経営者である父親が認知症を発症したことをきっかけに、遺産のことが気になり確認したところ、衝撃の事実が発覚します。疎遠だった兄の嫁が、驚きの行動をしていたのです…。MJリサーチ綜合探偵社取締役で相続診断士である若梅秀孝氏が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
父親が認知症を発症。その後、驚愕の事実が発覚
今回の相談者は、弁護士の紹介で弊社を訪れた森田さん(男性・52歳)です。
森田さんは次男ですが、父親(81歳)の会社を継ぎ、経営者として忙しい毎日を送っています。ある日、父親が認知症を発症したことを知り、遺産のことが気になって確認したところ、驚愕の事実が発覚したため弁護士に相談しました。父親には、7億円以上の資産があります。
「私が何も知らないうちに、兄の奥さんが、父に公正証書遺言を作らせていたのです。その内容は、私が父から引き継いだ会社の株の大半を、兄の娘に相続させるというものでした。父がそんなことを望むはずがないので、すごく驚きました」
森田さんの兄は父親と折り合いが悪く、20代前半で家を出てからはほとんど実家との交流がありませんでした。結婚して娘が生まれたことは知っていましたが、娘を連れて実家に遊びにきたことは一度もなかったので、森田さんの父親は娘に会ったことさえありません。兄嫁とも結婚報告の際に、一度面識があるのみです。……父親が、会ったこともない兄の娘に、自分が長い年月をかけて大切に築き上げてきた会社の株の大半を譲りたいと思うはずがありません。
公正証書遺言は法的効力を持ちますが、「父親が認知症を発症していたことを証明できれば、無効にできるのでは?」と考えた森田さんは、弁護士にアドバイスを求めたのです。
認知症の父親を陰で操る長男の嫁…資産に対する執着心がすごい
父親に遺言書を書かせた長男の嫁はどのような人物なのでしょうか。森田さんは、数回しか会ったことがないという兄の奥さんの印象について、こう話します。
「服装も化粧も派手で、エルメスのバックやカルティエの腕時計など、高価なブランド物を身に着けていたことを覚えています」
この話を聞いて、遺産目当てで資産家の高齢男性と結婚する「後妻業の女」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。他人の資産に執着する人の多くは、高価なブランド品や外車などの贅沢品を好みます。
兄の奥さんは、兄が「資産家の長男である」ことを知り、父親の財産を狙って兄と結婚したのかもしれません。実際、父親にお願いして、自分の娘に毎年100万円の生前贈与を送ってもらっていたことも発覚しました。
弁護士からのアドバイス…探偵の素行調査による戦略とは
森田さんは「父親が認知症を発症していたことを証明できれば、遺言書を無効にできるのでは?」と考えて、弁護士にアドバイスを求めましたが、公正証書遺言を無効にすることは可能なのでしょうか。
遺言書の有効性は、遺言書を作成した時点の判断能力(法律用語で「遺言能力」という)の程度により判断されます。認知症を発症していても、軽度の場合は、遺言能力があると判断されることもあります。
裁判などの法的紛争に発展した場合、遺言書を作成した時点の遺言能力を証明する客観的な証拠が必要です。例えば、医師が作成した診断書などです。しかし、森田さんが、父に遺言書を作成した時点の診断書が残っていないか確認したところ、その頃は病院に行っていなかったので診断書はないとのことでした。
森田さんは父親の症状について、こう話します。
「父とは普通に意思の疎通ができるので、診断書があったとしても、遺言能力がなかったと認められるのは難しかったかもしれません」
そこで、弁護士が提案したのが、探偵社に依頼して、長男の嫁の素行調査を行うことです。長男の嫁は、公正証書遺言や生前贈与など、後妻業の女が使う手口と酷似した方法で、遺産を手に入れようとしています。このようなタイプの人の素行調査を依頼することで、さまざまな問題行動が発覚することを、弁護士は過去の経験則から知っています。例えば、旦那に内緒で高級品を購入している、ホストクラブで豪遊しているなどです。
まずは、長男の嫁の問題行動を長男に知ってもらうこと、そして長男とともに父親に遺言書の書き直しをしてもらうことが、森田さんの父親の真の意思を汲んだ遺産相続を実現するために有効な戦略となると弁護士は判断したのです。
素行調査で明らかになった“嫁の問題行動”
森田さんから依頼を受けて、長男の嫁の素行調査を実施したところ、弁護士の予想どおり、問題行動が明らかになりました。
こちらが、長男の嫁の素行調査の結果です。
10時56分:家を出る
11時11分:最寄り駅から電車に乗る
11時32分:電車を降りる
11時39分:駐車場に入る
11時45分:ベンツに乗り、車を発進
12時25分:デパートのレストランに入る
12時55分:レストランから出てくる
13時01分:デパート内のネイルサロンに入る
14時27分:ネイルサロンから出てくる
14時35分:デパート内の高級ブランド店に入る
14時56分:紙袋を持って店から出てくる
15時02分:他の高級ブランド店に入る
15時21分:紙袋を持って店から出てくる
15時25分:デパート内の食料品売り場で総菜を購入
15時35分:ベンツに乗り、車を発進
16時28分:駐車場に付き、車を降りて駅に向かう
16時34分:最寄り駅から電車に乗る
17時06分:帰宅
長男の嫁は、自宅の最寄り駅から4駅離れた駅の駐車場からベンツに乗っていました。不思議に思った森田さんが、兄に「奥さん、ベンツを運転するんだ」と言ったところ、車の運転はしないとのこと。
探偵に素行調査を依頼したことは伏せておいた方が無難なので、「奥さんがベンツを運転するのを見かけたけど」と伝えたところ、後日、兄が奥さんを問いただし、兄に内緒でベンツを購入し、自宅から離れた場所の駐車場を契約していたことが発覚しました。兄は、相当なショックを受けていたようです。
その後、森田さんは兄から「父の認知症の症状が軽いうちに、遺言書の書き直しをさせたい」という連絡を受けました。そして、無事に遺言書の書き直しが完了しました。
父親が築いてきた会社と資産を守りたい…相談者の切実な思い
森田さんには、父親が築き上げてきた会社を守りたいという強い思いがあります。
「父は長い間、苦労を積み重ねながら、会社を成長させてきました。私は、長年、父のそばで、ともに苦しい時期を乗り越えてきたので、父が築き上げた会社と一緒に働く仲間たちを絶対に守りたい」
遺産目当ての親族は巧妙な手口を使うことも多く、被相続人が大切に築き上げてきた資産を守ることが難しいと感じるケースもあるかもしれません。しかし、今回ご紹介したケースのように、冷静に戦略を立てることで、打開策を見いだせる可能性があるので、諦めないでほしいと思います。
若梅 秀孝
MJ リサーチ綜合探偵社
取締役