老後、ひとり暮らしで病気になったら?元気なうちにできる備えを、井戸美枝さんがアドバイス

高齢になって、ひとり暮らしで病気になったらと考えると不安ですね。老後資金を用意しておくほかに、いまからどう備えるといいのでしょうか。イザというときのための備え方を2回に分けてお届けします。ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんに教えていただきましょう。

★老後資金が少ない人が考えておきたいことは★

【62歳Kさんの悩み】
ひとり暮らしです。兄妹や親戚も遠くに住んでいるので、病気や要介護になったときが心配。イザというときのために、今からどう備えればいいですか。

【井戸さんのアドバイス】
・健康や病気の不安が相談できる、かかりつけ医を見つけましょう。
・地域包括支援センターについて、きちんと知っておきましょう。
・口座やカードを一つにまとめ、キャッシュレスに慣れておきましょう。

かかりつけ医を見つけておく

ひとり暮らしの人が老後を安心して過ごすために、今からぜひ見つけておきたいのが「かかりつけ医」です。

かかりつけ医とは、体調が悪くなったり病気などのとき、安心して相談できる身近な医師のこと。ふだんから持病や風邪などで受診したり、健診や予防接種を受けておくと、イザというとき適格なアドバイスがもらえます。

血圧や血糖値が高くなったり、体重の増減など身体の変化にも気づいてもらいやすいため、病気の早期発見にもつながりやすく、必要に応じて、大病院や専門の医療機関を紹介してくれます。

しかも、いまは、大病院(特定機能病院及び400床以上の地域医療支援病院)で受診する際、かかりつけ医など他の病院からの紹介状が必要。紹介状がないと、特定療養費として、初診時7000円(歯科は5000円)以上、再診時3000円(歯科は1900円)以上支払わなければなりません。つまり、かかりつけ医がいることで、余分な費用もカットできるわけです。

また、65歳以上になって介護が必要になったとき、要介護認定に必要な「主治医意見書」をかかりつけ医に書いてもらうこともできます。

かかりつけ医の探し方

誰にかかりつけ医になってもらうかは、自分で決められます。

住んでいる地域で、学校の健康診断や健康相談を行っている学校医、地域や職場の産業医、持病で通院している病院の医師など、候補は身近にたくさん。ネットで病院の情報を集めたり、実際に受診している人の評判を聞いてもいいでしょう。

また、大学病院や専門の医療機関のホームページには提携するクリニックのリストが出ています。イザというときかかりたい医療機関から、提携するクリニックを探すのも一案です。

気になる病院が見つかったら、実際に診察を受けてみて、自分が話しやすく信頼できると思える医師を選びましょう。

往診や訪問医療を行う医師なら、突然の体調不良などで病院に行けなかったときも、往診してもらえるので安心。高齢になって持病などで定期的な通院が必要だけど、ひとりでは通えないし、付き添ってくれる家人もいない……といったときも、自宅で診察してもらうことができます。

また、最近は病院での入院期間が短くなり、がんの終末期や症状が不安定な状態でも自宅に帰らされることが増えていますが、そういうときも、在宅医療を行う医師なら、自宅に定期的に来て診察やケアを行ってもらえます。

地域包括支援センターを知っておく

病気や介護のことなどで誰かに相談したいとき、ぜひ知っておきたいのが「地域包括支援センター」です。

地域包括支援センターとは

政府は、高齢者が住み慣れた地域で住み続けられるように、「住まい」「医療」「介護」「生活支援」「予防」などを包括的に整備する「地域包括ケアシステム」の構築を進めていますが、地域包括支援センターはその中隔となる施設。

「ひとり暮らしで何かあったら心配「最近、モノ忘れがひどくて認知症が不安」「足腰が弱ってきて家事をするのがつらい」「介護保険の申請をしたい」等々、高齢者のさまざまな悩みの相談に無料で乗ってもらえます。

センターでは、幅広い相談に対応できるように、主任介護支援専門員(ケアマネジャー)や保健師、社会福祉士などの専門家が在駐。専門的な立場から、相談者にあった病院や在宅介護などのプランなどを考えてくれます。

「どこに相談していいのかわからない」というときも、適切な窓口を紹介してくれるので、まずは相談してみるといいでしょう。

自分のことだけでなく、「離れて暮らす親の言動が最近おかしい」といった相談も可能です。その場合は、親が住んでいる地域のセンターに連絡しましょう。

見学やボランティアに行ってみよう

実際にどんなところかを知るために、今から見学に行ってみるのがおすすめ。高齢者の見守りやゴミ出し、配食サービスなどのボランティアを募集しているセンターも多いので、参加してみてもいいでしょう。

地域包括支援センターは、中学校区におおむね一つあります。どこにあるかわからない場合は、市区町村の介護保険の窓口に問い合わせたり、ホームページで検索を。

引き落とし口座を一つにまとめる

高齢になるほど、口座の管理はめんどうになりがち。複数の口座を使っている人は、今から少しずつ数を絞り込んでいきましょう。

特に、光熱費や通信料などの引き落とし口座は、一つにまとめておくのがおすすめ。買い物も、できるだけクレジットカードかデビットカード1枚で支払うようにして、同じ口座から代金が引き落とされるようにしておくといいですね。

さらに、年金などの収入もそこに入金されるように指定しておけば、口座ひとつで家計収支を把握することができます。

現金主義にこだわる人もいますが、高齢になって手元にまとまった現金を置くのはトラブルのもと。おひとりさまが騙されやすい「オレオレ詐欺」も、手元に現金がなければ、銀行に引き出しに行き、行員が気づいて阻止してくれる確率が高くなります。

また、今は多くの病院や調剤薬局でカード払いできるので、急な入院などで支払いが必要になったときも、「お金がない!」とあせらずにすみます。お金の引き出しを頼める家族が近くにいないおひとりさまには、キャッシュレスの方が便利なのです。

キャッシュレスに慣れていない人は、これから少しずつ利用機会を増やしていきましょう。ポイントも貯まって、やりくりの強い味方にもなりますよ。

次回は、イザというときのために知っておきたい、介護保険や自治体のサービスについて紹介します。

プロフィール
井戸美枝
いど・みえ●ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、社会保険労務士、国民年金基金連合会理事。生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題が専門。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、雑誌や新聞に連載を持つ。近著に『フリーランス大全』(エクスナレッジ)。『親の終活 夫婦の老活 インフレに負けない「安心家計術」』(朝日新書)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!増補改訂版』(日経BP)など著書多数。
ホームページ:http://mie-ido.com
Twitter:@mieido


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