年間6万人来館も400万円の赤字…劣化進む震災遺構『持続可能』目指すには 福島

記憶の風化が進む中、今年は能登半島地震が起きるなど、震災以降も各地で災害が相次いでいます。災害の教訓を伝える重要性は年々増していますが、いま、福島県内の伝承施設では難しい運営を強いられています。

津波の爪痕が今も残る、福島県浪江町の請戸小学校。震災の記憶と教訓を後世に伝える県内唯一の震災遺構として、2021年10月に一般公開されました。

浪江町生涯学習課・渡邊祐典さん「2階のベランダに青い看板があって、横に白い線が引いてある。あの高さが津波の高さになります」

町の職員で、施設の管理を担う渡邊祐典さん。この日は、岩手県一関市から来た団体に、津波の被害の大きさや避難の大切さを伝えていました。

請戸小学校が震災遺構として一般公開されてから、およそ2年半。当初、年間3万人の来館を目標にしていましたが、教育旅行や防災研修など県内外から多くの人が訪れていて、今年度は目標の倍の6万人の来館を見込んでいます。順調に運営しているようにも見えますが、いま、大きな課題に直面しています。

渡邊さん「人件費や維持運営費、消耗品費などがあって結果としては「赤字運営」という形になっている」

400万円の赤字 さらに施設は劣化

昨年度の請戸小学校の収支の状況をみると、入館料収入が約1300万円なのに対し、人件費、光熱水費など支出は約1700万円にのぼり、年間400万円近い「赤字」となっているのです。さらに、この施設特有の事情も経営を圧迫しています。

渡邊さん「保健室を見ていただくとわかるんですけど、津波の被害を受けてから13年という年月が経過して、元々天井からぶら下がっていたのがさらに落下の恐れがある状況になっている」

吹きさらしの施設は、長い年月の経過とともに、劣化も激しくなってきました。

渡邊さん「現在進行形で風化している状況も含めて震災遺構として公開しているが、来館されたお客様の安全に危険が及ぶ状態は避けるため、必要最低限の修繕、補修は行っていかなければならない」

2019年3月、浪江町で校舎の保存が議論された際、経営は厳しい状況が見込まれていたものの、町は赤字を覚悟のうえで「命を守る教訓」を後世に伝え続けることを決めました。

渡邊さん「指定管理者制度があるので、その制度を活用して民間の事業者のノウハウなど活用させていただきながら、より多くの人にこの請戸小学校に来ていただけるような魅力ある事業をやってほしいなという風に考えている」

町は、来年度にも指定管理者制度を適用する方針で、民間のノウハウを活かしながら収支状況の改善に繋げたいとしています。

動き続ける原子力災害 展示に悩む施設も

一方で、展示に悩む施設もあります。双葉町にある「東日本大震災・原子力災害伝承館」は、年間8万人が訪れる施設です。

原発事故の被害や廃炉に向けた取り組みなど、現在進行形で動き続けている福島の災害。刻一刻と変わる現状をどう展示していくのか、模索が続いています。

東日本大震災・原子力災害伝承館 佐藤伸司さん「いま動いている災害と、それに対する対応を伝え続けていくというところが伝承館の存在意義なので、常に新しい今起きていることをどう展示していくのかというところはなかなか大変な部分」

今年2月、伝承館では変化する状況に対応するため、常設展示をリニューアルしました。このなかで「日本全体で考えるべき課題」として中間貯蔵施設の展示を充実させました。

佐藤さん「今何が起きているのかをしっかりと展示していき、展示も、語り部によるお話という点でも、常に新しく今を伝え続けていく、そういったことが大事なんだろうなと思っている」

震災の記憶と教訓を伝え続けるために。それぞれの施設で、努力と模索が続いています。

© 株式会社テレビユー福島