川勝知事の「真っ赤な嘘」ゴールポストを動かした決定的証拠|小林一哉 山梨県選出の中谷真一議員が静岡県がゴールポストを動かしていると批判すると、川勝知事はすぐにさま「ゴールポストを動かしたことは一度もない」と反論。しかし、静岡県の資料を見てみると……。

中谷発言に真っ向から反論した川勝知事

中谷氏との面会を求めた川勝知事(静岡県庁、筆者撮影)

山梨1区選出の衆院議員、中谷真一・経済産業副大臣に面会を申し入れたことにについて、川勝平太・静岡県知事は2月26日の会見で、こう話した。

「中谷議員が昨年、静岡県がゴールポストを動かしている云々と言われて、2月23日の富士山の日に甲府市内で中谷議員にお目に掛かったので、こちらの事情を説明する機会をほしい、と言ったところ、(中谷氏が)快諾された。

日程を調整して、わたしの方から出向いて説明をしたいと思っている」

山梨1区はリニア沿線の甲府市、南アルプス町、早川町などが選挙区。

中谷氏は昨年7月28日の自民党山梨県連の会合で、「わたしに言わせれば、(川勝知事はリニア問題の解決を遅らせるために)ゴールポストを動かしている。反対のための反対に見える」と発言した。

中谷氏の発言に真っ向から反論して、直後の8月8日の会見で、川勝知事は「(リニア問題の解決を遅らせるために)ゴールポストを動かしたことは一度もない。有識者会議で出てきた47項目の論点を議論するのがゴールポストである」と明言している。

川勝知事は2月26日の会見でも、「(わたしが)ゴールを動かしているという話があるわけです。これはもう全然違うわけで、47項目のうち、当初は流量だけで、有識者会議が開かれていたので、それだけでゴールと思われた節がある。生態系、残土置き場、それから監視体制の問題、こうしたものが47項目に入っている。

これを全部議論するということが、有識者会議が開かれる前の、国交省との約束になっている。本県が出した47項目の懸念事項は完璧に解消されたわけではない。そうしたことを30分なり、小一時間、説明できれば、おわかりいただける」などと中谷氏と面会する目的を説明した。

新たに4項目を追加

47項目とは、いまから4年前、2019年9月30日、JR東海に示した『引き続き対話を要する事項』の項目数である。

47項目発表の前に、県は同年6月6日に、『大井川水系の水資源確保及び水質保全等に関する中間意見書』をJR東海に送っている。

県の中間意見書に対して、JR東海はすべて回答している。

JR東海からの回答を基に、県は同年9月12日に地質構造・水資源専門部会、13日に生物多様性専門部会を開催、それぞれの委員が意見を出している。

2日間にわたる県専門部会の意見をまとめたのが、9月30日の『引き続き対話を要する事項』にまとめられた。すなわち、47項目である。

簡単に言えば、当時の委員たちの意見をまとめただけで、何ともひどい意見もすべて含まれている。

県はことし2月5日、47項目のうち、17項目は「終了」、すなわち解決している、30項目は「未了」、まだ解決していないとする「成績表」を発表した。

2月26日公開のハナダプラス『川勝知事、リニア妨害シナリオ』でも詳しく紹介した。

この「成績表」をよく見ていくと、『対話を要する事項』のうち、水資源編26項目のうち、17項目は「終了」、9項目は「未了」となっている。

水資源の「リスク管理に関する基本的な考え方」5項目は、すべて「終了」すなわち、解決済みとなっている。

ところが、今回、2月5日配布の記者発表資料を開いてみると、水資源の『今後の主な対話項目』として、何と新たに「リスク管理」4項目が増えている。
当然、この4項目は「終了」ではなく、「未了」となる。

47項目にあった「リスク管理」5項目は解決済みなのに、別の4項目を加えたことになる。これでは、47項目ではなく、「リスク管理」だけをプラスしても、51項目となってしまう。

実際には「リスク管理」以外にも、そのような事例ばかりだ。

このようにお手盛りで課題を増やしてしまうことを、ふつう「ゴールポストを動かした」と言うのである。

その中でも、4番目の「リスク管理」は、中谷氏の地元選挙区である早川町で行われている「高速長尺先進ボーリング」を問題にしている。過去の47項目にはそんな課題はなかった。

ボーリングで出る水は微量

今回の『今後の主な対話項目』には、『山梨県内の高速長尺先進ボーリング、先進坑、本坑の掘削により健全な水循環への影響が懸念されることへの対応について、科学的な説明と本県等との合意(高速長尺先進ボーリングが、県境から山梨県側へ約300mの地点に達する前)』とある。

静岡県は昨年5月、「本県が合意するまでは、リスク管理の観点から県境側へ300mまでの区間を高速長尺先進ボーリングによる削孔(さっこう)をしないこと」とする要請書をJR東海に送っている。

いわゆる、「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」を川勝知事は唱え続けている。

川勝知事は、「山梨県内の長尺高速先進ボーリングは調査に名を借りた水抜き工事であり、JR東海が約束した工事中の湧水の全量戻しは実質破綻する」と脅してきた。

これに対して、山梨県の長崎幸太郎知事は「高速長尺先進ボーリングは調査ボーリングであり、作業員の命を守り、科学的事実を把握するために不可欠。

直径12センチの穴を開けることで出る水はほんの微量であり、静岡県の懸念はあまりにも抽象的だ」と厳しく否定している。

2月29日に開かれた国のモニタリング会議で、JR東海は「山梨県内で山梨・静岡県境に向けて高速長尺先進ボーリングを実施しており、不確実性の低減に向けて地質の確認を行うとともに、ボーリング湧水の水量・水質を測定し、地下の状況を確認している」と説明した。

また、2022年12月11日に開かれた大井川流域市町長と県地質構造・水資源専門部会委員との意見交換会で、丸井敦尚委員(地下水学)は「高速長尺先進ボーリングには、もちろん水を抜く機能もあるが、地質を調べたり、断層がどこから始まるのか、あるいは工学的に崩れやすいので掘ってはいけない、地下水としてはどんな水質、水温でどのくらいの量があるかなどの機能がある」とJR東海と同じ説明をしている。

丸井委員も高速長尺先進ボーリングから出る水量が微量なことも認めている。

それでも、県は新たな「リスク管理」に入れてしまったのである。

川勝知事にレッドカードを

中谷衆院議員(中谷氏のHPから)

現在、JR東海は、静岡県境から手前459mの位置まで高速長尺先進ボーリングを進めている。いずれ、県境300m地点に到達する。そのときに、静岡県は山梨県の高速長尺先進ボーリングに待ったを掛けるはずだ。

そもそも国の有識者会議の議論47項目に、高速長尺先進ボーリングを含めて「山梨県のリニア工事」など含まれていなかった。

「本県が出した47項目の懸念事項は完璧に解消されたわけではない」などと川勝知事は言っているが、「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」は47項目でも何でもない。「47項目」をお題目のように唱える川勝知事にちゃんと次のように言うべきである。

「勝手に、静岡県が『対話を要する事項』に入れた山梨県内の調査ボーリング中止を47項目と認めることはできない」とはっきりと言うべきである。

つまり、「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」は、リニア問題の解決を遅らせるための目的で、川勝知事が「ゴールポストを動かした」だけのことである。

「有識者会議で出てきた47項目の論点を議論するのがゴールポストだ」というのだから、中谷氏は愚直にこの事実関係を明らかにすれば、川勝知事の真っ赤な嘘は満天下にあっという間に広がるだろう。

それも、川勝知事のほうから面会を求めてきたのである。

この絶好の機会に、中谷氏は、公開の場で対決すべきである。そこで、山梨県民を代表して、川勝知事にレッドカードを突きつけたほうがいい。(了)

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小林一哉(こばやし・かずや)

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