〈リフォームの失敗〉が減らせる!?自宅のリフォーム工事の前に必ず受けておきたい“第三者チェック”とは【一級建築士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

どれだけ綿密な計画を練ったとしても、「失敗した」と後悔することも少なくない自宅の「リフォーム」。リフォーム工事を始める前に、依頼側と業者の間に「第三者」による調査を挟むことで、工事のリスクを減らすだけでなく、資産価値にもメリットが生まれます。一級建築士の高橋みちる氏の著書『やらなければいけない一戸建てリフォーム』より、住宅の「健康診断」であるインスペクションについて解説します。

「第三者チェック」ってどういうこと?

リフォーム業者もしっかり選び、工事の内容も具体的に固まり、あとは工事を行うだけ……。そこで最後に、「しっかり計画通りに工事が行われるか?」という一抹の不安が胸をよぎることもあるでしょう。

リフォーム工事を頼むとき、当事者は基本的に皆さんと施工業者の二者です。施工業者がきちんと工事を行っているだろうかと不安に思っても、皆さんにはその施工が正しいかどうかを判断するのは難しいですよね。そこで、もしも建築のプロが計画の妥当性や工事の施工品質、計画通りに仕上がっているかなどをチェックしてくれたら頼もしいと思いませんか?

このように、施主と施工業者との間に「第三者チェック」として入る建築のプロがいます。

施工業者との信頼関係が大切、とは言いましたが、信頼とは必ずしも盲目的に信じることとは限りません。一生懸命やっていてもミスは起こってしまいますから、第三者による二重のチェックで不良工事を防いだり、施工品質を向上させたりすることは、お互いにとって良い結果を招きます。

一度造ったものを後から直すのは、手間がかかるだけでなく施主の負担も大きいため、そういった後々のリスクを減らす手段としてもお勧めです。また、第三者による評価があることで、建物の資産価値を適正に査定できる場合もあります。

第三者に依頼するには費用はかかりますが、このようにお値段以上のメリットも多くあります。ここにリフォームを行う際に利用できる第三者のサービスをいくつかご紹介いたしますので、是非ご検討してみてください。

「家の健康診断」である既存住宅状況調査(インスペクション)

「既存住宅状況調査」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。インスペクションとも呼ばれ、既存の住宅を建築士など専門の技術者が調査し、劣化や雨漏りなどの状況を報告する家の健康診断のようなサービスのことです。

新築のときにはすべてがキレイな建物も、何年、何十年と住んでいれば当然いろいろな部分が劣化してきます。外壁のひび割れなどは自分でも確認できますが、それが構造体に影響を与える劣化かどうか、というところまではなかなかわからないですよね。やはり、プロの目で客観的に見てもらえるというのは安心です。

似たようなものに、リフォームを依頼するときに無料で行う「現地調査」というものがありますが、これはあくまでリフォーム業者が自社の工事を適正に行うためにする調査です。

どういうことかというと、例えば塗装屋さんが現地調査をすれば、判断するのは古い塗膜や塗装ができる下地の状態かどうかなど、塗装に関する情報だけです。したがって、塗装屋さんは現地調査で「バルコニーのFRP防水のトップコート上塗りだけなら自分でもできそうだな」と思えば、良かれと思って「ついでにお安くやりますよ」とトップコートの塗装を提案してくれるかもしれません。

しかし、塗装の下地の防水層もしくは構造材が傷んでいた場合でも、そこまで気づいて修理を提案してくれることまではなかなか期待できません。本来、FRP防水のメンテナンスは防水屋さんの仕事で、その下地が傷んでいれば直すのは大工さんの仕事だからです。

つまり、インスペクションは「家全体の状態を第三者の専門技術者が客観的に診断」するのに対し、リフォーム業者による現地調査は「リフォームを行う箇所を確認する調査」なのです。現地調査では基本的に自社がリフォームで対応できない箇所は確認しないと思ってよいでしょう。インスペクションの方が、より中立かつ客観的な報告を得ることができます。

リフォームにインスペクションを活用する場合の注意点

インスペクションは、もともと安心して中古物件を売買できるようにと整備されてきた歴史があります。サービスは古くからありましたが、検査方法や技術者の技量などもバラバラで、その信頼性には多くの課題があったため、ひと昔前までは、中古住宅の売買と言えば、当たるか外れるかという博打に近い買い物でした。

そこで2013年6月には法律によって検査方法などのガイドラインが整備され、2017年2月には既存住宅状況調査技術者の講習制度を創出、2018年4月からは宅建業法により中古住宅の売買時にインスペクションの有無を説明することが義務づけられるなど、国を挙げて普及に力が入れられてきました。

こうして、インスペクションを利用すれば建物の状態を事前に判断することができ、不具合が見つかればリフォーム費用を予算に組み込んで物件を購入するなど、対策をあらかじめ検討できるようになりました。そして同様に、リフォーム計画を検討するためにも大いに活用できるサービスとなったのです。

ではまず一般的なガイドラインに沿ったインスペクションでは、一体どんなことがわかるのか見てみましょう。(図表1)

[図表1]既存住宅状況調査(インスペクション)の概要 出所:『やらなければいけない一戸建てリフォーム』(自由国民社)より抜粋

この他にもオプションで給排水の劣化や漏水、換気・電気・ガス設備などの作動不良などについて確認する項目もあります。

この調査によって報告されるのは、図表1の「調査報告内容」に記載された項目です。その報告内容から、右欄の「結果から推測できること」に記載したような現象を推測することができます。例えば、柱に1000分の6以上傾斜(1メートルの垂直距離で6ミリ以上のズレ)が見つかれば、何らかの理由によって構造体が歪んでいる可能性があると推測でき、更に詳細な耐震診断などに進むかどうかを検討することができます。

また、基礎から錆び汁をともなったひび割れが見つかれば、基礎内部の鉄筋が錆びている可能性があり、コンクリートの中性化を防止するメンテナンスなどを検討することができます。このように、現在の状況を把握することは、適切なメンテナンス計画を立てるためには大いに役に立ちます。場合によっては、リフォームで対応するには費用がかかりすぎるから建て替えた方がいいという判断になることもあり得ます。

ただ、リフォームに活用するためには調査の範囲と項目に注意が必要です。というのも、通常のインスペクションの範囲は、原則として外周および内部の目視可能な部分と、床下および天井に設置された点検口から覗き込んで見える範囲のみです。例えば移動できない家具や物置、室外機などで隠れているところや、点検口から見えない範囲は調査の対象外となります。また、調査項目は基本的に劣化と雨漏りに絞られていますので、断熱や耐震などの状況も知りたい場合は一般的なインスペクションだけでは足りません。

そこで、リフォームにインスペクションを活用する場合には、基本の調査に加えてオプションで追加調査をお願いしたいところです。

【リフォームにお勧めのインスペクション追加調査】

①点検口から床下および小屋裏の内部へ進入する詳細調査

②天井・壁・床下の断熱状況、断熱材の種類、厚さなどの調査

③1981~2000年の建物には、接合部の金物の調査

②は現時点の断熱性能を把握することができ、断熱リフォームの計画を立てるために役立ちます。

③は、新耐震木造住宅検証法による簡易診断の検査項目の一つなので、プロに見てもらえれば安心です。

また、②と③を調査するためには①も必要になりますが、床下を詳細に調査すれば、シロアリの侵入経路となる蟻道や給排水管の漏水などを発見できる可能性も高まります。ただし、これらの追加調査はインスペクションを行う調査会社や個人事業者によっては扱っていない場合もあるため、依頼する前に調査可能かをよく確認しておくことが肝心です。

インスペクションはどのように依頼すればよい?

それではインスペクションを依頼する手順をまとめます。(図表2)

[図表2]既存住宅状況調査(インスペクション)を利用する手順 出所:『やらなければいけない一戸建てリフォーム』(自由国民社)より抜粋

まず、インスペクションを行うタイミングですが、この結果によってリフォーム計画が左右される可能性もあるため、リフォームの計画前に行っておきたいところです。次に、依頼先の探し方ですが、インスペクションを行う「既存住宅状況調査技術者」(個人)を探すことになります。

この技術者は図表2「依頼先の探し方」の項に記載されている5団体のどこかに登録されており、最寄りの住所などから技術者を検索し、掲載されている連絡先から問合せが出来るようになっています。そして気になる費用ですが、基本インスペクションの相場は5~6万円です。

その他の追加調査については、まずは取り扱っているかどうかを、問合せの際にご確認ください。ホームページなどで取り扱い検査や費用などを明示しているところも多くありますので、こうした情報を参考にされるのもいいと思います。基本調査は2時間程度で行われ、検査後2~3日のうちに報告書が作成されるという流れが一般的です。

高橋 みちる
リフォームコンサルタント
アールイーデザイン一級建築士事務所 代表

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