「観終わった後にしばらく魂が持っていかれるレベル…」中瀬ゆかりを震撼させた韓国映画「ビニールハウス」

TOKYO MX(地上波9ch)の情報バラエティ生番組「5時に夢中!」(毎週月~金曜 17:00~)。2月29日(木)放送の「中瀬親方のエンタメ番付」のコーナーでは、新潮社出版部部長の中瀬ゆかりさんがおすすめのエンタメ作品を番付形式で紹介しました。

【"中瀬親方”による2024年2月のおすすめ作品】

◆関脇
絵本「私はネコが嫌いだ。」
作・絵 よこただいすけ(つちや書店)

物語の主人公は、"頑固オヤジ”という言葉がいかにも似合いそうなお父さん。ある日、ひょんなことから黒い子猫と一緒に暮らすことになるも、お父さんは大のネコ嫌い。しかし、やがてネコはお父さんにとってかけがえのない存在になっていく……お父さんとネコの15年に渡る生活を31ページにギュッとまとめた、愛猫家必読の心温まる絵本。

中瀬親方のコメント「感動で胸がいっぱいになる短編映画のような絵本で、注目ポイントは、迫力ある頑固オヤジとかわいい黒ネコの対比です。この絵本は、実は新刊ではなく8年前に出ていて長く読まれてロングセラーになっている作品なんですけど、今回私が飼っていた猫のチビちゃんを亡くして、まだすごい悲しみに暮れていて、行き場のない悲しみを(紛らわせようと)映画を観たり、本を読んだりしたなかで、猫本を手当たり次第に読み漁って出会いました。

以前、このコーナーでも『わたしのげぼく』という(ネコを題材とした)傑作絵本を紹介したんですけど、それ以来に爆泣きした絵本です。

30ページぐらいしかない、とても短くて、ある意味単純な物語なんですけど、絵本独特の味わい深い絵も重なって、オヤジと黒ネコの思いがストレートに伝わってくるんです。これは絵本じゃないと描けないストーリーだと思います。

私もネコと過ごしているからこそ分かるんですけど、ネコは自分のことを本気で嫌っている人間に何度も近づくことってないんですね。だからこそ、ネコに対するオヤジの本当の気持ちがよく分かる作品です。もちろん電子書籍でも読めますが、この作品は紙の書籍で手元に置いて、何度も読み返したい1冊になっています」

◆大関
「夜露がたり」
著 砂原浩太朗(新潮社)

貧しい長屋で育った男たちが思わぬ場所で再会する「幼なじみ」や、幼い頃から想い続けてきた女性と夫婦になった男を巡る「さざなみ」など、貧しさや過酷な現実に喘ぎつつも、したたかに生きる人々を描いた、全8篇からなる傑作の短篇集。

中瀬親方のコメント「砂原さんは、歴史ものや武家ものを描くのが、ものすごく上手いんですけど、この作品は、砂原さんが初めて書いた江戸の『市井もの(※江戸の市井(しせい)に暮らす平民の暮らしや庶民の人生模様を描いた作品)』の短篇集です。

いわゆる市井ものから想像される、人情味あふれるいい話的なシンプルな展開は、この本には一切描かれていません。砂原さんは、その端正な文体から"令和の藤沢周平”と呼ばれてもいますけれども、実は星新一さんの大ファンでもあり、そのDNAも十分感じられて、(8篇の)全てに"ドスン!”とオチがあり、驚きと感動が待ち受けていて、8篇のどれもが素晴らしいです。本作は時代小説だけど現代に通じるテーマを扱っているので、すごく身につまされる内容になっています。

なかでも、私が身につまされたのは、8篇のひとつ『死んでくれ』です。これはギャンブル依存症の父を持つ娘の苦悩を描いた、まさに"親ガチャ”のような小説になっているんですけど、私は読みながらずっと、亡くなったパートナーの作家でギャンブル狂だった白川道に、お金のどん底に追いやられた日々を思い出して……(当時のことが)結構トラウマになっているので。

この作品は、いわゆるありきたりな人情ものの作品ではなくて、妬みややましさ、裏切り 人間の業の深淵を描いていて、1篇1篇の余韻が短篇とは思えないほどの大きさで胸に"ズン”とくる作品です。

私自身、時代ものの小説ってそれほど多くは読んでいないんですけど、読み終わった瞬間に"何という傑作に出会ってしまったんだろう”とちょっと興奮しちゃいました。女性の登場人物も結構多いんですけど、その心理とかも見事に描き切っていて"砂原浩太朗、恐るべし”と思うほどの1冊になっています」

◆横綱
映画「ビニールハウス」
3月15日(金)より全国ロードショー

若干29歳の若き新鋭女性監督、イ・ソルヒが監督・脚本・編集を担当。物語の主人公は、離婚後、とある農村地帯に佇むビニールハウスを住処にしている中年女性・ムンジョン(演:キム・ソヒョン)。彼女の夢は、少年院に収容されている1人息子と一緒に暮らすこと。引っ越し資金を稼ぐため、訪問看護士として働くムンジョンは、ある日、介護中の事故によって人生の窮地に。そんななか、事故隠ぺいのために彼女がとった選択が取り返しのつかない悲劇を招いてしまう。

中年女性の想像を絶する運命と、その果てに待ち受ける衝撃的なエンディングとは一体……今、韓国で社会問題となっているビニールハウス住居を舞台に、貧困や介護といった問題を描く予測不能のサスペンス。

中瀬親方のコメント「あまりにも不幸の連鎖が強烈すぎて、観終わった後にしばらく魂が持っていかれるレベルでした。サスペンススリラーなんですけど、とにかく(本編の)100分を通して不穏で神経が休まるシーンがひとつもないんですよ。ずっと手に汗握りっぱなしで、韓国のミステリー映画らしさも十分発揮されています。

貧困と孤独、介護や認知症など、日本人にとっても決して他人事じゃない社会問題がテーマに描かれているからこそ、一寸先さえ予測不能で、めちゃめちゃ濃密なサスペンスを全編にみなぎらせているんです。

なかでも、主人公のムンジョンを演じるキム・ソヒョンさんがすごくて、彼女が背負った負のスパイラルが加速していくさまや、救いがなさすぎるところに向けて、30分はまさにドミノ倒しの急展開で、見応え抜群で、"生きる”という根源的なテーマについて考えずにはいられませんでした。

エンディングのラスト1秒まで一瞬たりとも目が離せない作品です。そんなにお金がかかっている作品ではないと思うんですけど、それでこのクオリティはすごい……イ・ソルヒ監督は(今作の)脚本も書かれているということで、素晴らしい才能だと思います!」

中瀬さんが推す3作品、ぜひチェックしてみてください! 毎月最終木曜日に発表するこのコーナー、次回3月のエンタメ番付は、3月28日(木)にお届けする予定です。お楽しみに。

※この番組の記事一覧を見る

<番組概要>
番組名:5時に夢中!
放送日時:毎週月~金 17:00~18:00 <TOKYO MX1>
「エムキャス」でも同時配信(地上波放送エリアを除く)
メインMC:垣花正(月~金)
アシスタントMC:大橋未歩(月~木)、ミッツ・マングローブ(金)
番組Webサイト: https://s.mxtv.jp/goji/
番組X(旧Twitter): @gojimu
番組Facebook:https://www.facebook.com/5jinimuchuu

© TOKYO MX