【霞む最終処分】(26)第4部 実証事業の行方 風評への懸念拭えず 所沢「全国民納得の上で」

実証事業が計画されている環境調査研修所(奥)。市民からは健康への影響を懸念する声が上がる=所沢市

 東京電力福島第1原発事故に伴う除染土壌を再生利用する実証事業が計画されている埼玉県所沢市では、住民に「地元では受け入れ難い」との思いが渦巻く。その根底にあるのは、かつての経験から湧き上がる風評被害への懸念だ。環境省は住民合意の糸口を見いだせずにいる。

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 計画の発表を受けて2022(令和4)年12月に発足した「所沢への福島原発汚染土持ち込みを考える市民の会」は、住民の合意を得ていないとして実証事業の中止を求める街頭デモを繰り広げた。昨年4月と今年1月には計6716筆の署名を集め、市長宛てに提出した。安全の判断基準の提示、市民向け説明会の実施に向けた環境省への働きかけなどを要請した。

 代表の村上三郎は、計画が示されたのを機に除染土壌に含まれる放射性物質の性質などを学んだという。土壌の運搬や保管に伴う周辺住民らの年間追加被ばく線量が1ミリシーベルトを超えないようにするとしている環境省に対し、「私たちは自然界の放射線などで日常的に被ばくしている。さらに上乗せするのか」として、少しでも健康面で不安が感じられる状態では受け入れられないと訴える。

 所沢市民には風評被害に悩まされた苦い過去がある。1999(平成11)年に野菜から高濃度のダイオキシンが検出されたと報道されたのを端緒に、全国から野菜の安全性に疑いの目が向けられた。地域に暮らす人々には、少しの誤解が大きな被害を生み出しかねないとの警戒心が染み付いている。村上は「市民は風評に敏感になっている。だからこそ国と東電が責任を持って、全国民を納得させた上で処理の方法を考えるべきだ。単に除染土壌が所沢に来なければいいという問題ではない」と持論を語る。

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 市民の声を受け、昨年3月に「住民合意のない再生利用事業は認めない」との決議を全会一致で可決した所沢市議会。決議は南相馬市小高区と飯舘村長泥の実証事業に触れ、「近隣に民家が立ち並ぶ住宅の近傍での実証事業の例はない」とした。

 決議文の原案を手がけた市議の小林澄子は「市民から不安の声が多く上がっている。実証事業を受け入れることは到底できない」と言い切る。

 一方、環境省は県外での最終処分の実現に向けた再生利用は、福島県外でも取り組む必要があると強調する。地元住民の合意が前提になるとした上で「丁寧に説明を尽くす。国民的な理解醸成に全力を挙げる」としているが、理解の深まりは現時点で見通せていない。(敬称略)

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