佐藤より鈴木が多い栃木県 ショックの記者、仲間を探しに「佐藤さんのまち」へ 聖地佐野にはなぜ少ない?

記者の実家の表札

 3月10日は「佐藤の日」。佐藤といえば、日本一多い名字であり、佐野市がルーツの一つと考えられている。しかし、調べてみると栃木県には鈴木姓が一番多いという情報を発見した。記者は佐藤の一人として、対抗意識のままに、仲間を訪ねる取材に出た。

 名字や家系図に関する情報を扱うリクスタ(千葉県市川市)が運営するサイト「名字由来net」では、政府発表統計や全国電話帳データを基に、全国各地の名字の人数を独自に算出している。サイトによると2023年10月現在、栃木県で最多の名字は鈴木(約4万500人)で、以下に渡辺(約3万300人)、佐藤(約2万9200人)と続く。佐藤が1位どころか2位でもないことに、正直ショックを隠せない。

 では、県内で最も「佐藤さんに会えるまち」はどこか。県の毎月人口推計と、名字由来netの数字を基に計算してみると、佐藤姓の割合が最も高いのは約7.8%の那珂川町という結果になった。

 早速、那珂川町へ車を走らせた。明治期から4代続く佐藤畳店(大内)の周辺には、佐藤姓の家が点在している。佐藤洋一(さとうよういち)代表(47)は「うちは近くの佐藤さんの分家らしい。たどっていけば、周りもみんな遠い親戚なのかも」と予想する。インターネット上で「同姓同名の畳屋さん」を見つけてメッセージのやりとりに発展したこともあり、多い名字だからこそつながった縁だと感じている。

 弟の芳夫(よしお)さん(44)は「名字じゃなくて名前で呼ばれることが多い。病院やスーパーで佐藤さんって呼び出しがあると、みんな自分かなと思っちゃうよね」と“あるある”な話題で盛り上がった。

 旧小川町の国道293号沿いでも「サトウ」の看板が目に入った。佐藤精肉店(三輪)は、複数の佐藤さんから電話注文が入ってややこしくなる場面もあるという。店主の佐藤秀夫(さとうひでお)さん(51)は「珍しい名字に憧れがある」と、“レア感”への憧れを明かす。県内は鈴木姓の方が多いと伝えると「ちょっとうれしい」と笑みを浮かべた。

 父の州彦(くにひこ)さん(82)は、なんと「佐藤の日」(3月10日)生まれ。妻の悦子(えつこ)さん(77)は「どこにでもいる名字だから、お嫁に来て佐藤になるのも違和感なく受け入れた」と懐かしむ。名字に関する意識や思い入れは、同じ佐藤でも人それぞれのようだ。

 一方、ルーツとされる佐野市の佐藤姓は約700人で、人口の約0.6%と県内で最も割合が低かった。一体どういうことか。「佐藤さんゆかりの地聖地化プロジェクト」を展開する市総合戦略推進室の担当者は「ルーツの土地にその名字が少ないという傾向が、ほかのまちでもある」と、落ち着いた様子だ。

 市によると、佐野市ゆかりの武将藤原秀郷(ふじわらのひでさと)の子孫が全国に散らばり「佐野の藤原」から佐藤を名乗ったのが佐藤姓の由来の一つとされる。なるほど、佐野を離れて名乗ったからこその広がりと考えるなら、佐野に佐藤さんが少ないのも不思議ではない。

 とはいえ「佐藤さんのふるさと」として、鈴木姓が県内一ということに悔しさはないのか。記者の疑問に、担当者は「むしろ仲間」と答えた。佐野市は、鈴木姓発祥の地をうたう和歌山県海南市と交流があり、2019年の台風19号で佐野市が被害に遭った際は物資の支援も受けたという。多い名字同士の絆を感じ、鈴木さんに敵対心を抱いた自分が恥ずかしくなった。

 ありふれた名字。一番ではない名字。それでも佐藤には佐藤のドラマがある。

洋一さん(右)と芳夫さん兄弟。洋一さんの帽子は、佐藤姓ゆかりの地として佐野市をPRする「佐藤の会」とニューエラがコラボしたオリジナルキャップだ
州彦さん(左)と悦子さん夫妻。州彦さんは佐藤の日(3月10日)生まれ

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