでは「当たり前」だったこうした光景が、日本でも見られるようになり、自然と笑顔になります。「育児は女性のもの」という考え方は、過去のものになりつつあるのでしょう。

男性が育児に関わる様子だけでなく、女性もまた自分のしたいことをできるようになってきていると感じています。日常的な面でも、飲み屋さんで女性同士が楽しく飲んでいるのも気持ちがいいし、ジムなどで体を鍛える女性も増えましたよね。2015年にTV番組の企画でボディビルを始めたとき、実はすごく反響があって、視聴率も高かったんです。だから、私も少しでも貢献できていたら嬉しいですね。

「子どもを産むことがすべてじゃない」といった内容の記事やニュースもよく見かけるようになり、子どもを持たない選択肢も広まっているように感じます。

20年ほど前、私も「LiLiCoは子どもを産んでないから何もわからない」と言われたことがあったけれど、みんなが子どもを産める身体ではないと知られていないことも本当に残念に思いました。今そういう決めつけをする人は前ほど多くはないと思いますが、もう二度と聞きたくない言葉です。

「我慢するのが美しい」時代だった?

私が日本にきた1988年頃は、まだ「我慢するのが美しい」と思われていた時代だったのではないでしょうか。女性が、子育てがひと段落した後に職場に戻るための環境が整っておらず、仕事をしたくてもチャンスがありませんでした。日本は年齢で判断することも多いですよね。

つい先日、一緒に仕事をしたことのある女性と久しぶりにお会いした時、しばらくお母様の介護をしていたと聞きました。残念ながらお母様は亡くなってしまったのですが、彼女は仕事復帰を決めたそう。しかし、面接では年齢のことを言われたといい、「この業界はそんなに甘くない」なんて一言も。最終的には以前働いていた会社の社長さんがまた暖かく迎え入れてくれたそうです。

日本のジェンダー平等は進んではいますが、かなりゆっくり。もちろん、場所や企業、職種によっても大きく違うのでしょう。

テレビの仕事の現場では、番組のプロデューサーやディレクターといった管理職に女性が増えています。スタッフの女性比率も上がり、レギュラー出演している『王様のブランチ』(TBS系)では、アシスタントディレクターのほとんどが女性です。

とても印象的だったのが、スウェーデンにロケで帰ったとき、プロデューサーさんが女性だったことに、父はとても驚きながらも喜んでいたことです。

長年、母から「日本での女性の立場」について話を聞いていたからこそ、変化を感じたのでしょう。私の母は、進学校として知られる両国高校に通い、横浜国立大学を卒業した、とても勉強が好きな人でした。機械設計士の職に就きましたが、当時は「女性ならお茶を配ることから始めなければいけない」と言われていたそう。日本を出てスウェーデンに渡りましたが、スウェーデンの会社でも、機械設計士の女性は母一人でした。

私自身は人のためにお茶を淹れるのは好きですが、母はそれが許せなかった。その愚痴も何度も聞きました。「働く女性」で私が一番に思い出すのは母のことです。もし母が生きていたら、今の日本をどう感じるんだろう?と思いを巡らすこともあります。

身近なところだと、タクシー運転手も若い女性が増えましたよね。運転がうまいので、好きなこと・得意なことを仕事にしようと選んだ人も多いと思います。私は衣装などを入れた重たいスーツケースを持って移動するので、多い時には1日に6回ほどタクシーに乗りますが、そのうち2回は女性の運転手です。

一生忘れられないのは、10年ほど前に男性のタクシー運転手に言われた一言。バラエティに出るなど多忙な生活を送るなか、どうしても先輩の出るミュージカルに行きたくて、事務所にお願いして4時間スケジュールを空けてもらいました。タクシーに乗って「◯◯劇場までお願いします」と伝えた直後に、「いいなぁ、女は昼間から芝居が見られるって。男は働かないといけないからね。女は気楽でいい」と!働いてボロボロになった私が、無理してまで作った時間の始まりが、地獄のような時間になった(笑)。「あ〜この方はそう思ってるのね〜」と思いましたが、疲れがドッときましたね。

「誰かを守る」ことを名目にすれば差別が許されるの?

ジェンダーや多様性に関する意識の高まりによって、ありがたいことに、そうしたテーマのイベントに呼んでいただく機会が増えました。とはいえ、まだ日本には、自分らしく生きるのが難しい状況にある女性も多いのだと感じることもあります。

例えばテレビの世界で、お笑いの有名な賞レースはなぜ男性が中心で、それとは別に女性だけの大会があるのでしょう。女芸人の「女」も、女子アナの「女子」もつける必要があるでしょうか? 欧米にはそんな風潮はありませんよね。

社会全体に偏見の意識が根付いているので、そこで生きる女性たちの中にもステレオタイプ的な考え方が残っている場合もあります。いまだに女性から「恋愛は女性から男性にグイグイ行くのは大丈夫ですか?」と質問されることがあります。「女だから」と自分の行動を抑えなければいけないと思い込む必要なんてないですよ。

ジェンダー平等だけでなく、国籍や障害などにおいても、多様性への理解が足りてないなと思うことが日々あります。

例えば、スウェーデン人である私の本名は、日本では一度口頭で伝えただけでは伝わりません。名前の「アンソフィー」は英語圏の男性名である「アンソニー」に間違えられ、必ず「男性の方ですね」と言われます。

日本では、書類やウェブサイトなどの名前を書く欄に文字数制限があって、私の名前をすべて書き切ることができず、必要な申請ができないことも頻繁に起こります。姓と名に分かれていて漢字やひらがな数文字という「日本の名前」だけが想定されていますが、外国籍や外国にルーツのある人の名前はもっともっと長い場合も多い。書類などの名前の欄を長くするのも、多様性の実現の一つなのにな、と残念に思います。

また、多様性に関するあるトークショーに登壇した際、ショックな出来事がありました。

イベント終了後、サインがほしいと私のところまで来た方がいました。その時の様子をみるに、もしかしたら何らかの障害のある方だったのかもしれないのですが、私がサインをしようと手を伸ばすと、スタッフがその方を勢いよく押しのけたのです。

私は開いた口が塞がりませんでした。多様性がテーマのイベントで、こんなことが起こり得るの?と。その方はよくその地域のイベントに参加しているようで、スタッフの方は「いつも強引だから」と言っていましたが、納得できませんでした。

私は平等でありたいし、「誰かを守る」という名目のもとであれば差別や排除が許されるわけではないと思います。そのスタッフの方にはその場で「多様性って、性別だけじゃないですよ。障害がある人のことやその特性を知って、尊重しようということでしょう?」と話しました。こうしたイベントに関わる人には、たとえ理解が十分じゃないにしても、勉強する姿勢を持ってほしいなと思う出来事でした。

「最高の8年にすればいい」ある女性の運転手との出会い

2023年末の忙しい時期、ある女性のロケバスの運転手さんに出会いました。

撮影からの帰り道で、「今の仕事のままもう一つ免許を取りたいと思っている。でもあと8年で定年を迎えるので、悩んでいる」という話をしてくれました。

その話を聞いて、私は思わず「免許をとって最高の8年にすればいいと思います。やらないで後悔するより、8年間その夢とともに生きられたら素敵なんじゃないかな。そしたら、そのあとに何か続きがあるかもしれないですよ」と伝えました。

そしたら「LiLiCoさんから勇気をもらった」って言ってくれて。偶然の出会いではあったけれど、私はあの方を今でもずっと応援していて、またどこかで巡り会えたらいいなと思っています。

人の考え方は、生まれた瞬間から備わっているわけではありません。日本の文化や社会の価値観のシャワーを日々浴びて育ち、あなたの考え方は出来上がります。「女だから」「年だから」といった自分を縛る考えが本当に思い込みではないのか、改めて考えて、意識して行動してみてほしいです。

どんな性別、国籍、肌の色でも、何歳になっても、自分のやりたいことをやるのが人生を輝かせる一番の方法で、それが叶う社会が実現されてほしい。これから残りの人生を最高のものにしていきましょう!

(取材・文=有馬ゆえ、写真=川しまゆうこ、編集=若田悠希)

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