M&A売却希望の社長「仲介業者、なんだか信頼できない…」と不信感。納得の着地を目指す方法は?【公認会計士が解説】

(画像はイメージです/PIXTA)

経営者の方がM&Aを検討するとき、「この仲介業者の助言は、本当に正しいのだろうか?」という不安を感じることがあるかもしれません。ここでは、M&A仲介業者の「助言の妥当性」の判断のほか、セカンド・オピニオンの取り方、公認会計士や弁護士といった専門家から有効なアドバイスをもらう方法について、M&Aにくわしい公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

依頼したM&A仲介業者、どうも信頼できない…

生徒:いま、自分の会社をM&Aで売却しようとがんばっています。ですが、依頼したM&A仲介業者が、どうも信頼できなくて…。しきりに価格を下げようとしてきますし、相手側に有利な条件へと誘導されているような気がします。仲介業者の助言が本当に正しいのか、不安です。

先生:だったら、M&A専門家のセカンド・オピニオンを入手すべきですよ。

生徒:M&Aにセカンド・オピニオンがあるのですか?

先生:ありますよ。M&Aを行おうとしている経営者が、M&A仲介業者と契約を締結するとき、また、M&A仲介業者から受けた助言の内容の妥当性を検証したいときに、ほかのM&A専門家の意見や助言を求めることができます。

生徒:なるほど!

先生:中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」によれば、2つのタイプに分けられます。ひとつは、支援を受けようとするM&A仲介業者の同業者による意見や助言です。これを「狭義のセカンド・オピニオン」といいます。

生徒:M&A仲介業者はたくさんいますから、ほかにいい業者がいるかもしれません。しかし、同業者に意見や助言を求めると、悪口ばかり聞くことになるのでは…?

先生:そうですね。同業者から仕事を奪い取ろうと考えますから、当然です(キッパリ)。

生徒:えええ…。

先生:そこで、もうひとつのタイプのセカンド・オピニオンを活用します。これは、M&A仲介業とは別のM&A専門家による意見や助言です。たとえば、中立公正で独立の立場にある公認会計士、弁護士、行政が運営する事業承継引継ぎ支援センターによる意見や助言です。これを「広義のセカンド・オピニオン」といいます。

生徒:M&Aなんて人生で一度きりの話です。正直、むずかしくて…。どのM&A仲介業者がわが社にとって最適なのか、M&A仲介業者から受けた助言の内容が正しいのか、悩んでしまいます。でも、信頼できるM&A専門家から中立的で客観的な意見や助言を得られるなら、安心してM&Aを進められそうです。しかし、なぜ公認会計士や弁護士の先生が、中立的で客観的な意見や助言を提供してくれるのでしょう?

先生:公認会計士の場合、法律で独立性が規定されています。たとえば、公認会計士第1条は、下記のように書かれています。これは会計監査だけでなく、税務業務や経営コンサルティングにも適用されるべきものです。

【公認会計士法第1条】

公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする。

守秘義務を課されている、士業の専門家なら…

生徒:セカンド・オピニオンを受けようと思っても、M&A仲介業者から渡された契約書には「ほかのM&A専門家に今回のM&Aの話をしてはいけない」と書かれています。どうすればよいのでしょう?

先生:M&A仲介業者に依頼するときには、業務委託契約を結ばなければいけません。その際、M&Aに関する希望条件を明確に伝えつつ、業務内容や報酬について十分に理解するため、セカンド・オピニオンを受けるとよいのです。しかし、M&A仲介業者との契約書には、情報管理などの観点から、他のM&A専門家からセカンド・オピニオンを受けることが禁止されているはずです。

生徒:そうなんです…。

先生:確かに情報管理の観点からは合理性があるのですが、公認会計士や弁護士などの士業のM&A専門家には、職業的専門家としての守秘義務が課されていますので、情報漏洩の心配はありません。ですので、契約書の内容をよく確認し、セカンド・オピニオンを受けることができるよう、M&A仲介業者には契約書の修正を依頼したほうがいいでしょう。

専任条項を設けるなら、期間は最長でも「1年」とすべき

生徒:事業を譲り受けてもらう相手探しをするときは、できるだけ多くの候補先の情報がほしいと思っています。しかし、M&A仲介業者の業務委託契約書には「専任条項」という規定があり、ほかのM&A仲介業者やファイナンシャル・アドバイザーに並行して相手探しを依頼することが禁止されていますが、なぜでしょう? 1社専任では、候補先の情報が足りないのではないでしょうか?

先生:複数のM&A仲介業者が同時に相手探しを行えば、情報が一気に拡散してしまいます。また、譲受け側となり得る同一の候補先へ、複数のM&A仲介業者が提案を持ち込めば、混乱するだけでなく、情報漏洩リスクを感じた候補先の心証を害してしまうことになるでしょう。そのため、提案ルートを一本化するために専任条項が設けられるのです。

生徒:それでも、ほかのM&A仲介業者やファイナンシャル・アドバイザーが、別のいい候補先を見つけてきてくれる可能性がありますよね? 情報漏洩のリスクより、最適な候補先を見つけられる可能性を優先したいです。

先生:その場合は、契約したM&A仲介業者と同業のM&A仲介業者やファイナンシャル・アドバイザーへ、ほかの候補先がいないか、セカンド・オピニオンを求めることが効果的です。これが「狭義のセカンド・オピニオン」です。

生徒:仮に期間を区切って1社専任でお願いする場合も、長期間縛られてしまうと困ります。

先生:専任条項を設けるなら、その期間は6ヵ月とすべきでしょう。最長でも1年以内です。それで十分です。当然ですが、依頼者が自由に契約を中途解約できることを、契約書に明記しておかなければいけません。

生徒:わかりました。業務委託契約書をもう一度読み直します。ありがとうございました!

岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

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