A24&ハピネットファントム配給作アカデミー賞獲得なるか?春夏公開『パスト ライブス/再会』『関心領域』『メイ・ディセンバー』見どころ解説

『パスト ライブス/再会』Copyright 2022 © Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

第96回アカデミー賞授賞式が3月11日(日本時間)に開催。今年の同賞には、ハピネットファントム・スタジオが国内配給する3作品がノミネートされた。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で昨年のオスカーを席巻した米映画スタジオ<A24>と、『パラサイト 半地下の家族』を配給した韓国の<CJ ENM>が初の共同製作で贈る注目作、 『パスト ライブス/再会』(4月5日公開)が作品賞・脚本賞に、同じくA24が製作したジョナサン・グレイザー監督最新作 『関心領域』(5月24日公開)が作品賞・監督賞ほか5部門に、そして『キャロル』の名匠トッド・ヘインズ最新作『メイ・ディセンバー(原題)』は脚本賞にノミネートされている。

ということで、今年の春~夏に公開が控えるハピネットファントム・スタジオ配給のオスカー候補3作をご紹介。11日の授賞式の行方を見守りつつ、しっかり予習して日本公開に備えよう。

韓国⇔アメリカの“恋”の行方を追う『パスト ライブス/再会』

ノミネート;作品賞、脚本賞

まず『パスト ライブス/再会』は、ソウルで初恋に落ちた幼なじみの男女が24年後、36歳になりNYで再会する7日間を描くラブストーリー。物語のキーワードは「運命」の意味で使われる韓国の言葉「縁(イニョン)」。見知らぬ人とすれ違った時、袖が偶然触れるのは、前世(PAST LIVES)で何かの“縁”があったから――。

久しぶりに顔を合わせた二人は、NYの街を歩きながらこれまでの互いの人生について語り合い、過去の自分たちが“選ばなかった道”に想いを馳せる。「もしもあの時、あなたとの未来を選んでいたら――」。この再会の結末に、幾千にも重なった切ない涙が溢れだす。

メガホンを取るのは、本作で長編映画監督デビューを飾ったセリーヌ・ソン。5部門にノミネートされたゴールデングローブ賞では、外国語映画賞や作品賞(ドラマ部門)のほか主演のグレタ・リーを女優部門(ドラマ)に押し上げただけでなく、監督賞と脚本賞にもセリーヌ・ソンの名前が踊った。受賞の可否に関わらず、“破格の新人監督”に対する歓迎と熱狂ぶりが伝わってくる快挙だ。

本年度アカデミー賞でも『バービー』のグレタ・ガーウィグや『哀れなるものたち』のヨルゴス・ランティモス、『オッペンハイマー』のクリストファー・ノーラン、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のマーティン・スコセッシなど映画界を代表する名匠たちの名前が並ぶ中、彗星の如く現れたフレッシュな才能に凄まじい注目が寄せられている。

『パスト ライブス/再会』は2024年4月5日(金)より公開

タイトルの意味にも注目!『関心領域』

ノミネート:作品賞、監督賞、脚色賞、音響賞、国際長編映画賞

続いて『関心領域』は、イギリスの作家マーティン・エイミスの同名小説を原案に、『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2013年)のジョナサン・グレイザー監督が10年もの歳月をかけて映画化した作品。こちらも製作は、近年の賞レースを席巻しているA24だ。

初お披露目となった第76回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞して以来、トロント映画批評家協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞、全米映画批評家協会賞など数々の映画賞に輝いている本作、第81回ゴールデングローブ賞では作品賞(ドラマ部門)ほか3部門にノミネートされ、第77回英国アカデミー賞では英国作品賞、外国語映画賞、音響賞を受賞している有力株だ。

原題でもある「The Zone of Interest=関心領域」とは、第二次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉。劇中でも、アウシュビッツ強制収容所と壁一枚を隔てた屋敷に住む収容所の所長と、その家族の暮らしが描かれる。巨大な壁で違法に分離された国で行われている新たなホロコーストに人々が関心を向ける今、監督や製作陣が願う「選択的共感の終焉」という想いをしっかりと受け止めたい。

『関心領域』は2024年5月24日(金)より公開

実力派キャストのアンサンブルが光る『メイ・ディセンバー(原題)』

ノミネート:脚本賞

最後に、『メイ・ディセンバー(原題)』は、全米にかつてない衝撃を与えた<13歳の少年と36歳の女性>の実在のスキャンダルをベースに描かれたラブサスペンスで、米「IndieWire」「NY Times」、「The Hollywood Reporter」、英「The Guardian」など有力媒体で“2023年のベスト映画”に選出されている。また、本作で苦悩する少年の20年後を演じ、ナタリー・ポートマン、ジュリアン・ムーアと共演を果たした韓国系アメリカ人俳優チャールズ・メルトンが、数々の助演男優賞を獲得したことも話題になった。

本作はすでに、ニューヨーク映画批評家協会賞で助演男優賞・脚本賞、シカゴ映画批評家協会賞で助演男優賞・脚本賞・有望俳優賞、ワシントンDC映画批評家協会賞で助演男優賞、ゴッサム賞にて助演男優賞、フィラデルフィア映画批評家協会賞ではブレイクスルー俳優賞を受賞。先日のゴールデングローブ賞でも、映画部門の作品賞、主演女優賞、助演女優賞、助演男優賞にノミネートされ、受賞は逃したものの今年の本命作品として名を連ねた。

『メイ・ディセンバー(原題)』は2024年 夏公開

――日本時間3月11日(月)に米・ロサンゼルスにて行われる第96回アカデミー賞授賞式。ご存知のように錚々たる作品たちが名を連ねているが、ここで紹介した3作は春から夏にかけて日本公開となる。規模も予算もケタ違いの大作に、これらの気鋭作品がいかに拮抗できるか? 結果だけでは測れない映画の魅力を、ぜひ劇場で確かめよう。

『パスト ライブス/再会』:2024年4月5日(金)公開

ソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソン。ふたりはお互いに恋心を抱いていたが、ノラの海外移住により離れ離れになってしまう。12年後24歳になり、ニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいたふたりは、オンラインで再会を果たし、お互いを想いながらもすれ違ってしまう。そして12年後の36歳、ノラは作家のアーサーと結婚していた。ヘソンはそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れる。24年ぶりにやっとめぐり逢えたふたりの再会の7日間。ふたりが選ぶ、運命とは――。

監督/脚本:セリーヌ・ソン
出演:グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ

『関心領域』:2024年5月24日(金)公開

空は青く、誰もが笑顔で、子供たちの楽しげな声が聴こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは大きな建物から黒い煙があがっている。時は1945年、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘスとその妻ヘドウィグら家族は、収容所の隣で幸せに暮らしていた。スクリーンに映し出されるのは、どこにでもある穏やかな日常。しかし、壁ひとつ隔てたアウシュビッツ収容所の存在が、音、建物からあがる煙、家族の交わす何気ない会話や視線、そして気配から着実に伝わってくる。壁を隔てたふたつの世界にどんな違いがあるのか?平和に暮らす家族と彼らにはどんな違いがあるのか?そして、あなたと彼らとの違いは?

監督・脚本:ジョナサン・グレイザー 原作:マーティン・エイミス「関心領域」(早川書房刊)
出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー

『メイ・ディセンバー(原題)』:2024年 夏公開

20年前、36歳のグレイシー(ジュリアン・ムーア)は、23歳年下で13歳のジョー(チャールズ・メルトン)と運命的な恋に落ちる。ふたりの仲が公になると、アメリカ中が注目する大スキャンダルとなり、タブロイド紙を連日賑わせた。グレイシーは服役する事となり、獄中でジョーとの間にできた長女を出産。出所後2人は結婚し、さらに双子の兄妹を授かった。

それから20年以上の月日が流れ、未だに嫌がらせを受けることがあっても、何事も無かったかのように幸せに暮らすグレイシーとジョー。長女は大学生になり、双子も高校卒業を数日後に控えている。そんな中、このふたりのスキャンダルを題材にした映画が製作されることに。グレイシー役を演じるハリウッド女優のエリザベス(ナタリー・ポートマン)が役作りのリサーチのために、しばらく街に滞在する。エリザベスの執拗な観察と質問により、つまびらかになる夫婦の心の移ろい。エリザベスも役になりきろうとするあまり、夫婦の深い沼にハマってゆく――。

監督:トッド・ヘインズ(『キャロル』)
出演:ナタリー・ポートマン、ジュリアン・ムーア、チャールズ・メルトン

CS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:アカデミー賞」2024年3月放送

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