雪解け間近の北海道 目覚め動き出すヒグマ…"冬眠中や冬眠明け"狙った駆除 本格化「保護→個体数管理」政策転換―去年の狂騒からことしを展望

UHBのカメラの前に現れたヒグマ(2023年12月、北海道芦別市)

去年、前年比2倍の4000件以上ヒグマが目撃された北海道で、冬眠中や冬眠明けを狙った駆除が本格化している。絶滅の恐れがあるとして、保護に重点を置いてきた政策を約30年ぶりに転換。捕殺などで個体数を管理する。冬ごもりの季節も続いた去年の狂騒を分析するとともに、ことしを展望する。

道内64市町村で"春期管理捕獲" 「人間の圧をかけにおいをつける」

釧路市での管理捕獲(2月)

駆除は「春期管理捕獲」と呼ばれ、道内の64市町村が実施する意向を示した。冬眠中を狙う「穴狩り」や親子グマの駆除を許可する区域を人里から最大5キロから10キロ以内に広げる。ハンターと出会わずに繁殖しているメスの個体数を減らし、人間の足跡を山奥まで増やしてクマに警戒心を与える狙いだ。北海道東部の釧路市では2月からスタートしている。「今のうちから人間の圧をかけて、においをつけて(クマに)ここまで人間が来ているんだと認識させたい」(北海道猟友会釧路支部 米山秀治支部長)

9人死傷 胃の中から遺体の一部も…駆除は1000件に

③OSO18(2023年6月、提供・標茶町)

人身被害は2人が死亡し7人が負傷だった。亡くなった2人は釣りや登山の最中に被害に遭い、いずれも駆除されたクマの胃の中から遺体の一部が見つかっている。駆除は1000件以上に達した。街中にも出没し、連日報道された。人里に出没する「アーバンベア」が北海道東部で乳牛を襲い続けた「OSO(オソ)18」が流行語大賞のトップ10入りした。

乳牛66頭を襲った「忍者グマ」 最後は"みそ煮込み"に

みそ煮込みとしてふるまわれたOSO18の肉

何かにつけ、話題となったのはOSO18だった。2019年以降、北海道東部の標茶町や厚岸町で乳牛66頭を襲い続けた。警戒心が強くわなにもかからないことから「忍者グマ」と地元で恐れられていた。そんなクマが人知れず、昨年7月、2町と隣接する釧路町で駆除されていた。駆除したハンターや持ち込まれて加工した業者も、OSO18だとは思っていなかった。「脂ものって500キロくらいあるというイメージだったが、実際は毛が薄くて痩せていた」(加工会社の社長)体長2.1メートル。体重は内臓を除き304キロ。脂は比較的少なかった。DNA鑑定でOSO18と判明したのは約1カ月後。すでに東京のジビエ料理店などに"熊肉"として売られていた。「駆除するだけでは申し訳がない」。加工会社の思いから釧路市内の飲食店で「みそ煮込み」としてふるまわれた。客も恐る恐るほおばるが、口に含んだ瞬間笑みがこぼれる。「歯ごたえ最高、こりこり」。あっけない最期だった。

「なぜ殺した」「かわいそう」"駆除への批判"がハンターへ

ハンターには駆除への批判が寄せられた

OSO駆除の知らせは酪農家たちを安堵させたが、予想だにしない反応があった。「なぜ殺したのか」「クマがかわいそう」「他に方法があったはず」SNSで批判が続出し、ハンターや家族、役場に電話も寄せられた。これに地元猟友会は憤る。「これだけクマの被害があるようなところに来て、生活し実態を見てくれと言いたい。われわれも面白半分にクマを撃っているわけではない。批判されるくらいならハンターを辞めるという人も。鉄砲を持たなくなってしまう」(北海道猟友会標茶支部の後藤勲支部長)

ハンター ピークの"4分の1人"に…高齢化し円安やウクライナ情勢で銃弾高騰

駆除にあたるハンター

北海道猟友会によると、道内のハンター登録者数は年々減り続けて、ピーク時の1978年に比べると、2023年は4分の1の約5300人まで減少した。半数が60歳以上と高齢化も深刻な問題。熊撃ちになるには、5~10年の経験が必要とも言われている。銃弾も輸入に依存していて、円安やウクライナ情勢で高騰した。「1個の弾が1000円くらい。昔は600円だった」(北海道猟友会 厚岸支部の根布谷 昌男さん)北海道が9月、「ヒグマ有害捕獲へのご理解のお願い」と題しX(旧ツイッター)に投稿する事態に。「人を恐れないで何度も市街地に出てくるクマは、危険なものとして捕獲しなければならない場合もある。やむを得ず駆除をしているという事実は多くの人に知ってもらいたい」(北海道の担当者)子グマを連れて、札幌市南区の住宅街で出没を繰り返したメスのクマが箱わなで捕殺されると、抗議が約650件も殺到した。大半は道外からとみられる。

道民の多くが"駆除に肯定的" YouTubeアンケートでも73%が「問題個体は積極的に駆除すべき」

北海道南部、福島町の大千軒岳で学生を死亡させたクマが見つかった現場(2023年11月)

北海道民に街頭でマイクを向けると、駆除に肯定的な人が多い。「捕獲して自然に戻すことができれば一番良いが、なかなか難しい」「人間の命の方が大事。駆除しないと大変なことになる。これからどんどん被害が続出する」「危険なクマから守ってくれるハンターに苦情をぶつけるのは違うと思う」10月に実施した『北海道ニュースUHB』のYouTubeコミュニティアンケートで、クマ駆除への見解をたずねた。約1万7000の投票のうち、73%が「問題個体は積極的に駆除すべき」と回答。「やむを得ない場合に限り容認」が22%と続き、「何があっても反対」はわずか3%だった。

「怖い」カメラマンの目の前に…保護重視から駆除へ方針転換

UHBのカメラの前に走るヒグマ(2023年12月、北海道芦別市)

騒動は雪が降り始めても収まらなかった。12月、北海道中部の芦別市で、木材会社の倉庫にヒグマが居座った。「クマが出てきた。走り回っている!」(UHBカメラマン)騒ぎを取材していたカメラマンの前に突然現れた。すぐに避難し無事だったが、現場は一気に緊迫。「怖いな」。つぶやいた本音も残っていた。クマは体長1.3メートル、体重70キロのメス。現場が住宅街だったことや、人を襲うそぶりを見せたこともあり、駆除された。

語り継がれる人食いグマとの戦い→1990年以降は保護

箱ワナで捕獲されたクマ(提供 ファーミングサポート北海道)

北海道に開拓使が置かれた明治以降、先人はヒグマと対峙し、人食いグマとの戦いも語り継がれてきた。冬眠中や冬眠明けを狙う「春グマ駆除」が有効な手段として推奨された。草木が雪で覆われ見通しがよく、残雪で足跡も追いやすい。ただ、価値観は時間の流れとともに変わる。絶滅の恐れがあるとして、1990年以降、春グマ駆除を禁じた。

北海道のシミュレーション 個体数は「30年でほぼ倍増」

厚岸町が設置した看板

約30年がたった。道のシミュレーションではヒグマの個体数は2020年度で1万1700頭となり、ほぼ倍増したと推定。環境省の専門家検討会はクマを「指定管理鳥獣」の対象に加える方針案をまとめた。保護に重点を置いてきたクマを捕獲管理へ転換する。クマの捕獲費用の一部を国が負担する。人の生活圏への出没を未然に防ぐため電気柵を設置し、ハンターの育成にも取り組む。北海道の鈴木直道知事も歓迎した。「スピード感を持って対応してもらい感謝したい。地域の切実な声を理解してくれた」(鈴木知事)増え過ぎたから減らす。人間の一方的なロジックによる政策転換で、クマとの共生が実現するかは分からない。間もなく冬眠しているクマたちが目覚め、動き出す。

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