逆境じゃないと燃えないチームもある…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©Real Madrid]

「そりゃあ4-0負けよりは絶対、いいけどね」そんな風に私が溜息をついていたのは金曜日、前夜のEL16強対決1stレグでビジャレアルがオリンピック・マルセイユに大敗したとこを知った時のことでした。いやあ、今季はCL以外のヨーロッパの大会、スペイン勢はパッとしてなくて、まずは昨夏、オサスナがクラブ・ブルージュに負けて、コンフェレンスリーグのグループリーグ出場が叶わず。2月にもELグループ3位でコンフェレンスリーグ16強対決出場プレーオフに回ったベティスがディナモ・ザクレブに苦杯を喫し、結局、UEFA第3の大会には1チームも参加しないんですけどね。

おまけにグループ首位でEL16強対決に直接進出しながら、うーん、もうこれは運命の皮肉としか言いようがない?今季はマルセイユの指揮官としてスタートしながら、8月にCL予選3回戦でパナシナイコスに負けてCLに行けず、9月にはクラブのお家騒動で辞任。その後、11月にビジャレアルに戻って来たマルセリーノ監督が、ELグループを2位で突破して、16強対戦出場プレーオフでシャフタールを倒したマルセイユと再会し、goleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)を喰らうとは。結果、ほぼ100%、準々決勝進出への道を閉ざされてしまったんですが、だからって、1stレグで1-0負けのアトレティコが来週水曜、メトロポリターノでの2ndレグで逆転突破できる可能性の方が高いかというと、それもまた、かなり怪しいような。

いえまあ、今週火曜にPSGとの2ndレグをホームで戦い、クラブの格というか、エムバペとの格の違いを見せつけられ、1-2というスコア以上に実力が及ばず、敗退したレアル・ソシエダは元々、パリでも2-0で負けてしましたからね(総合スコア1-4)。むしろアトレティコがお手本にすべきは、1stレグで1-0負けだった悔しさをアリアンツ・アレナでの3-0勝利で見事に晴らしたバイエルン・ミュンヘンであるべきなんですが、いやだって、相手はラツィオですしね。

あちらはグループリーグをアトレティコに続いて2位で突破したチームというだけでなく、セリアAでは9位。2位のユベントスと勝ち点差15の絶対首位、インテルと比べるべくもない上、アトレティコのエースはハリー・ケインではなく、モラタですからね。片やラツィオ戦2ndレグの2ゴールを含め、今季公式戦通算35得点、もう一方はリーガ前節ベティス戦で8試合ぶりにゴールを挙げ、ようやく自己最多タイのシーズン20得点に達したなんて知ると、2点取れば、逆転突破というのもかなりハードルが高い気がしないでもないんですが…いや、今は一足先にCL準々決勝の切符をつかみ取ったお隣さんの話からしていきましょうか。

そう、今週の水曜にライプツィヒ戦2ndレグをサンティアゴ・ベルナベウで迎えたレアル・マドリーだったんですが、3週間前の1stレグではブライムのゴールで0-1と先勝。この微妙なアドバンテージがアンチェロッティ監督に迷いを与えたか、今季はベリンガムの加入で捨てたはずだった4-3-3の陣形に回帰しただけでなく、「La idea era presionar más, con medios de energía/ラ・イデア・エラ・プレシオナール・マス、コン・メディオス・デ・エネルヒア(中盤のエネルギーでもっとプレスをかける計画だった)」(アンチェロッティ監督)という、前線の右にロドリゴではなく、バルベルデを置くMF5人体制でスタートして驚かされることに。

それがまた全然上手くいかず、ええ、1stレグでもシュートをより多く放っていたのはライプツィヒだったんですが、この日も序盤から、相手にがんがん来られ、シュシュコ、オペンダ、ヘンドリクスと撃たれまくっているんですから、困ったもんじゃないですか。幸い向こうのシュート精度が悪く、GKルーニンに止められたり、枠を外れてくれたりしていたから、それはいいとしても、攻撃の方もさっぱりではねえ。「Hemos jugado muy frenados/エモス・フガードー・ムイ・フレナードス(ウチはブレーキをかなり踏みつつプレーした)。低すぎる位置でプレスをかけることもなく、ボールを持った時もスピードが遅く、横パスばかりで深みがなかった」(アンチェロッティ監督)という具合では、ベルナベウのファンから久々にpito(ピト/ブーイング)が降り注がれることになっても仕方がなかった?

そのまま前半は0-0で終わったため、後半頭から、マドリーはカマビンガに代え、ロドリゴを投入したんですが、一悶着あったのは9分のこと。というのもボールのある場所とはかけ離れたところで、ビニシウスがオルバンを後ろから腕で押して倒した上、起き上がってきた相手の首に両手をかけて再び倒すという、呆気に取られるような蛮行を働いたから。いやあ、あんなことしたら最後、一発レッドでも、イエローカード2枚でも喰らって、退場させられていても不思議はなかったんですけどね。その場はイエローが1枚しか出ず、ビニシウスはピッチに残れることに。

それどころではなく、20分にはマドリーがこの試合、初めての高速カウンターを発動させ、自陣エリア前からクロースが放ったボールを追いかけてベリンガムが上がると、敵エリア前でラストパス。このボールをオルバンに先んじて、ビニシウスがワンタッチで撃ち込み、先制ゴールを挙げてしまったとなれば、ライプツィヒの怒りはかくたるや、想像するに難しくなかったかと。おかげでその3分後、今度はラウムのクロスをリベンジに燃えていたオルバンがヘッドで撃ち込み、あっという間に同点にされてしまったんですが、それでも総合スコアは2-1。大勢は変わらなかったところ…。

30分過ぎにはクロースをモドリッチに、40分にはベリンガムをホセルに代えたマドリーは何とかそのまま逃げ切ることができたとはいうものの、まったく心臓に悪い試合でしたよ。ロスタイムにもダニ・オルモのvaselina(バセリーナ/ループシュート)がゴールバーに当たるなど、とにかくあと1点取って、延長戦に持ち込んでやろうと攻めてくる相手にグダグダになっていましたが、それもこれも「Cuando tienes una pequeña ventaja no vas a tope/クアンドー・ティエネス・ウナ・ペケーニャ・ベンタハ・ノー・バス・ア・トペ(アドバンテージが少しある時は全力で行かない)」という、彼らの悪い癖が原因。

そう、何せ、根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)が売りのマドリーですからね。ダニ・オルモは「Nos faltó adelantarnos/ノス・ファルトー・アデランタールノス(ウチに欠けていたのは先制すること)」と言っていたものの、下手に前半から総合スコア1-1タイに持ち込んでいようものなら、遅くても後半終盤にはマドリーのレモンターダ精神が爆発。結局、点を取られていただろうというのはこれまで何度となく、マドリーダービーでその光景を見せつけられてきた私だっただけに確信できるんですが、とりあえず、午後9時キックオフ試合が延長戦にならないで済んだのは有難かったかと。

CL優勝14回の王者に僅差負けと五分に闘い、娘さんのリクエストだったベリンガムのユニフォームもゲットしたマルコ・ローゼ監督も、ドイツから駆けつけた4200人のファンもある程度、満足して帰ったかと思いますが、ただ、どうしても汚点として残ってしまうのはビニシウスの退場ニアミスの件。いくら年々、ゴール数を増やし、チームの主役を張るようになってきても、やはりある程度、品行公正でないと、天下のマドリーの顔としては難がある気もしないではありませんが、さて。来季にはとうとうエムバペ(PSG)も来るようですし、ビニシウスには更なる精進を期待するしかありません。

そして今季も無事にCL準々決勝進出を遂げ、今週末の日曜午後6時30分(日本時間午後2時30分)には再び、セルタ戦をベルナベウで迎えるマドリーなんですが、何せ、リーガでも彼らは2位ジローナと勝ち点7差の首位と余裕がありますからね。前節のバレンシア戦、最後の瞬間に決めた勝ち越しゴールが時間切れで認められず、抗議でレッドカードをもらったベリンガムは2試合出場停止処分を課され、出られないとはいえ、相手は降格圏の1つ上、17位のチーム。それでも先週末は最下位のアルメリアに1-0で勝って、ようやく18位のカディスと勝ち点差5をつけているんですが、まあ、普通に考えれば、マドリーの勝利は堅いかと。

加えて、ベリンガムの負傷休場中、立派に代わりを果たしたブライムはライプツィヒ戦に出ておらず、他にもルーカス・バスケス、セバージョス、そして途中出場だったモドリッチ、ホセル、ロドリゴと疲れを貯めていない選手が十分いますからね。来週もミッドウィークフリーであるものの、アンチェロッティ監督がローテーションをする確率はかなり高いかと。ここ4試合で1勝3分けと少々、停滞している気味はあっても、ベニテス監督がよっほどの奇策でもぶつけて来ない限り、今度はマドリーファンから、ブーイングが飛んでくることもないんじゃないでしょうか。

一方、CL16強対決2ndレグが来週になるアトレティコは土曜午後4時15分(日本時間翌午前0時15分)から、また頭の痛いアウェイゲームに挑むんですが、え?今回の相手は降格圏のカディスなんだから、そんなに心配することはないだろうって?いや、それが2節前には最下位のアルメリアとですら、2-2で引分ける程、メトロポリターノを離れると、昨今は弱っちいシメオネ監督のチームとあって、木曜にはヘスス・ヒル筆頭株主がマハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場を急襲。3月の各国代表戦のparon(パロン/リーガの停止期間)前のこのカディス戦、来週末のバルサ戦、そしてもちろんCLインテル戦2ndレグが今季の命運を握っていると、選手たちに喝を入れることに。

ただ、今週は試合がなく、じっくり調整できたため、選手たちは体力を回復しているはずですが、金曜にとうとう足首のネンザが治り、チーム練習に加わったグリーズマンはまだ、「Para mañana no va a estar a disposición/パラ・マニャーナ・ノー・バ・エスタル・ア・ディスポシシオン(明日は出場できない)。インテル戦に間に合うかもわからないが、バルサ戦には出られる」(シメオネ監督)という状態だそう。ここ2シーズン、何度も負傷をリピートしているヒメネスは代表戦明けの復帰ですし、アスピリクエタも練習には参加したものの、遠征には参加せず、そこへバリオスが風邪でお休みとなると…コケとデ・パウルが揃って、リーガで累積警告になるまで、あとイエローカード1枚というのも、今は2位3位にそれぞれ勝ち点4、3差と迫ってきただけにちょっと、怖いですよね。

そしてマドリッドの弟分チームたちはまずは土曜にヘタフェがメスタジャでバレンシア戦。ボルダラス監督は2021-22シーズンに率いた古巣を訪問することになりますが、何と言っても痛手なのは、先週末のラス・パルマス戦でエースのボルハ・マジョラルがヒザの半月板を損傷し、今季ほぼ絶望となってしまったこと。おまけにその試合ではグリーンウッドも累積警告となり、マドリーと引分けて、士気が上がっているバラハ監督のチームとの対戦にはFWがマタとラタサしかいないとなれば、得点するのがかなり大変かと。逆にDF陣ではジェネとアルデレテが戻ってくるため、バルサ戦での4-0負けから、2試合で7失点という、太っ腹守備ではなくなるはずですが、まずはあと勝ち点5と迫った、残留確定ゾーン到達を目指してほしいところかと。

ラージョの番は翌日曜で、こちらもアウェイでアラベス戦なんですが、とにかく彼らは今年になってから、1月2日のヘタフェとの弟分ダービー以来、8試合白星がないというスランプを早急に脱出しないことにはねえ。前節のカディス戦でもエスタディオ・バジェカスで大みぞれの中、せっかく先制しながら、追いつかれてしまいましたし、もうイニゴ・ペレス新監督も就任4試合目とあって、そろそろ初勝利を期待したいところですが…もしやこちらも16位ながら、降格圏とは勝ち点7とそこそこ距離があるのが、選手たちの危機感を呼び覚ます邪魔をしているのかもしれませんね。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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