「引きずってるようじゃダメ」なぜ板倉滉はアジア杯から帰還後、100%でなくても即先発に復帰できたのか。「メンタル面などケアをしてた」【現地発コラム】

日本代表DF板倉滉はボルシアMGで中心選手の一人として評価されている。

ビルト紙は「CBのなかで1対1での競り合い勝率が一番悪い」と指摘している。同紙によると、板倉の1対1での競り合い勝率は50.63%。同僚のニコ・エルベディが62.46%、マルビン・フリードリヒが62.72%、マックス・ヴェーバーが60.88%という数字を残している。

統計からの指摘はしやすいし、一つの事実でもある。ただ、試合において1対1が起こる状況は全選手同じではない。特定のマークすべき相手がいて、自分のリズムとタイミングで1対1にいくポジションか、全体の状況を見定めながら、穴を埋めていくポジションとで同じに扱われるのはまた違う。

前節のマインツ戦の前半はそういった意味で難しい局面が多かった。立ち上がりから激しいプレスと素早い攻撃への切り替えで押し込んでくる相手に対して、システム的なかみ合わせも悪かったボルシアMGは完全に後手に回った。中盤をやすやすと突破を許してしまい、板倉が単独で対処しなければならない状況が続く。

「浮いてる選手がすごく多かったし、逆に相手は自分たちの中盤とディフェンダーの間のポケットっていうところで上手くポジションとっていた。そこになかなかプレスに行けず、遅れての対応がすごく多かった。そこはやっぱり試合の中で、選手たちの中でも変えないといけないし、それがなかなかできないのは、このチームの弱さでもあると思う」

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チームとしての守備組織が整っているときの1対1と、それが破綻しているときの1対1は同等に語れない。後半はシステムを3バックに変更し、誰が誰を見るのかを明確にし、中盤と守備ラインの距離がコンパクトになったことで、守備の安定が向上。板倉も鋭い出足で何度もボールを奪い、攻撃へとつなげるようになった。

ただ、主力として期待されるということは、チームを勝利に導く活躍をしてほしいというファンや首脳陣の思いがあるのも確かだろう。板倉出場時の試合で勝った試合が今季まだ1つだけというのも指摘されている。試合に勝つ、負けるは相手との相関性やその試合におけるかみ合わせ、ホームかアウェーかというのも影響する。

統計上の数字は後付け論でしかないかもしれない。しかし、「板倉が出ている試合なら勝点を計算できる」という印象が生まれることが望ましいし、難しい状況で止めきる、相手の攻撃を遅らせることができたら素晴らしい。板倉にしてもそうした選手になることを目ざしている。

ゲラルド・セオアネ監督はそんな板倉に対してこんな風にコメントしている。

「コウに関しては負傷離脱とアジアカップ後ということもあり、まだブンデスリーガで完全にフィットするまでに時間が必要だというのを感じている。彼は間違いなく高いクオリティを持った選手だ。インテリジェンスが高く次の展開を読むことができるし、様々なポジションでプレーできる。ただ100%の状態ではまだない。もっとできる」

この「100%の状態ではない。だから起用しない」ではなく、「だから起用して、復調してほしい」というところに、セオアネ監督の思いが感じられる。板倉も監督からのサポートに言及していた。

「監督はすごく気にしながらアジアカップのチェックもしてくれてたんで。メンタル面だったり、いろんな面でケアをしてくれました」

アジアカップから復帰後すぐのダルムシュタット戦でスタメン復帰。クラブでのスタメンは実に10月6日の第7節マインツ戦以来。長く負傷でチームを離脱し、怪我から復帰した後、リーグで出場することなく、アジアカップへと旅たち、そこから戻った後、スタメンで起用というのは当たり前のことではない。リスクもある。

「リーグ戦でスタメンで使ってもらったんで。そこ(アジア杯)で引きずってるようじゃダメだなと思いながらやってました」

男気には男気で応える。チームはまだ残留争いから抜け出したわけではない。監督からの信頼にこたえるためにも、板倉はチームを勝利に導く存在へとなっていく。

取材・文●中野吉之伴

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