『ブギウギ』複雑な感情を見事に表現した中越典子の芝居 スズ子を支える2人の母

NHK連続テレビ小説『ブギウギ』の第23週「マミーのマミーや」が放送された。梅吉(柳葉敏郎)を看取り、とうとう残された家族は愛子(小野美音)のみになったかと思われた矢先、スズ子(趣里)は実母のキヌ(中越典子)と再会することになる。今や子どもが生まれ母となったスズ子は、キヌとの向き合い方も変化していた。

生みの親と育ての親という2人の母はスズ子にとって重要な存在だ。キヌこそが本当の母だと初めて知った時には激しく動揺したスズ子だが、時を経て今でこそキヌのことを受け入れているように感じる。そしてツヤ(水川あさみ)を亡くした今、スズ子にとって母であり続けてくれる存在はキヌなのだ。

キヌは、「白壁の家」こと治郎丸家で女中として働いていた少し奥ゆかしいところのある女性である。明るくはつらつとして、言いたいことははっきり言えるツヤとは大きく違ったキャラクターだ。ツヤが母としてスズ子の「背中を押してくれる存在」だとしたら、キヌは「待っていてくれる存在」なのだろう。スズ子の活躍や、生い立ちに大きく関わることこそないが、いつでもスズ子の人生の原点である。愛子からの質問にスズ子が「マミーのマミーや」と笑顔で答えられたのも、こうしたキヌの立場を受け入れることができたからに違いない。

第23週でとりわけ印象深いのは、キヌを演じた中越典子の芝居だろう。有名人となったスズ子とのよそよそしい距離感には、「育ての親」ではないことや、かつてスズ子を手放してしまったことへの自責の念も感じられる。だが中越は、それでもこの歳になってスズ子と再会できたことへの喜ばしい気持ちやスズ子の活躍に安心したかのようなキヌの複雑な心中を細やかな表情で示している。一筋縄ではいかない複雑な感情が渦巻く中、短い時間でキヌの繊細な心の機微を見せてくれた。

そんなキヌに対しSNSには「年齢の重ね方、痛そうな足、多くは語らないけれどスズ子への色んな思いが伝わった。キヌさんの迫力がすごかったな……」、「『マミーのマミーや』が聞こえたときのキヌさんの表情がたまらなかった。よかったね、キヌさん」などの感想が上がっていた。キヌがスズ子から「マミーのマミー」と呼んでもらえたことへの祝福の言葉や、中越の芝居の迫力に言及する声が多かったようだ。

『ブギウギ』ではキヌとツヤという2人の母、そして新たにスズ子を支える母代わりの大野晶子(木野花)という存在が、自分の歌に向き合うスズ子を陰から日向から支えている。両親を亡くし弟さえ亡くしてしまったスズ子だが、自分には産みの母、そして2人の弟たちがいると改めて感じることで、この先もさらに前向きに歩んでいってくれるのではと思えた。

菊三郎からキヌに、そしてスズ子へと渡った懐中時計は愛子に授けられた。きっといつまでもキラキラと輝きながら、愛子を見守ってくれることだろう。

(文=Nana Numoto)

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