落語協会12年ぶりの抜擢真打・つる子&わん丈に「次の時代を担うふたり」と市馬会長

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一般社団法人落語協会は、3月21日(木) より真打に昇進する林家つる子、三遊亭わん丈の新真打昇進披露会見を6日、都内で開催した。つる子は先輩11人抜き、わん丈は16人抜きの昇進で、落語協会では12年ぶりの抜擢真打になる。

会見に出席した落語協会会長の柳亭市馬は「すでに活躍は目覚ましいふたりだが、この真打昇進を機にまたひとつ上の段階に進んでもらいたい。当人たちも大変に気合いが入っておりますが、気負うことなくやってほしい」と期待を語った。

林家つる子は2010年に林家正蔵に入門。「私は噺家になる前、客席で(ファンとして)寄席を楽しんでいました。その高座にトリで上がらせていただける日が来るのかと思うと本当に感慨深い。また今年は落語協会発足100年の節目の年。より多くの方に落語を知っていただけるような、初めて落語を聞く方にも楽しさを伝えていけるような噺家になりたい。まずは真打披露興行を精一杯務めさせていただきます」と挨拶。

林家つる子

師匠の正蔵は「つる子が何人もの先輩を抜いて昇進という話をいただいた時に、随分と迷いました。まだ二ツ目として色々なことに挑戦し、色々なところで失敗してほしかった」と本心を吐露。「でもありがたくお引き受けしようと思ったのは、自分の経験からです。私の時は真打の昇進試験があり、腕のいい兄さん方が落ちて、私はどういうわけだか受かってしまった。その3日後に志ん朝師匠に呼ばれ鶴巻町のお宅に伺い『流れには乗れ。人生、何度も大きなチャンスは巡ってこない。色々なことを言われるかもしれないけれど、一生懸命やっていれば見ている方には分かってもらえる』と言っていただいた。その言葉を信じ生きてきました。また同じ頃、私より実力もあり賞も取っていた右朝兄さんに池袋の居酒屋に連れていかれ『きちんと抜いてくれよ、あいつに抜かれたんだったらしょうがねえって思わせてくれよ』と言われた言葉も思い出しています。つる子には亡くなった両師匠の言葉が響いてくれればいいなと思っています」としみじみ。

林家正蔵

その正蔵の横で、目に涙を浮かべて聞いていたつる子は「真打昇進のお話をいただきましたその日にも、師匠から『出る杭は打たれるものだから、打たれて強くなればいい』というお言葉をいただき、それを支えにしてきた。この会見の場でも師匠の言葉を聞き、より一層頑張らなければと身が引き締まる思いです」と話した。

三遊亭わん丈は2011年に故・三遊亭円丈に入門、円丈死去に伴い2022年からは三遊亭天どん門下。入門前はバンドマンとして活動していた経歴を持つ。「私は28歳、少し遅めの入門でした。幼い頃から目の前にいる人を喜ばせるのが好きで、そのまま生きていけたらと色々なライブ芸に挑戦しましたが、自分が大成できそうなものをなかなか見つけられなかった。落語に出会った時はこれが最後のチャンスだと思い、亡くなった師匠の円丈に入門しました。落語に人生を救ってもらったと思っています。このまま落語に人生を救ってもらいながら、もう少し経ったら次は私が落語のためにできることをしていきたい。才能ある若い方が落語の世界に憧れてもらえるような真打になっていけるよう精進します」と意気込みを。

三遊亭わん丈

師匠の天どんは「そもそもここに並んでいる人の中で僕だけ抜擢されていない、むしろ(後輩に)抜かれているので、僕から言うことはない」とボヤいて笑いを取りつつ、「わん丈君は『結果を残したい』『売れたい』ということをちゃんと意識していたから、ここまで駆けあがってこれたんだと思う」と分析。「これから披露目が始まりますが、今までひとりで考えていたものが皆さんのおかげで回っていくことも多くなっていく。そうするとまた考え方も変わってくると思う。心配はしていません」とエールを贈った。

記者から新真打ふたりの美点について問われると、市馬は「つるちゃんはこのとおり綺麗な子だから、こんな子が噺家なんていいのかしらと思ったが、本当に最初からよく気が回り、よく働く子だった。わん丈は最近には珍しい、芸人としての図々しさを持ち合わせている(笑)。最近の人はスマートだから“自分が自分が”というのはあまり出さないが、彼はわりと、ずんずん出していく。これ、褒めてるんですよ」。

落語協会会長 柳亭市馬

正蔵も「わん丈君は本当に図々しい(笑)。でも『近江八景』などを聞いていると、古典落語でもお客さんをしっかり掴んでいるし、新作も面白いんです。つる子は自分が美しいことをちょっと鼻にかけるところがあって……(披露興行の)ポスターを見ても、お前何を勘違いしているんだと……。だって中央大学の落研時代の名前が“中央亭可愛(ちゅうおうてい かわいい)”ですよ、バカじゃないの!?」と毒舌たっぷり。「図太いところを持ったふたりだし、力強いパワーがあり、これから伸びていくのがわかる。軸足がしっかり落語にあるのもわかっているから、この世界を飛び出しドラマでもバラエティでも出てほしい。できれば洋服で、今のナリで今のことを語れる人になってほしい」と話した。

また天どんは「つる子さんに関しては、僕は実は中央亭可愛時代に会っています。まだ二ツ目の時に自分の落語会を、当時の落研の子に手伝ってもらったのですが、その時のメンバーはほとんどが落語家になっていて『あの時手伝わせてもらいました』と挨拶してくれたのですが、つる子さんは一度もそのことを言ったことがない。多分(自分に挨拶する)メリットを感じなかったのだと思います。その立ち回りの巧さ、如才のなさがこの抜擢に繋がっているのかな」と、こちらも毒舌調で会見場を笑わせる。

さらに「わん丈君については、僕はフォローしなければいけないですね(笑)。前座になった時から“やらされている”のではなく能動的に動き、具体的にどうやったら近道かを考え、結果を出してきた。師匠の円丈が生前、師匠孝行というのは弟子が売れることだと言っていましたが、わん丈君は師匠孝行したんじゃないかな」と語っていた。

三遊亭天どん

市馬はさらに「つる子も言っていたように、出る杭は打たれるのですが、抜かれた人は今度はつる子とわん丈を抜き返そうと頑張る。そうするとふたりはまた『俺たちは抜擢されたんだから』と奮起する。落語界がいい形で発展していくでしょうし、それがこちらの狙いでもある。次の時代を本当に担うふたりなので、私はこの先が楽しみで仕方ありません」とも。新真打ふたりへの期待がたっぷり詰まった会見は終始和やかに進んだ。

真打昇進披露興行は3月21日(木) の鈴本演芸場より始まり、4月の新宿末廣亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場、5月の紀尾井小ホールまで続く。

取材・文・撮影=平野祥恵

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