海上自衛隊の最新鋭たいげい型潜水艦3番艦「じんげい」就役――1番艦「たいげい」は試験潜水艦に種別変更

By Kosuke Takahashi

3月8日に就役した海自の最新潜水艦たいげい型3番艦「じんげい」(高橋浩祐撮影)

海上自衛隊の最新鋭潜水艦「じんげい」が3月8日、就役した。兵庫県神戸市の三菱重工業神戸造船所で同日、引き渡し式と自衛艦旗授与式があった。同造船所で建造された潜水艦はじんげいで戦後30隻目。

じんげいは、日本の主力潜水艦そうりゅう型12隻の後継艦となる最新鋭たいげい型潜水艦の3番艦だ。神奈川県横須賀市の横須賀基地第2潜水隊群第4潜水隊に配備される。海自が国内に配備する潜水艦は22隻。そのうち10隻が横須賀基地を母港とする。国内では他に呉基地(広島県)に12隻ある。

たいげい型は、これまでの海自潜水艦の「しお(潮)」「りゅう(龍)」に続く「げい(鯨)」の艦名を持つシリーズとなっている。

●基準排水量は3000トン

じんげいは、全長84メートルと全幅9.1メートルは、そうりゅう型と同じだが、深さは10.4メートルとなり、そうりゅう型より0.1メートル大きい。海自最大の潜水艦となり、艦内容積が増す。基準排水量も3000トンとなり、そうりゅう型の2950トンを50トン上回る。建造費は約699億円。乗員は約70人。女性乗員最大6人のための専用の居住エリアを設置する。

令和元(2019)年度計画潜水艦であるじんげいは2020年4月に起工、2022年10月に進水した。2023年10月に進水した4番艦らいげいが現在、2025年3月の就役に向けて艤装(ぎそう)中だ。

そうりゅう型はディーゼル潜水艦で、低振動で静粛性に優れ、世界有数の高性能艦として知られてきたが、たいげい型はその性能向上型となる。そうりゅう型に比べ、探知性能や被探知防止性能が向上した。新型戦闘管理システムの採用によって、より高度な情報処理能力を有しているのも特徴だ。

●世界唯一のリチウムイオン電池搭載潜水艦

航続能力や潜航能力に優れた原子力潜水艦を一隻も保有しない日本にとって、いかにしてディーゼル電気推進の通常動力型潜水艦の能力を向上させるかは常に大きな課題だ。日本はそうりゅう型の11、12番艦から従来の鉛電池に代わってリチウムイオン電池の搭載を始めたが、たいげい型は1番艦の初めからリチウムイオン電池搭載を前提に設計された潜水艦だ。リチウムイオン電池は重量エネルギー密度が大きく鉛電池の2倍以上あるため、水中航行能力が高くなり、潜航時間も大幅に延ばすことができる。

韓国も日本に続き、世界で2番のリチウムイオン電池搭載の3600トン級潜水艦「張保皐(チャンボゴ)3」のバッチ2(第2世代)の3隻を建造中だ。2020年代後半の就役が予定されている。このため、今のところ、日本が世界初で唯一のリチウムイオン電池搭載潜水艦が就役済みの国となっている。原潜を増強する中国も、通常動力型潜水艦へのリチウムイオン電池搭載を目指している。

3月8日に就役した海自の最新潜水艦たいげい型3番艦「じんげい」の概要図(海上幕僚監部)

●4番艦らいげいからは高出力の新型ディーゼル機関を初採用

たいげい型1番艦たいげい、2番艦はくげい、3番艦じんげいまでは主機関にV型12気筒の川崎重工業製12V 25/25SB型ディーゼル機関2基を採用してきたが、4番艦らいげいからは、大型化したエンジンと関連装置を有する高出力の新型の川崎12V 25/31型ディーゼル機関が初めて搭載された。これは、発電効率を強化した新しいスノーケル(吸排気管)システムに対応した新型ディーゼルエンジンがいよいよたいげい型4番艦から導入されたことを意味する。

4番艦から新型ディーゼルエンジンが搭載されたものの、軸出力は6000馬力、水中速力は約20ノットとそれぞれなっており、1番艦から3番艦までの他のたいげい型と変わっていない。

たいげい型は、そうりゅう型8番艦のせきりゅうから導入された潜水艦魚雷防御システム(TCM)も装備している。これは、敵潜水艦から発射された魚雷を探知した時に、艦のスクリュー音を模擬したブイやおとりを発射し、魚雷が自艦に向かってくることを回避するための装置だ。

●年々高騰する潜水艦建造費

日本の潜水艦は三菱重工業神戸造船所と川崎重工業神戸工場が隔年で交互に建造している。現在、三菱重工業神戸造船所でたいげい型5番艦、川崎重工業神戸工場で6番艦がそれぞれすでに建造中だ。2021年度予算ではその5番艦建造費684億円、2022年度予算では6番艦建造費736億円、2023年度予算では7番艦建造費808億円、2024年度予算では8番艦建造費950億円がそれぞれ計上された。年々建造費が増加しているのは、資材費の高騰など物価高の影響をもろに受けた格好だ。

海上幕僚監部広報室は、たいげい型が合計で何隻建造されるかを明らかにしていない。しかし、海自は現在、「おやしお型」8隻、「そうりゅう型」12隻、「たいげい型」2隻の計22隻の潜水艦体制をとっている。最も旧型の「おやしお型」8隻が順次退役していくことから、今後もそれを補完する形で年に1隻の建造ペースで調達していくとみられる。

2022年12月に政府が承認した現在の防衛力整備計画(2023年度から2027年度)に基づき、たいげい型潜水艦11番艦が同型潜水艦の最終艦として2027年度に予算付けされる可能性が高い。

3月8日に就役した海自の最新潜水艦たいげい型3番艦「じんげい」(高橋浩祐撮影)

●たいげい、試験潜水艦に種別変更

防衛省・海自は2022年3月のたいげい型1番艦たいげい就役によって、2010年12月の防衛大綱(22大綱)で初めて定められた潜水艦22隻体制を完成した。じんげいの8日の就役で、たいげいは同日付で試験潜水艦に種別変更された。これまで新装備の試験は作戦用の潜水艦が持ち回りで実施してきたが、今後はたいげいが試験潜水艦となり、将来型のソーナー装置や雑音低減の最新の水中発射管など様々な試験を実施し、日本潜水艦の技術研究開発に向けた「尖兵」となる。その分、他の潜水艦は本来任務に集中でき、稼働率が上がる。

●次世代潜水艦

これまで海自が約10隻の同型艦を建造している事実を踏まえれば、次世代潜水艦も今後10年程度での就役が見込まれる。

次期潜水艦の建造は2028年度予算に基づいて開始されることになるだろう。ということは、防衛省と海自は今から次世代潜水艦の真剣な検討を始めなければならないということだ。

日本を取り巻く安全保障環境を見渡せば、中国とロシアが原潜戦力を増強し、北朝鮮も原潜の保有を目指している。北朝鮮は日本列島を射程に収める1500キロ以上の巡航ミサイルを搭載する新型潜水艦を実戦配備しようとしている。台湾有事も現実味を増す中、海自の潜水艦が担う作戦任務と海域は拡大している。

2022年12月に策定された防衛力整備計画では、「水中優勢獲得のための能力強化として、潜水艦(SS)に垂直ミサイル発射システム(VLS)を搭載し、スタンド・オフ・ミサイルを搭載可能とする垂直発射型ミサイル搭載潜水艦の取得を目指し開発する」と明記された。

スタンド・オフ・ミサイルとは敵艦艇などに相手のミサイル射程圏外から反撃することを想定するミサイルのこと。海自向けに開発と取得を予定しているスタンド・オフ・ミサイルは、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」能力向上型(艦発型)、潜水艦発射型誘導弾(潜対艦ミサイル)、極超音速誘導弾、米国製トマホークだ。輸入品のトマホークを除き、開発はすべて三菱重工業が請け負っている。

読売新聞は2021年12月末、政府が海自潜水艦に、地上の目標も攻撃可能な国産の長射程巡航ミサイルを搭載する方向で検討に入ったと報道した。このミサイルは射程が約1000キロメートルのスタンド・オフ・ミサイル。12式地対艦誘導弾を基に新たに開発するもので、VLSを潜水艦に増設する方式や既存の魚雷発射管から発射する方式などが検討されているという。

中国新聞は2月22日、潜水艦へのVLS搭載計画に言及する中で、「従来の魚雷発射管を使った水平発射の長射程ミサイルの開発に着手し、2028年度ごろからの実装を見込んでいる」と報じた。

「世界の艦船」3月号によると、潜水艦発射型誘導弾(潜対艦ミサイル)は2023年から2027年にミサイル本体の試作を実施し、2026年から2027年度に実用試験が予定されている。

前述のように、たいげい型は4番艦らいげいから高出力の新型ディーゼル機関を初採用したものの、原子力潜水艦に比べて船体サイズが小さく、電力供給も限られているため、VLSを搭載するのは難しい。

また、次世代潜水艦は、探知能力向上のための最新ソナーや戦闘システム、各種UUV(水中無人機)なども搭載するための船体の大型化が避けられない。また、大量の電力消費を賄うため、追加の電力供給能力を確保することが不可欠になる。

次期潜水艦の必要要件について、酒井良海上幕僚長は6日の記者会見で、「まさしく今後の検討になると思っている。垂直発射型の潜水艦についても、トマホークを発射できるものを将来的に装備する。従来型の潜水艦とミサイル発射の反撃能力を発揮する潜水艦との棲み分けをどう図るか、今後の検討になると認識している。これ以上詳しくは申し上げられない」と述べた。

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