これまでと何が変わった?不同意性交罪 盗撮も重罰化…法改正の変遷を弁護士に聞いてみた

連日のように報じられる性犯罪。最近は、よく「不同意性交罪」や「不同意わいせつ罪」という言葉を見かけます。2023年7月13日に「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」及び「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」が施行され、「不同意性交罪」など、新しい言葉が登場しました。

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これまでも、強姦罪や強制性交罪などと呼ばれていたわいせつに関する罪がありましたが、「不同意性交罪」と何がどのように違うのか、どうして変わったのか、などを刑法犯罪に詳しい静岡刑事ディフェンダー法律事務所の佐野雅則弁護士に聞きました。

被害者対象の限定がなくなった

Q.強姦罪と強制性交罪・強制わいせつ罪、そして新たに改正された不同意性交罪・不同意わいせつ罪の違いは?

<静岡刑事ディフェンダー法律事務所 佐野雅則弁護士>
まずはベースとして、強姦罪などの性犯罪は、重罰化の傾向がはっきりしています。平成26年に法務省が性犯罪の罰則に関する検討会を設置し、平成29年に実際に法改正が行われ、強姦罪では外れていた対象・行為も、その一部が強姦罪と同じ重いレベルで罪を問える強制性交罪が誕生しました。性的自由の保護の重要性がきちんと認知されてこなかった社会がようやく動き出したということです。

Q. 強姦罪では外れていたものとは?

<佐野弁護士>
一番わかりやすいのは、強姦罪の被害者の対象は女性のみだったのに対し、強制性交罪では対象に男性も加わり、限定がなくなったことです。

Q.それまでは男性が被害者の場合は強姦罪が適用されなかったということですか?

<佐野弁護士>
被害者や行為対象として、これまで扱われていなかったわけではない(強制わいせつ罪の対象とされていた)ものの、刑法上の罰則が軽かったものが、一番重い刑罰で扱われるようになりました。

被害者支援の立場から広がった対象 不同意とは…

<佐野弁護士>
しかし、それでも、暴力や脅迫という手段以外にも、被害者が抵抗困難な状態にして性行為に及ぶというケースが残っていました。被害者支援の立場からすると、それではまだ不十分ということで、令和5年の改正につながり、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪という罪名が作られました。

不同意性交等罪とは、法律上のいくつかの事情を原因として、「同意しない意思を形成、表明又は全うすることが困難な状態」、つまり「ノー」と言えない状況にさせて、あるいはそのような状況に乗じて、その相手と性交等を行った場合に成立する罪と対象が広がりました。

Q. ここで広がった対象とは?

<佐野弁護士>
「不同意」の原因事情として、暴力、脅迫に加え、
・ 精神的、身体的な障害を生じさせること
・ アルコールや薬物を摂取させること
・ 眠っているなど、意識がはっきりしていない状態であること
・ 拒絶するいとまを与えないこと
・ 恐怖、驚がくさせること
・ 虐待による心理的反応があること
・ 経済的、社会的関係の地位に基づく影響力で受ける不利益を憂慮していること

以上のことが法律で定められ、処罰対象となる「不同意」を広くとらえることで、“同意されていないものは犯罪”という姿勢が強く打ち出されました。何が罪になるのかはっきりさせるのが刑法の基本なので、今回はかなり広い対象になりました。

厳罰化、広範囲化の背景は…夫婦間でも「罪」に問われるケースも

Q.法改正されてきた背景は?

<佐野弁護士>
男女平等、女性の社会進出が社会的に常識になってきたことが背景にあると思います。女性に我慢を強いるような風潮は間違っているという考え方が、今では当たり前になっているので、当然の流れと言えます。

さらに、意思をはっきり表せない障害者等の社会的弱者の人権保護も含まれますし、セクハラのような、地位、立場を悪用した行為も、今回の不同意性交等罪は対象に含めていて、救う対象を広げようというのが狙いになっていると思います。

Q.不同意性等交罪では、夫婦間でも罪に問われるそうですが、どのような場合が対象になりますか?

<佐野弁護士>
たとえ、夫婦であったとしても、相手が「不同意」の状態で性交等を行うことが許されないことはあまりに当然です。夫婦であっても犯罪になるのかという問いの立て方が、すでに前時代的です。

8割近くがスマホ⁉ 盗撮も増加傾向で厳罰化

Q.わいせつ事件では、盗撮もあるが、その位置づけは?

<佐野弁護士>
盗撮は、都道府県の迷惑防止条例の対応だったので、列車や飛行機などの中で、県境付近で盗撮があった場合、どちらの県の迷惑防止条例の適用になるかが問題になることもあったり、都道府県によって処罰対象が異なったりするため、一貫した取り締まりが難しかったりしたことから、盗撮行為に対して十分な処罰が行われないケースがありました。

一方で、盗撮行為はスマートフォンのカメラ機能や超小型カメラ、望遠レンズなど、技術革新によって増加しているという一面もあります。

Q.警察庁によると、去年1年間の全国での盗撮行為の検挙件数は5737件と過去最多を記録し、中でもスマホによる盗撮が4534件と、8割近くを占めたというデータもあります。

<佐野弁護士>
そうした背景もあって、罰すべき「犯罪行為」という一般認識から、2023年7月に不同意性交罪と同じタイミングで、撮影罪を含む性的姿態撮影等処罰法が新設され、3年以上の懲役又は300万円以下の罰金と厳しくなりました。

技術革新やSNSの登場などで、わいせつ事件や違法薬物に関する事件は増加していて、時代とともに法改正などの対応が必要となっています。

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