藤原竜也、デビュー27年で初の歌舞伎役者 約5分間の名台詞“外郎売”は圧巻…観客「一生忘れないだろうな」

3月7日(木)から名古屋公演が始まった、俳優・藤原竜也が主演を務める舞台『中村仲蔵~歌舞伎王国 下剋上異聞~』のゲネプロが2月5日、東京・豊島区の東京建物Brillia HALLで行われた。江戸時代中期に彗星(すいせい)のごとく現れた破天荒な歌舞伎役者、初代・中村仲蔵を務める藤原竜也をはじめ、市原隼人、髙嶋政宏ほか豪華実力派キャスト陣が出演。本公演は1幕70分、休憩20分、2幕80分(計2時間50分)で上映された。

本作は、江戸時代中期に実在した波瀾(はらん)万丈な歌舞伎俳優・中村仲蔵(なかむらなかぞう)の人生を題材にした痛快エンターテインメント。2022年にはドラマ化され、2022年度文化庁芸術祭テレビドラマ部門の大賞をはじめ、数多くのテレビ賞を受賞。劇中では、新たな視点でオリジナルの舞台戯曲として書き下ろされ、厳しい階級制度の江戸歌舞伎界で、仲蔵が努力と才覚と不屈の精神で大スターへとのし上がるさまと、江戸歌舞伎界の表舞台と裏舞台の人間ドラマを描く。

<歌舞伎役者、初代・中村仲蔵>
藤原竜也が演じる初代・中村仲蔵は、歌舞伎が黄金期に向かう江戸時代中期、彗星の如く現われた破天荒な歌舞伎役者。養母に厳しく踊りを叩きこまれた仲蔵は歌舞伎の世界へ。しかし、梨園の血縁ではない彼は、最下層の大部屋役者。待遇も環境も悪い中、芝居への熱い思いや演技力と発想から、四代目・市川團十郎に見出されて異例の出世を遂げる。芝居の面白さに取りつかれた仲蔵は、一代で『名人仲蔵』と言われるまでの大スターになる。

藤原竜也(中村仲蔵役)

舞台は江戸時代中期、歌舞伎の楽屋を主に描く。ステージには3階建ての大きな楽屋セットがあり、1階は最下層の大部屋役者が集まり、2階は中通り、3階は名題と、歌舞伎役者の階級、階層社会を現したセットとなっている。さらに、ステージ下手側から客席後方に向かって舞台と同じ高さの立派な花道が客席中通路まで延びている。本作では花道はいろんなシーンで使用され、花道付近の客席からは役者が走る様や仲蔵と母の別れの表情や息づかい、全て伝わってくるため、豪華実力派キャストたちの役者魂を目の当たりにすることができる。

SNSでは「至近距離でとても見応えがあった」「思わず息を止めて観てしまった…」など感動する声が寄せられている。上手側には、物語に臨場感や彩を与えるような音を出すパーカッションセット。歌舞伎の掛け声もここから発せられる。舞台セットの写真は公式Xで掲載されている。

中村仲蔵の義母・志賀山お俊を演じる尾上紫がステージ中央で踊る中、花道からまだ役者としては駆け出しの仲蔵(藤原竜也)が「おっかさん」と登場。そして鈴の音が鳴り、当時の歌舞伎界のトップである四代目・市川團十郎を演じる髙嶋政宏が登場。そして仲蔵が見得をきり、『舞台 中村仲蔵』のロゴが映し出され、拍手が沸き起こり、一度幕を閉じる、そしていよいよ物語が始まる。

幕が開くと、公演を終えた役者たちが集まる騒がしい楽屋模様が繰り広げられる。楽屋の2階には、仲蔵に初めに目を掛ける初代・市川八百蔵を演じる市原隼人の姿が。八百蔵は勇ましく、かつ男前。この役のために鍛え上げられたであろう市原の姿にSNSでは「筋肉美が言葉にならない」「3階席後方からでもわかる筋肉美しすぎた」と話題になっている。さらに市原は、仲蔵最大のピンチを抜け出すヒントを与えることになる武士・酒井新左衛門の2役を演じている。新左衛門は、腕は立つがそれよりも芝居と三味線を好む、どこか哀しみを抱えているような武士。武士の命とも言える刀を売り、母との別れのシーンでは、ステージから三味線を引く市原の姿が。母との悲しい別れの思いを弦に乗せ、目を潤ませる。時に涙をこらえるように点を向く演奏シーンは必見。

中村仲蔵のために三味線を引く、市原隼人(酒井新左衛門役)

この舞台のために稽古を重ねてきたという三味線の演奏シーンは、会場から感嘆な声が上がるほどの素晴らしい演奏。さらに、市原特有の色気を感じる演技と三味線を引く姿にSNSでは「まさか生演奏とは…」「相当お稽古したんだろうな…お見事!」と称賛の声が上がっている。

藤原が演じる仲蔵は、最下層の大部屋役者から始めるが、役者馬鹿と言われるほど芝居を愛し、さらに演技への発想力も高い。型にはまらない独創的な芝居を繰り広げるため、仲蔵を良く思わない役者も多い。劇中の藤原は、楽屋仲間から殴るなどひどい目に合う様子から、階級を上がっていく好調な姿、しかし立役者と呼ばれる金井三笑(今井朋彦)という劇場でトップの肩書を持つ劇作家に裏切られ、どん底に落ちる姿まで、本当の仲蔵かのような百面相を見せる。その幅広い表情が拍手をかっさらった。

二幕の幕開けに披露される『蘭平物狂』中央前:藤原竜也(中村仲蔵役/『蘭平物狂』“捕方”)、中央奥:髙嶋政宏(四代目市川團十郎/『蘭平物狂』“蘭平“)

裏切りから這い上がるために役者人生をかけた仲蔵。おしろい姿で静かに花道を歩く藤原の姿に息をのむ。ピンスポットが当たる藤原に観客の視線が集まる中、足音だけが響き渡る。花道を歩き遠ざかっていく藤原の背中は、“役者藤原竜也”としてのオーラや演技力からか、とても大きく見えた。

さらに、今回注目されているのが藤原の『外郎売』(ういろううり)。外郎売とは、早口言葉で演じるせりふ芸。名題まで成り上がった仲蔵の猛スピードで進んでいく長台詞の約5分間の外郎売は圧巻。感激した観客からは「とにかくすごい」「この外郎売は一生忘れないだろうな」「名台詞は圧巻」など感動の声が多く寄せられている。さらに、藤原の演技に対して、「中村仲蔵の物語だが、まるで藤原竜也の半生を観ているようだ」という声も多く、実力派と言われる藤原の役者魂が詰まった作品ともいえるだろう。

藤原竜也(中村仲蔵役/『舌出し三番叟』)

そして、仲蔵がのし上がるためには欠かせない人物、四代目・市川團十郎を演じるのは髙嶋政宏。3階に楽屋がある名題。團十郎は歌舞伎界の最高峰に位する威厳と共に、人間味あるユーモアを持つ。

髙嶋政宏(四代目市川團十郎役/『江戸紫根元曽我』“工藤祐経”)

髙嶋が登場するたび、堂々たる出で立ちに背筋が伸びるほど圧倒される。團十郎は、歌舞伎役者としては雲の上の存在だが、一癖ある性格で時には裏切り者になることも。しかし、仲蔵を役者として認めるシーンの髙嶋の演技は必見。

本作は仲蔵の熱い人生だけでなく、笑えるシーンが多いとも話題となっている。團十郎と仲蔵にしか見えない奈落にすむ稲荷神・コン太夫を演じるのは池田成志。他の物には見えないため、幽霊の悪ふざけのようにステージを歩き回る、アドリブのようなふざけた演技も見どころ。さらに衣装など、役者が準備中の間、幕を閉じるのではなく、池田1人がステージに立ち、約9分間の口上を行った。作品にまつわる知識や笑いを誘うトーク、さらに演技ではわからない役者の裏話や、時に観客に問いかけるようなコミカルなトークに客席は笑いに包まれた。

左:藤原竜也(中村仲蔵役/この時はまだ中村中蔵)、右:池田成志(コン太夫役)

主演を演じた藤原は「中村仲蔵という役者が生きた歌舞伎の世界とどう向き合うのか、稽古序盤は何もかもが手探りでした。昔、蜷川幸雄さんが待つ稽古場に向かう時の吐きそうな不安と緊張感が久々によみがえったくらいです。でも稽古を重ねるうちに、芝居の根本部分は何も変わらないということがわかってきました。歌舞伎の所作などについて出来る限りの努力をするのは当然としても、歌舞伎だからと構えすぎず、自分がいつも演劇と向き合う姿勢で、稽古に臨んできました。仲蔵のように光り輝く一本の道をまっすぐに歩く人生でありたいという願いを持ちながら、未知のものに挑戦していく気概を持ち続けていたいです。」と語った。舞台『中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~』は現在公演中。

舞台『中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~』

<出演>
藤原竜也、市原隼人、浅香航大、尾上紫、廣田高志、植本純米、古河耕史、深澤 嵐、斉藤莉生、今井朋彦、池田成志、髙嶋政宏 ほか

<上演>
愛知:3月7日(木)~3月10日(日)御園座
宮城:3月15日(金)~17日(日)東京エレクトロンホール宮城
福岡:3月22日(金)~24日(日)キャナルシティ劇場
大阪:3月27日(水)~3月31日(日)SkyシアターMBS

撮影:引地信彦写真提供:ホリプロ

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