解任されたウクライナ軍総司令官、駐イギリス大使に任命へ

ジェイムズ・ウォーターハウス、ジョハナ・チゾルム、BBCニュース(キーウおよびロンドン)

ロシアによるウクライナ全面侵攻が始まる以前からのウクライナ軍の総司令官で、先月解任したばかりのヴァレリー・ザルジニー氏(50)について、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7日夜、ウクライナの駐イギリス大使に任命すると明らかにした。

で、イギリスのグラント・シャップス国防相らとキーウで会談したことについて報告した上で、ザルジニー氏のイギリス大使任命を承認したと明らかにした。

「ザルジニー将軍は、この方向へ進み、外交に取り組みたいのだと言っている」。大統領はこう言い、ウクライナ外務省が手続きを進めていると説明。これによって「我々とイギリスとの同盟関係はさらに強化される」と述べた。

ウクライナの外務省は同日、ザルジニー前総司令官の大使着任について、イギリス側に承認を求めたことを明らかにした。

ザルジニー氏は2021年7月、ゼレンスキー大統領によって、複数の年長者を飛ばして、軍の総司令官に抜擢(ばってき)された。兵士の間で人気が高く、ゼレンスキー氏の政治的なライバルになり得るとみなされている。

ウクライナの駐イギリス大使は、ゼレンスキー大統領を表立って批判したヴァディム・プリスタイコ氏が昨年7月に解任されて以来、空席となっていた。

ゼレンスキー氏は2月8日にザルジニー総司令官の解任を発表。当時は、ザルジニー氏の支持率が大統領を上回っており、二人の間に不和が生じているのではないかと、うわさされていた。

大統領はザルジニー氏の後任に、オレクサンドル・シルスキー陸軍司令官を任命。シルスキー将軍は攻撃でも防衛でも経験豊富だと、大統領は評価した。

外交経験のないザルジニー前総司令官にイギリス大使の立場を与えるのは、戦争での貢献を報いる人事なのか、何かしら政治的駆け引きの要素があってのことかは不明だ。

ただし、ゼレンスキー大統領自身が2019年に当選するまで、コメディ俳優やテレビ・プロデューサーなどとして国内で名声を得ていたものの、政治・外交経験はほとんどなかった。

ウクライナ政治では、政党や政策マニフェストより、リーダーを目指す人物の知名度やカリスマ性が重視されることが多い。

駐イギリス大使任命についてはまだ手続きが残っているものの、ザルジニー氏自身は着任に合意していることが、BBCの取材で分かった。

これによってザルジニー氏はウクライナを厚遇する同盟国の首都を拠点に、大統領の政策を代弁することになる。それに伴い、ザルジニー氏は本国でゼレンスキー氏の人気を奪うことがなくなり、大統領はウクライナ経済を守りながら大勢の兵士を動員するという厳しい課題に取り組める。

ゼレンスキー大統領はザルジニー氏を解任した際、軍のリーダーシップに「刷新」が必要だとしつつ、ザルジニー氏が「チームに残る」こともあり得ると述べていた。

他方、イギリス政府は7日、1億2500万ポンド(約237億円)相当の追加軍事援助を発表。1万機以上のドローンをウクライナに提供するという。イギリスはすでに今年に入り、包括的軍事援助の一環として2億ポンド相当のドローン提供を約束している。

キーウ訪問中のシャップス英国防相は、この追加支援を発表し、イギリスの同盟諸国にも同様にウクライナへの武器提供を増やすよう呼びかけた。

ウクライナはこのところ、西側の軍事援助が届かないこともあり、ロシアの侵略に対して苦戦している。

ウクライナのルステム・ウメロフ国防相は2月下旬、「現時点では、(武器供与の)約束は実際の配達につながっていない」と批判。「我々は可能な限りのことはして、不可能なこともしているが、時宜にかなった(兵器の)提供がないと、私たちは不利になる」と述べた。

(英語記事 Valerii Zaluzhnyi: Ukraine to appoint ex-army chief as UK ambassador

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