異次元の少子化対策で「産後ケア事業」の利用がしやすくなるか
政府は、異次元の少子化対策として「こども・子育て支援加速プラン」を推進する動きを進めています。
異次元の少子化対策として「児童手当の拡充」や「保育サービスの拡大」「育児休業の取得促進」などがありますが、その中に「産後ケア事業の拡充」もあります。
核家族化が進み、地域社会とのつながりが希薄になっている現代では、育児に対する悩みを打ち明ける場が少なくなっており、産後ケア事業のニーズが高まっています。
本記事では、「産後ケア事業の概要」や「どのような人が対象なのか」などについて詳しく解説していきます。
産後ケア事業の実態調査の結果も紹介しているので、利用検討時の参考にしてみてください。
※編集部注:外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際はLIMO内でご確認ください。
「産後ケア事業」とは?どのような人が対象者になる?
産後ケア事業とは、育児に関する不安を解消できるよう、出産後の母親が心身を休めながら、助産師といった専門家からサポートしてもらえる事業を指します。
産後に家族から十分な育児・家事の支援が受けられずに、心身の不調や育児不安がある人に対して、専門家が支援してくれるため、安心して育児に臨めます。
産後ケア事業の対象者は「産後に心身の不調又は育児不安等がある者、その他特に支援が必要と認められる者」で、具体的な内容は下記のとおりです。
- 出産後に体調がすぐれないまたは育児に不安がある方等で産後1年未満の子どもをもつ母親とその赤ちゃん
- 流産や死産を経験した女性
産後ケア事業として利用できるサービスは主に下記3つです。
- 宿泊型:病院や助産所等を活用し宿泊をして産後ケアを実施
- デイサービス型:個別又は集団で支援を行える施設で産後ケアを実施
- アウトリーチ型:担当者が自宅を訪問し産後ケアを実施
具体的な支援内容として、赤ちゃんに対する保健・授乳指導や、お母さんに対する心理的ケアなどが挙げられます。
なお、利用期間は原則7日以内とされています。
「産後ケア事業」のニーズが高まっている背景
核家族化や地域社会との関係性が希薄となっている現代では、育児に対する相談を周囲にしにくく、不安や焦りを感じ、精神的に追い詰められるケースは少なくありません。
こども家庭庁の「令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)」によると、令和4年度中に児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は21万9170件であり、過去最多を記録しています。
このように、家庭内での虐待やネグレクト(育児放棄)が、増加傾向となっていることから、母親の心理的・身体的サポートを目的とした「産後ケア事業」のニーズが社会的に高まっているのです。
9割以上が「産後」に悩みやトラブルがあったと回答
BABY JOB株式会社は、全国の子育てをしている保護者1181名を対象に「産後ケア事業」に関する調査を実施しています。
調査概要は下記のとおりです。
- アンケート対象:全国の子育てをしている保護者1181名
- アンケート実施期間:2024/2/9~2024/2/21
- 調査方法:Googleフォームでアンケート回収
- リリース公開日:2024年2月29日
上記調査の結果、9割以上の人が「産後に悩みやトラブルがあった」と回答しています。
具体的な内容として、最も多かったのは「睡眠不足」で74.6%、次いで「骨盤のゆるみや乳房の変化など体のトラブル」が60.6%、「育児の不安」が46.8%と続きました。
上記からも産後は心身ともにストレスや悩みを抱える母親が多く、政府が拡充を進めている「産後ケア事業」は、母親にとって非常に有益であることがうかがえます。
また同調査で「出産後に、自治体の産後ケア事業を案内されましたか?」と質問したところ、69.3%の人が「案内された」と回答しました。
約7割の人が「案内された」と回答していますが、都道府県によって案内状況にバラつきが生じています。
回答者数が50を超えた地域(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・大阪府・愛知県)の回答結果をみると、東京都では84.8%なのに対して、埼玉県は46.4%と、半数を下回る結果となっています。
上記から、自治体による産後ケア事業は現状地域差が大きく、どの地域でも産後ケア事業の案内が行き届くようにすることも課題になるとうかがえます。
産後ケア事業の利用率はたったの3割。その理由は?
BABY JOB株式会社の調査によると、自治体から産後ケア事業の案内を受けた保護者のうち、実際に産後ケア事業を利用した人は3割にとどまりました。
半数以上が案内が届いていても、産後ケア事業を利用しておらず、その多くが「利用の仕方がよく分からなかった」といった理由で利用を断念しています。
利用するまでの手続きがよく分からなかったり、利用までの手間が複雑で諦めたりする人が多いことから、今後の産後ケア事業では、利用手続きの簡略化が求められるとうかがえます。
なお、BABY JOB株式会社の同調査において、産後ケア事業を利用した人の約9割が「周りにおすすめしたい」と回答しており、満足度は高い結果となっています。
実際に利用した産後ケア事業として最も多かったのは「自宅訪問ケア」が50.7%、次いで「産後ケア施設や病院等でデイサービス(日帰り)」が39.2%、「産後ケア施設や病院等でショートステイ(宿泊)」が35.6%となりました。
利用した保護者からの満足度は高い産後ケア事業ですが、実際に利用した人からは「予約がいっぱいだった」「より気軽に予約が取れるようにしてほしい」といった意見もあげられています。
このことから、「利用実施〜実際に利用するまで」に課題がまだ多く、気軽に利用するにはハードルが高い現状がみてとれます。
異次元の少子化対策で「産後ケア事業」の利用がしやすくなるか
本記事では、「産後ケア事業の概要」や「どのような人が対象なのか」などについて詳しく解説していきました。
BABY JOB株式会社の調査では、自治体から産後ケア事業の案内を受けた保護者は全体の7割にのぼりましたが、実際に利用した人のそのうちの3割にとどまる結果に。
一方で、実際に利用した人の多くが「おすすめしたい」と回答し、産後ケア事業の利用満足度は高い傾向にあります。
しかし、「利用の仕方がわからない」「費用が高い」「予約がしにくい」といった声も多くあげられているため、今回の政府の政策によって、産後ケア事業がどのように改善されるか注目が集まっています。
参考資料
- こども未来戦略会議「「こども未来戦略方針」案~次元の異なる少子化対策の実現のための「こども未来戦略」の策定に向けて~」
- BABY JOB株式会社「異次元の少子化対策として拡充を進める「産後ケア事業」、利用率はたった3割に留まる。利用者の9割が「おすすめしたい」と回答するものの、利用ハードルは高い状況」
- こども家庭庁「産後ケア事業について」
- 厚生労働省子ども家庭局「産後ケア事業の実施状況及び今後の対応について」
- こども家庭庁「令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)」