「タカ派で純血主義だけど優れた映画人」といえば誰?最近のメル・ギブソン仕事がよく分かる特集放送をCSでチェック!

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『マッドマックス』シリーズ(1979年~)に主演し注目を集め、『リーサル・ウェポン』シリーズ(1987年~)でハリウッドを代表するスター俳優に、そして『ブレイブハート』(1995年)でアカデミー賞&ゴールデングローブ賞の監督賞をW受賞する名監督となった……。そう、映画好きならば誰もが知る名優メル・ギブソンである。

いっぽうで敬虔なカトリック信者としても知られ、宗教右派を動員したぶっとびキリスト映画『パッション』(2004年)で話題を集めたり、人工妊娠中絶に反対する純血主義者だったり、おそらくその流れでトランプ支持を表明したり、プライベートでも何かと話題に事欠かない人、メルギブ。

とはいえ映画人としての才能は疑いようがなく、俳優としては豊富なキャリアに裏打ちされた存在感で低予算作品でも強引に成立させてしまうし、監督作はディテールに問題があっても抗いがたい魅力があったりと、流石というほかない。そんなメルギブの00年代以降のシゴトがよく分かる「特集:映画人 メル・ギブソン」がCS映画専門チャンネル ムービープラスで放送されるので、ぜひこの機会に紹介したい。

老いてなお苛烈なアクションに挑み、演技なのか素なのか分からない荒っぽいキャラで物語を回し、監督としてはスター俳優ゼロの非英語スリラー映画で名采配をふるう……そんな“映画人メルギブ”をこの機会に堪能しよう。

『エージェント・ゲーム』(2022年)

外国人テロリストと思われる男を拘束して、尋問する役目を負った3人のCIA諜報員。だが拘束した男が射殺されたことで、諜報員の1人が殺人の濡れ衣を着せられてしまう。彼は命を落とした相棒の敵討ちと自身の汚名返上のため、敵対する者すべてを倒すべく罠をしかける。その任務は“善”か“悪”か? 誰が本当の敵か、見極めよ――。

正直メルギブは省エネ出演だが、ダーモット・マローニーら意外な豪華キャストも。いわゆる政争・戦争がテーマのチェスゲーム的スパイ・アクションで、複数の時間軸が同時進行するのが少々ややこしいので集中してサスペンスを観たいときにオススメ。

『ミッドナイト・マーダー・ライブ』(2022年)

米LA、午前0時。ベテランDJ・エルヴィスの深夜放送に、ゲイリーという男から電話がかかってくる。男は「エルヴィスのせいで恋人が自殺し、復讐のため彼の妻と娘を監禁した」と宣言。ラジオ局から身動きがとれない中、エルヴィスは犯人の“声”だけを糸口に、人質を奪還しようと奮闘するが――。

深夜ラジオ放送中にかかってきた脅迫電話をきっかけに、メルギブ演じるDJとサイコな犯人がスリリングな駆け引きを展開。ラジオ局×脅迫をテーマにしたサスペンス~アクションは過去多々あるが、ここまで大胆などんでん返しは珍しいかも。ただ、観る人によってはブチ切れてちゃぶ台をひっくり返してしまうかも……。

『ホット・シート』(2022年)

爆弾が爆発した公園に急行した爆弾処理隊員のウォレス。近くのビルには、座った椅子に爆弾を仕掛けられた元ハッカーのIT技術者オーランドがいた。彼は電話で脅され、大金が眠る金融機関へのハッキングを強いられている。タイムリミットは60分。はたしてウォレスたちは爆破を阻止できるのか――?

本作でメルギブが演じるのは爆弾処理隊員。共演はマット・ディロンの弟でジャンル映画フェイスでお馴染みのケヴィン・ディロン。爆破装置と化したオフィスビルを舞台に謎の爆弾魔との攻防を描くタイムリミット・アクション――というのは間違いではないのだが、どちらかと言えば主人公はITテックを演じるディロンのほう。

『リーサル・バレット』(2022年)

1989年、パナマでは軍部最高司令官ノリエガ将軍の独裁により、政治的混乱に見舞われていた。一方、元海兵隊員のベッカーは、かつての指揮官から極秘任務を命じられる。それは、麻薬カルテルとの繋がりが疑われるノリエガ将軍を排除すべくパナマへ潜入し、ある取引を完遂せよというものだった。

「イラン・コントラ事件」をネタにしたストーリーは凄まじくハードだが、監督が『アドレナリン』(2006年)の人なので、淡く不謹慎バイブスが漂っていて気負わず観ることができる。ちなみにメルギブが演じるのは主人公の元上司スタークで、いわゆる省エネ(以下略)。主人公ベッカーを演じるのは、その朴訥ルックスを買われて(多分)出演したドラマ『イエローストーン』の爆発的ヒットによりスター俳優となったコール・ハウザーで、今後このテの映画には出てくれなさそう。

『アポカリプト』(2006年)

ここまで紹介してきた4作が、すべて2022年の制作ということにお気づきだろうか。普通に考えたら不可能なので何をか言わんやという話なのだが、この『アポカリプト』は別格。第79回アカデミー賞でメイクアップ賞、音響編集賞、録音賞に、第64回ゴールデングローブ賞で外国語映画賞にノミネートされた、メルギブ監督屈指の傑作だ。

物語の舞台はマヤ文明後期。マヤ帝国の襲撃を受けた狩猟民族の青年ジャガー・パウが妊娠中の妻と子どもを救うために必死で逃げ、満身創痍で闘う姿を描く。いわゆる“人間狩り”映画なのだが、時代が時代だけに残酷描写がとにかく容赦ない。有名俳優もいないので、誰がいつ死んでもおかしくない緊張感で動機がしてくるレベル。小中学生が深夜放送なんかでうっかり観たらトラウマになりそうだが、映画監督メルギブの実力を証明したまごうことなき傑作である。

「特集:映画人 メル・ギブソン」はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年3月放送

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