“普通の子”がお年寄りを躊躇なく殴る「刹那の狂気」 闇バイト「現場に行ったら無我夢中」少年らを突き動かすもの

筆者が知る限り「闇バイト」に手を出して捕まらなかった者はいない(Graphs / PIXTA)

先月、全国で相次いだ広域強盗(いわゆる“ルフィ事件”)のうち、広島で起きた事件の実行役に懲役14年の判決が言い渡された。この事件では、モンキーレンチで頭を殴られた被害男性が重度の後遺症を負っている。

闇バイト強盗の報道を見て「見ず知らずの人をあんなに簡単に殴れるなんて」と驚くかもしれないが、彼らの中には事件にかかわるまで「人を殴ったことなんてなかった」という者も少なくない。

筆者は、法務省更生保護就労支援事業所長や保護司に加えて、ノンフィクション作家の立場で、闇バイト従事経験者と面談してきた。その中で、実際に「タタキ」(強盗)に従事した少年(犯行当時17歳)に聞いた話は、筆者に少なからず動揺を与えた。それは、犯罪現場で求められる刹那の判断をリアルに語ってくれたからだ。

「現場に行ったら無我夢中ですよ」

――どんな仕事だったか

「俺らはタタキをやらされました。ターゲットの店の社長が、夜間に売上金を持って帰るから、それを奪えという指示を与えられました」

――暴力も辞さずに奪取しろということか

「はい。俺はタタく役割じゃなかったんですけど、タタく(役割の)やつが、現場でブルっちゃって(怖くなって)タタけなくなった。すると、指示役とつながっている電話で、『代わりにお前がやれ』と言われて……そこからは、無我夢中で殴りました」

――相手は何歳くらいの人

「そうですね……60代か70歳くらいじゃないですか」

――殴ったらどうなった

「一発で倒れました。すると、運悪く通行人が居て、近づいてきました。そこで、とっさに(被害者を介抱している体を装い)、『大丈夫ですか』と声かけしながら、バッグを奪いました。人が集まりだしたので、混乱に紛れて逃げました」

――金は指示役に届けたか

「いえ、事前にカネは500万円あると言われていたのですが、150万円ほどしか入っていなかった。これじゃあ、分け前も少なくなる。リスク犯したのは俺なんで、全額持ち逃げしました」

この少年は、防犯カメラの映像で特定され、後日逮捕されている。もちろん、犯行時少年だったこともあり、保護処分を受け少年院送致された。

――捕まると思わなかったか

「半々ですね。でも、指示役の(電話の)プレッシャーが半端ないんで、現場に行ったら無我夢中ですよ」

気づいたら重大犯罪の「加害者」に

現代社会では、SNSの普及により犯罪誘発の機会が無数に存在する。「お金が欲しい」→「掲示板、X(旧Twitter)を検索」→「闇バイト募集広告を見る」→「応募」→「犯行」という偶然の機会選択から、重大な犯罪に従事する意図を持たない青少年でも、気づいたら重大犯罪の加害者になってしまう。これが闇バイトの怖さである。

このことは、冒頭“ルフィ事件”の実行犯だった青年(犯行当時21歳)の証言が生々しい。以下、RCC中国放送の2024年2月10日の記事を参考にする。

起訴状によると、「ほかの数人と共謀して広島市西区にある時計等買取専門店の店舗兼住宅に押し入り、住人男性を殴るなど親子3人にけがをさせ、現金や腕時計などあわせて約2700万円相当を奪ったとされた」事件である。

青年は、最初から闇バイトを選択したわけではない。借金苦から追い詰められて闇バイトという機会を選択しなくてはならないと思い込むようになっている。

「借金を返すまでに日付がなかったことや、周りに囲い込まれ、どんどん “闇バイト” の方に行ってしまったのだと思います」

「帰り道に臓器を売ったりすることや、初めて “闇バイト” を検索しました。“闇バイト” だったら借金を返せるんじゃないかと思って、どういう仕事か調べることにしました」

機会を選択した青年は、「犯罪にならないのならやりたい」と回答。しかし、従事した闇バイトは強盗であった。

「今までそんなこと(人を殴ったり蹴ったりすること)をしたことは一度もないし、普通に考えてできないと思っていました。考えがまとまりませんでした。逃げたいけれど、人のことも殴れないし、どうしようと。どうしようと思っていたら現場に着いてしまいました」

闇バイトを選択した青年の末路

この「人を殴れないと思った」と語った青年につき、検察側は、「被害者に暴行を加え積極的に行動した」と、論告求刑時に述べている。

筆者が話を聞いた前出の少年の談、「現場に行ったら無我夢中ですよ」という主張と重なる。

SNS上で犯罪誘発の機会に誘引され、犯罪を「選択」した青年の末路は悲惨である。

裁判では「暴行を加えて被害者を制圧する強盗の計画を分かっていたのに報酬のために実行に加わったことは強く非難されるべき」などとし、懲役14年の判決が言い渡されており、安易な「選択」の代償はあまりに大きい。

筆者が知る限り、「闇バイト」に手を出して、捕まらなかった者はいない。

警察庁資料が物語る「闇バイト」の深刻さ

警察庁が2月上旬に公表した犯罪統計資料(2023年1~12月分確定値)で「刑法犯 罪種別 認知・検挙件数・検挙人員」 を見ると、強盗事件が明確に増加傾向にあることが分かる。

強盗事件の認知件数は1361件(前年比+18.6%)で、検挙件数は1232件(前年比+16.2%)、検挙された人員数は1601人(前年比+21.1%)検挙された少年は329人(前年比+40.0%)と、いずれも増加している。

特に少年の検挙人員数は、前年比+40.0%と著しく増加しており、その背景に闇バイトの存在があることは想像に難くない。

ちなみに、2023年の特殊詐欺発生状況は、認知件数1万9033件、被害額約441.2億円と昨年に続き増加(それぞれ前年比で8.3%、19.0%の増加)となり、深刻な情勢が続いている(警察庁「令和5年の犯罪情勢」今年2月公表)。

「春休み」に潜む“落とし穴”

闇バイトは、ルフィ事件以降、犯罪色が濃くなっているようにみえる。

昨年11月、台東区上野の宝飾店に3人組で押し入ったのは、18歳の少年と16歳の男子高校生だった。翌12月、埼玉県久喜市の住宅強盗では、16歳から18歳の男子高校生4人が、住人の女性を包丁やバールで脅して現金を奪っている。

強盗は特殊詐欺と異なり、実行犯のトレーニングの時間が不要であり、今日募集して明日にも犯罪遂行が可能な犯罪である。

少年の犯罪対策は、待ったなしである。「うちの子に限って」「大都市圏だから事件が起きるんでしょ」などという無関心が犯罪を増幅させる。無知無関心は犯罪の温床となる。

特に、これから春休みに入る。大学の後期試験や受験から解放された若者、春からの入社を待つ卒業生は、気の緩みから闇バイトに巻き込まれないよう、注意してもらいたい。

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