『R‐1グランプリ』2002年の第1回を見てみたら…だいたひかるが超トガっていた!

『R-1ぐらんぷり2002』決勝戦で戦った(左から)陣内智則、友近 クランクイン!

どんなにヒットし、どんなに長く続いたシリーズにも必ず「第1回」が存在する。長く続いたシリーズであればあるほど、紆余曲折を経て今の姿があるはず。長い歴史をまだ知らない第1回は、いったいどんな形でスタートを切ったのか? 知られざる第1回を振り返る「第1回はこうだった」。今回は2002年にスタートしたピン芸日本一を決める大会『R‐1グランプリ』(カンテレ・フジテレビ系、以下『R‐1』)第1回をプレイバック!

今夜第22回大会が開催される『R‐1』は、漫才の頂点を決める『M‐1グランプリ』(テレビ朝日・ABCテレビ系、以下『M‐1』)スタートから1年後、『R‐1ぐらんぷり』の名称(2021年大会から『R‐1グランプリ』に改称)でスタート。「ピン芸人」ではなく「ピン芸」の日本一を決める大会であり、人気コンビ芸人の1人が普段のコンビ芸では見せないピンネタで挑戦することもたびたびある。一時は芸歴10年以内の出場資格を設けたが、今大会から撤廃されている。そんな『R‐1』2002年の第1回はどうだったのか。

■ 全員座布団の上!

まず面食らうのは、出場者が全員、座布団の上でネタを披露していることだ。座布団の前には短めのマイクを置き、さながら落語家のようだが、それもそのはず、そもそも『R‐1』の「R」は「落語」のイニシャルだ。そのため第1回大会には落語家の桂三若や、笑福亭松喬が当然のように名を連ねている。彼ら落語家が決勝の舞台に姿を見せなくなって久しいが、彼らが『R‐1』でフリップネタや映像ネタと真正面から激突する姿も、いつかまた見てみたい。

「座布団の上でネタをする」というルールはあるものの、そのほかの制限はなく、番組冒頭では「一人話芸無制限勝負」「とにかく面白ければなんでもオッケー!」と謳われている。芸風によっては不都合で、立ったり座ったりを繰り返す出場者もいるが、シンプルな語りスタイルの友近やだいたひかるの場合は、お笑い芸人×座布団の組み合わせが妙にしっくりくるから面白い。今では「ピン芸の大会」として知られる『R‐1』だが、むしろ当初は「新ジャンルのお笑い」というニュアンスが強かったのかもしれない。

結局「座布団の上で」のルールは第2回以降は撤廃され、現在の「ピン芸の大会」というイメージに収束していく。もし座布団の上で行う第1回にZAZYが出場していたらどうなっていたか、気になるところだ。

■ コンビ芸人は第1回から出場していた

第1回の出場者には、今をときめく芸人たちもなお連ねている。のちに『エンタの神様』(日本テレビ系)で全国区になる陣内智則のほか、友近やケンドーコバヤシ、パペットマペットらも参戦した。陣内は「旗揚げゲーム」というネタを披露。もうすでに『エンタ』で披露するような、ボケる音声に対し「おもんないわー!」「なんやこれー!」とツッコむ彼の代名詞的な芸風が確立されている。

のちに『M‐1』王者らもピンで出場する『R‐1』。日ごろ活躍するコンビ芸人らがピン芸人を押しのけて決勝に立つ姿に、一時は賛否両論もあったが、第1回から実はオール阪神・巨人のオール阪神、そして水玉れっぷう隊のアキがピンで堂々と出演。コンビ芸人の出場は何も途中で始まったトレンドではなかったのだ。

特にオール阪神は、ピン芸として創作落語を披露。テレビショッピングで買われたが無用のため持ち主に倉庫に放り込まれた商品たちが一致団結して反乱する、という内容で、落語家さながらに何役も演じ分ける姿がとてもかっこいい。漫才で見せるのとはまた別の顔を見せてくれる。

「ジャニーズ事務所にも失敗作はある」トガりまくっていた女性ピン芸人!

■ 超トガッているだいたひかる!

最終出番で登場したのは、当時フリーで活動していただいたひかる。彼女も陣内と同じくのちに『エンタ』で活躍することになるが、当時からすでにトガりまくっていた。

「余計なお世話ですが」を枕詞に「プレイボーイを読んでいる人にプレイボーイはいない」「プリンセス天功は何よりもあのメイクがイリュージョン」「ジャニーズ事務所にも失敗作はある」。さらに「どうでもいいですよ♪」と口ずさみながら「ロッテ対日本ハム」と発して爆笑をかっさらっていたところには、パ・リーグの人気に火が付く前の時代を感じさせる。

おそらく現在の注目度が高まった大会で、さらにSNSなどの普及した視聴環境の中で披露すれば、1フレーズ1フレーズがSNSをざわつかせるような過激なラインナップで、他の出場者同様にウケてはいるが、一際異彩を放っていた。

■ 拍子抜けするぐらいシンプルな優勝決定方法

『M‐1』や『キングオブコント』(TBS系)でも毎年のように試行錯誤がなされている勝敗決定システムや優勝決定システムだが、第1回の『R‐1』はこの上ないほどシンプル。予選と決勝の区分がなく、出場者12名がネタを披露するのは一度きり。それを浜村淳ら審査員が別室で審査する。浜村が「小ネタの集積、そして身近にあって共感を生むものが多かった」などと真剣に議論を繰り広げる模様も一部放送された。

議論の結果、第1回で優勝したのはだいたひかるだった。どこの事務所にも所属せず、フリーの立場で優勝したのは彼女が最初で最後。マイクを向けられただいたは「興奮しますね。今年一番のテンションですよホント」と冷静に述べて会場の笑いを誘っていた。

優勝者のその後の活躍でたびたび『M‐1』と比較され、ついには『M‐1』決勝の舞台で「夢がない」とイジられてしまった『R‐1』。しかし、お笑いには常に逆境が力になる瞬間がある。筆者はそれがお笑いの素晴らしさだと考えている。お笑いコンビでも「じゃない方」だった相方が、突如ブレイクしていく例がこれまで何度あっただろう。注目度が高いのは『M‐1』かもしれないが、実はお笑い的に「おいしい」のは『R‐1』の方なのだ。「じゃない方」であった『R‐1』、その逆境をはねのけ、いや、力に変えて大ブレイクする新王者が今夜誕生するかもしれない。(文・前田祐介)

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