【レポート】DIR EN GREYのShinyaソロプロジェクト・SERAPH、天から大地へ

DIR EN GREYのドラマー、Shinyaのソロプロジェクト「SERAPH」が、2月24日に東京大手町三井ホールにて<Shinya Birthday Event - SERAPH Concert 2024「Writhing of Tanah」>を開催した。

もはやお馴染みとなったSERAPHのコンサート。来場者も例年以上に落ち着いた雰囲気で開演を心待ちにしている様子だ。それもそのはず、例年コンサートの後に行っていたSPECIAL TALKを今回は第1部という形で先に行ったのだ。Shinyaが毎週更新しているYouTubeチャンネル、Shinya Channelでもお馴染みの藤枝マネージャーの進行により始まり、今回のイベントのために制作された豪華景品つきの特別な謎解きゲームやクイズ、そしてファンからの質問に答える質問コーナーなど、Shinyaと共に非常に濃密な時間を過ごすこととなった。詳細な内容については参加者だけのお楽しみなので、気になる方は次回開催の際は是非SPECIAL TALKも堪能していただきたい。

さて、和やかな空気感で終わりを迎えたSPECIAL TALKから、会場には少しずつ緊張感が漂い始める。もちろん不穏な空気感、というわけでなく、これから始まる第2部のコンサートに向けて期待と焦燥が入り混じった、心地よい緊張感である。なんせ、既に見えているステージ上には見慣れぬ楽器がある。それだけでも今までとは違うステージが見られるのだろうと否が応にも期待してしまうのだ。

そしていよいよ開幕。照明が落ち会場は漆黒の闇に包まれる。小川のせせらぎ、鳥達の鳴き声が響く中ステージがほのかに青く照らされる。まるで夜明けの密林のよう。そしてインドネシアの楽器、レインスティックが鳴り響く。名の通り雨音のようなその音色はより一層その景色の解像度を上げる。そしてステージ中央にMoaが登場。エメラルドの光に照らされたその姿はまさしく天使のよう。熾天使SERAPHの片翼の降臨である。

レインスティックに続いてMoaが演奏するのはガンサというインドネシアのガムラン音楽で使われる楽器の一種。その透明感のある響きには一種の神聖さを感じる。厳かな緊張感につい背筋が伸びる。そしてマリンバの音が重なり、ビートが刻まれる。そしてついにSERAPHのもう片翼、Shinyaが登場する。そしていきなり度肝を抜かれる。なんとShinyaがピアノに座ったのだ。前回のコンサートでもラストの一曲でサプライズ的にピアノを披露し、話題を呼んだが今回は初めからピアノを弾くというのだ。

マリンバ、ガンサの音が止み、ピアノのゆったりと、しかし堂々とした旋律が場を支配する。華やかなヴァイオリンの音が加わり、世界がひらけていく。そして全ての旋律が重なり合う。ガンサの伸びやかで凛とした豊かな響きがピアノやヴァイオリンといったクラシカルな西洋楽器と混ざり合い、新たな音の世界を創り出している。その幾重にも重なる音、ゆっくりと一定のリズムで表情を変える照明演出、まるでいくつもの生命が目覚めようとしている様子だ。「Overture IV -Opening-」と題されたこの曲はまさに夜明けの曲。我々の居た東京から遠い異国の地へと誘ってくれた。

そんな衝撃的なオープニングからの次曲は、セットリストでも最後に演奏することの多い「Kreis」。初っ端から全く出し惜しみをしないその姿に感嘆の声を上げそうになるが、ここはSERAPHのコンサート。グッと堪えて一心にその音楽を受け止める。メロディラインは歌ではなくマリンバが奏でる。予想を裏切り思い切ったアレンジで楽しませてくれる。実に憎い演出だ。

メロディラインを奏でるのがマリンバから歌へと切り替わり、より深みのある展開を魅せてくれる。ここまでの流れにガツンとやられてしまい、眩暈がしそうになるが続く楽曲は「Génesi -Writhing of Tanah ver-」。引き続きShinyaはピアノ、歌はなく、ガンサ、ヴァイオリン、カホンと非常にシンプルな構成だ。以前のコンサートで聴いた重奏的なイメージとは印象が違うが、華やかさは健在で、楽曲としてのポテンシャルの高さが伺える。

そんなことを思っていた矢先、なんと曲中にShinyaとMoaが立ち上がり、Shinyaはドラムに、Moaはピアノへとポジションをチェンジしたのだ。一気に厚みのある聴き慣れたSERAPHのスタイルになり、明るく、広く、天空を感じさせる照明によって楽曲のラストに向け圧巻の盛り上がりを見せる。

SERAPHのコンサートはクラシックスタイル。楽曲が締まると拍手が咲き乱れる。興奮冷めやらぬ内に続くのは「Uisce」。Moaが情感たっぷりにピアノを奏で、Shinyaはその陰で静かにその時を待つ。“Remember the pain”痛みを思い出して、の歌詞と共にリズムが変化し激しさを増す、目まぐるしく変わる照明、荒れ狂う波のように光と音の応酬が観客を襲う。その迫力にはただ息を呑むことしかできない。

先ほどまでのまるでバリ島にいるかのようなリラックスした雰囲気からは一転、海は恵を与えてくれる一方、時に我々に牙を向くのだと思い出させる。そしてまた美しく優雅なドラミングへと続く。その緩急の付け方が見事である。優雅さと激しさ、一見相反する二つの要素が同居するまさにShinya自身を体現したかのような楽曲だ。

マリンバを抜いた三人編成で次に奏でるのは「Abyss」。DIR EN GREYの楽曲でも度々耳にする特徴的なドラムフレーズが楽曲をリードする。Shinya独特のメロディを奏でるようなドラムフレーズをより高解像度で楽しめるのもSERAPHのコンサートの醍醐味である。

「SERAPHにお越しくださってありがとうございます」とShinyaが口火を切ったMCでは「いつもは映像があるけど、今回は照明のみで世界観を表現したい」「今回はアジアをテーマにしています」「いつもは最後にやる「Kreis」をあえて頭にやってみました」など、今回のコンサートについて解説する。

緩い雰囲気のトークもそこそこにMoaと2人のみで演奏するのは「Lovshka」。キレ味の鋭いドラミングとワインで例えるならフルボディのような豊かで重厚なピアノが絡み合う。雪景色を思わせる白銀の照明によりピンクのドラムのヘッドが怪しく光る。暴力性を秘めた妖艶なドラムと可憐で荘厳なピアノ、対極のものが一つになり演奏は熱を帯びていく。

その熱が炎となり最高点に達する刹那、眩い閃光を残し静かに闇へと回帰した。2つの楽器と歌、そして照明のみで見事に世界観を表現した素晴らしい一曲であった。

続いては「Reisn」。人間とは何かを問うこの曲では照明がパープルやオレンジといったカラーでの演出が目立った。青でも赤でもない、混ざり合った複雑な色こそが人間の感情、人間の不完全さを表現しているように思えた。そして無色の光の中Moaの声だけが響く。

残響が会場を満たし、静かに波の音が聞こえてくる。ここでShinyaとMoaは退場。マリンバとヴァイオリンがドビュッシーの「6つの古代のエピグラフ」を奏でる。オリエンタルなヴァイオリンフレーズとふくよかなマリンバの響きが混ざり合う。ドビュッシーが古代の情景に想いを馳せながら作ったであろうこの曲が、アジア的なアプローチで演奏されている。その優しく伸びやかな音色は海と大地で繋がっているこの世界には境界線などない、と語りかけてくるようであった。

ShinyaとMoaが再びステージに登場し「Sauveur」を演奏。黄金に輝く宮殿を思わせる雄大な楽曲だ。照明も赤や黄色、白やピンクといった華やかな色合いだ。Shinyaのクリアドラムは照明の色に染まり、常に表情が変化する。そのため映像がなくとも照明だけでこれだけ豊かな演出になるのか、と気付かされる。

「Majesté」ではその照明の効果をより顕著に感じられた。前回までの印象では舞踏会の中での展開、といったイメージを持ったのだが、今回はまるで違っていた。優雅なパートでは変わらず貴族達の舞踏会、一方激しい光の点滅を伴うパートでは武器を持った民衆の行進のような荒々しさを感じた。何も知らない貴族と怒れる民衆、二つの軸で展開される革命の物語を想起させる。そしてその革命の終わり、曲のラストでステージは真っ赤な光で染まる。まるで血に染まった断頭台のように。

そして二度目のMC。Shinyaによる楽曲解説が続き、恒例のグッズ紹介が行われた。ユーモアたっぷりにグッズを紹介し、続いてはメンバー紹介。しかし、ここで事件が起こる。なんと結成より今までステージ上で話すことのなかったMoaが口を開いたのだ。遂にMoaの正体が明かされ、観客からは驚きと歓喜の声が上がる。そしてShinyaとMoaによるSERAPHの結成秘話が語られた。

そして今回はガンサ、レインスティック、ツリーチャイムなどインドネシア製の楽器が使われている。それらを含めた楽器紹介も行った。

再びShinyaがピアノに座り始まったのは「Lluvias -Writhing of Tanah ver-」。涼しく凛としたガンサとピアノの音、Moaの歌声が優しく響く。その慈愛に満ちた音は深く心に刺さり、思わず鳥肌が立ってしまう。

そしてShinyaがドラムに戻り演奏したのは「Destino -Writhing of Tanah ver-」。今回の楽曲の中でも特にアレンジが変化していた。イントロからオリエンタルなフレーズ、歌がなく楽器演奏で展開を魅せる。MCで「この曲が次のSERAPHを彷彿とさせる」とShinyaは語っていた。客席にも照明が当たり、ステージと客席が一つの空間に拡張される中、その言葉の意味を何度も反芻する。

そしてラストは「Overture IV -Ending-」。冒頭と同じタイトルの楽曲だが違うアレンジで演奏された。冒頭は海のイメージが強かったが、こちらは熱帯の森、海の深い青、そして人間の生み出した文化、それら全ての生命力がカラフルに表現されているように感じた。

前回までのSERAPHは天使と人間、そして大いなる存在との対比の視点が主だったように思う。しかし今回は自然と人間、その文化、つまり天から大地へと視点が変わっているようだ。今回のコンサートタイトルは<Writhing of Tanah>。熾天使SERAPHは大地に蠢く生命の営み、その力強さを我々に教えてくれた。演奏が終わり、ゆっくりと立ち上がるShinyaとMoa。深い青色に染まった照明の中、二人は交差しステージを去っていった。

写真◎Lestat C&M Project, Shogo Jasmine Mizuno

セットリスト

M1 Overture IV -Opening-
M2 Kreis
M3 Génesi -Writhing of Tanah ver-
M4 Uisce
M5 Abyss
M6 Lovshka
M7 Reisn
M8 Marimba & Violin Duo “Six Epigraphes Antiques No.1 by Debussy”
M9 Sauveur
M10 Majesté
M11 Lluvias -Writhing of Tanah ver-
M12 Destino -Writhing of Tanah ver-
M13 Overture IV -Ending-

関連リンク

◆SERAPH オフィシャルサイト

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