ここに注目! JR東日本の「羽田空港アクセス線」 東京都が打ち出す「臨海地下鉄線構想」との関係も考えます【コラム】

羽田空港アクセス線の起点(駅はありませんが)の田町駅。画面左下から東海道新幹線に東海道線上下線が並行、田町駅手前(浜松町寄り)からアクセス線は地下に入ります(筆者撮影)

年度末の3月。計画中の鉄道路線で、2023年度に最も多くの話題を提供したのは、おそらくJR東日本の「羽田空港アクセス線(仮称)」でしょう。年度初の2023年4月、深澤祐二社長が定例会見で「6月着工」を表明。実際に6月2日、山手・京浜東北線田町~高輪ゲートウェイ間の現場事務所前で起工式が開かれ、工事が本格スタートしました。

およそ5カ月後の2023年11月には、東京都港区の新線建設予定地で明治時代の鉄道遺構・高輪築堤の一部とみられる石垣が見付かり、工事への影響が取りざたされましたが、JR東日本からの発表はなく、大きな遅れは生じない模様です。

本コラムは1年間のまとめとして、「ここに注目! 空港アクセス線」と題して新線のポイントを解説。あわせて、東京都が打ち出す「都心部・臨海地域地下鉄(臨海地下鉄線)構想」との関係を考えます。

多くは既設線を流用

「既設鉄道ネットワークを活用した首都空港へのダイレクトアクセス」。これがJR東日本の羽田空港アクセス線のうたい文句です。

羽田空港アクセス線の必要性と、その3つのルート(資料:JR東日本)

羽田空港は、コロナ前の2019年データで年間旅客数8000万人を超す、世界第5位のマンモス空港です。現在の鉄道アクセスは、京急と東京モノレールの2ルート。東京都心からの移動では、品川や浜松町などでの乗り換えが必要で、空港の国際競争力強化にはもう一段の利便性向上が求められます。

羽田空港アクセス線は、羽田空港新駅(仮称)~東京貨物ターミナル(東タ)間は1ルート。東タから先は、西側から「西山手」、「東山手」、「臨海部」の3ルートに分かれます。このうち、JR東日本が先行整備する方針を打ち出すのは東山手ルートです。

東山手ルートは、空港からJR東海道線に接続する田町駅北側(浜松町寄り)までの路線の通称で、全体で12.4キロ。東京、新橋側から、①東海道線接続線部(1.5キロ)、②大汐線改修(3.4キロ)、③東タ内改良(2.5キロ)、④アクセス新線(5.0キロ)ーーの4区間に分かれます。

アクセス新線は、多くが地下に建設する新規区間で、他の3区間は既設線の改良。「既設鉄道ネットワークを活用」の理由です。JR東日本は2031年度開業をアナウンスします。

かつての貨物線をアクセス線に転用

大汐線とは……。今は汐留シオサイトになった、JR新橋駅南東側一帯が国鉄時代、汐留駅という貨物駅だったことは、ベテラン鉄道ファンの皆さんはご記憶かもしれません。

汐留駅と大井ふ頭の東タを結んでいた貨物線が大汐線。汐留と大井ふ頭の頭文字を合わせた通称です。1970年代初頭まで、東海道線からの汐留行き貨物ルートだった新鶴見~品川~汐留の品鶴(ひんかく)線の旅客線転用に当たり(品鶴線は現在、横須賀線や湘南新宿ラインの列車が走ります)、大井ふ頭~田町間約4キロをつなぐ鉄道新線として建設され、1973年に開業しました。

大汐線は、都心を走る貨物列車の減少などを受けて1998年に休止されました。建設時期が比較的新しかったことから、多くの区間は複線で全線電化。旅客線への転用に大きな支障はありません。

新幹線の地下をトンネルでくぐる

東京、新橋駅側からアクセス線をバーチャルでたどります。新橋駅を発車した列車がアクセス線に入る、つまりアクセス線の起点は田町駅北側(浜松町寄り)に設けられます。

浜松町~田町間には北西側(山手線内側)から、京浜東北線北行、山手線内回り、同外回り、京浜東北線南行、東海道線上り、同下りの6本の線路が並びます(東海道線の南東側には東海道新幹線も並行します)。

アクセス線の起点は、田町駅北側(東京寄り)の引き込み線を撤去した上で、山手線外回り、京浜東北線南行、東海道線上り線を順次移設。東海道線の上下線の間隔を広げ、真ん中にアクセス線の線路を敷きます。アクセス線はY型分岐器で東海道線の上下線それぞれとつながります。

東海道線と分かれたアクセス線は、地下に入って東海道線下りと新幹線上下線をトンネルでくぐり抜け、高輪ゲートウェイ駅東側付近で大汐線に合流します。

田町駅付近のアクセス線起点から大汐線合流部までの東海道線接続部は、延長1.5キロで単線。トンネルは、新幹線の地下部がシールド工法、両端部は地上から掘削する開削工法で建設します。JR東日本の資料から、配線図と空撮写真を添付します。

羽田空港アクセス線起点部の配線図。東海道線から大汐線への接続線は短絡線と表記します(資料:JR東日本)
国土地理院の空撮写真に加筆した羽田空港アクセス線のルート。東海道新幹線下のトンネルを抜けるとカーブ、新幹線と東京モノレールの間を走ります(断面図は前出の配線図とほぼ同じなので割愛します(画像:JR東日本)

東タ内に留置線と保守基地

トンネルを抜けたアクセス線が合流するのが大汐線。東タまで3.4キロ区間の大半は高架構造。1998年の休止で、電車線(架線)や信号ケーブルはほとんど撤去されましたが、線路、架線柱、橋りょうなどの設備は残されています。JR東日本は設備の健全度をチェックした上で、アクセス線に転用します。

東タ内も大汐線を改良してアクセス線に転用。東タに、留置線や保守基地を設けるプランです。東タ近隣には大汐線の踏切2ヵ所がありますが、1カ所は廃止。もう1カ所は交差道路を高架化して踏切をなくします。

東タからの空港まで、5.0キロのアクセス新線区間は再び地下にもぐります。トンネルはシールド工法で、主に道路や運河の下部に建設しますが、道路橋脚や建物の基礎を避けながらのトンネル掘削になります。

羽田空港からビッグサイトに直行!?

ここから発想を広げ、羽田空港アクセス線のさらなる展開を考えます。取り上げたいのは臨海部ルートです。

お台場の臨海副都心に至る臨海部ルートに具体的な動きはありませんが、路線としては東京臨海高速鉄道(TWR)東京テレポート(駅名)からりんかい線に乗り入れ、東京ビッグサイト(りんかい線駅名は国際展示場)から新木場にいたるルートが考えられます。

最近、TWRの社名が注目を集めたのが、2024年2月の小池百合子都知事会見。東京都が構想する臨海地下鉄線構想について、都、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)、TWRの3者(社)で実現に向けて検討する考えが表明されました。

臨海地下鉄線は東京~有明・東京ビッグサイト(いすれも仮称)間約6.1キロで、都は2040年ごろの開業を打ち出します。

臨海地下鉄線の想定ルート。有明・東京ビッグサイト(仮称)は名称は異なりますが、TWRの国際展示場駅に隣接するのが自然と思われます(資料:東京都)

JRの羽田空港アクセス臨海部ルートと、都の臨海地下鉄線、そしてTWRの〝鉄道三題噺〟。羽田空港から臨海部ルートとりんかい線、臨海地下鉄線を経由して、空港と晴海や銀座がつながる……。空想の中で列車を走らせるのも一興かもしれません。

記事:上里夏生

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