『ブギウギ』趣里が中越典子との会話で見せた“許し”の演技 わだかまりが溶けていく感動

スズ子(趣里)は梅吉(柳葉敏郎)の葬儀で、実母のキヌ(中越典子)と再会する。『ブギウギ』(NHK総合)第111話にて、2人が話すのはスズ子が自身の出生を知る第5週「ほんまの家族や」にて無我夢中で駆け抜けた松林だ。

15年。その歳月の中で、キヌの息子2人はすっかり大きくなり、梅吉が香川に戻ってきてからはキヌも写真を撮ってもらったりと付き合いがあったようだ。一方のスズ子は、愛助(水上恒司)との出会いと別れを経て、愛娘の愛子(小野美音)が生まれた。「東京ブギウギ」をきっかけにした“ブギの女王”の名声は、キヌの息子たちが「大ファン」だというくらいに香川まで届いている。かつてキヌを守るようにして、「お母ちゃんのこと悪う言うたら許さんけん」と追い払っていたのがスズ子だとは息子たちは思ってもいないだろう。

スズ子とキヌの会話(芝居)の中で印象的なのは、ところどころにインサートされた間だ。愛子と遊んでくれている息子たちを見て、スズ子が何気なく「お幸せ……そうですね」と言うと、キヌはゆっくりと受け止めるようにして「はい」と答える。続くキヌの「こうしてまたスズ子さんとお会いできてウチはホンマに幸せ者やけん」という返答は、スズ子の意図とは少しずれており、キヌがスズ子を敬うような、言ってしまえば「芸能人と一般人」のような少し距離のある会話に聞こえてくる。同時にそれはキヌの中でスズ子への後ろめたさがあることを表してもいる。それが強く伝わってくるのは、心からは笑えていないキヌの晴れない表情である。

その正体は、ツヤ(水川あさみ)にスズ子を預けたまま手放してしまったことからの罪悪感。そんな自分に「また会いましょね」と再会を約束してくれたスズ子。まるで雲が晴れていくように、キヌの表情には笑みが込み上げてくる。隠そうとしても隠しきれていない喜び。「また」というキヌの言い方も、気恥ずかしさが感じられる。

「あのおばあちゃんは誰? マミーのお友達?」という無邪気な愛子の質問に、スズ子はなかなか答えられずにいる。スズ子にとっての両親はツヤと梅吉という思いがありながら、キヌのことは目を背けていた部分があったのかもしれない。それは「許し」にも似た思いだ。キヌにとっても同じだろう。

スズ子はキヌの背中を見つめ、やがて愛子の目の高さにしゃがみ、「マミーのマミーや」と笑顔で教え聞かせる。その声を聞いたキヌが足を止め、ポロポロと涙を流す。振り返ったキヌの優しく、解き放たれたような表情が忘れられない。スズ子とキヌの会話はそこまで長くも、多くもないが、2人の間に流れる空気や表情の変化(特に中越典子)で15年の月日の長さと互いにあったわだかまりが溶けていく様子を表したのは見事である。

第23週全体で言うと、愛子を演じる小野美音の芝居に筆者は何度も泣かされた。梅吉と六郎(黒崎煌代)の分身のようなカメを可愛がったり、スズ子がかつてキヌから手渡された菊三郎の形見である懐中時計をもらったりと物語のいいアクセントになりながら、表情豊かな愛子を演じていた。第24週「ものごっついええ子や」の予告では大きくなった愛子が映し出されており、小野が演じる愛子としては第23週がおそらくラストになるのだろう。

ちなみに、第111話の終盤から『あさイチ』(NHK総合)の“朝ドラ受け”にかけて話題になっていた“チーン”こと、仏壇の鐘を叩く棒の名前は、りん棒である。

(文=渡辺彰浩)

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