チームも驚いた阪口晴南の初PP。立川祐路セルモ新社長の組織改革と新エンジニアリング体制

 2024年のスーパーフォーミュラ開幕戦、第1戦鈴鹿サーキットでの予選で見事、ポールポジションを獲得したのは参戦5年目の阪口晴南(VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING)だった。阪口にとってスーパーフォーミュラ初のポールとなったが、担当の渡邊信太郎エンジニアにとっても、そして今年からセルモの社長に就任した立川祐路の新体制にとってもデビュー戦で初のポールとなる、初モノ尽くしの予選結果となった。

「本当に、うまくいったなと。(阪口)晴南の方は今年は車番も変わって、テストの段階から徐々に手応えはあったので、前の方で戦えるなという雰囲気はあったんですよね。ポールまではこっちも予想はしていなかったですけど、そこは本当に体制が変わったエンジニアリング陣の頑張りで、予想以上の成果を出してくれたと思います」と話すのは、新社長でもある立川祐路監督。

 立川社長&監督が話すように、新体制となったセルモは今季、エンジニアリング体制を大きく変えてきた。特に阪口晴南は昨年の39号車から38号車に変わり、エンジニアにはGT300などでトラックエンジニアを務め、ThreeBond Racingでパフォーマンス分析などデータエンジニアを務めてきた渡邊信太郎氏をスーパーフォーミュラで初めてのトラックエンジニアに抜擢。

 今回の阪口の活躍で、渡邊エンジニアはなんと、スーパーフォーミュラのトラックエンジニアデビューで初ポール獲得という、公式記録には残らない、なかなか珍しいリザルトを打ち立てることになった。

「そうですね、そういうことになりますね(苦笑)」と、微笑む渡邊エンジニア。そして、今回の好結果の要因の背景には、渡邊エンジニアが持ち込んだまったく新しいセットアップの存在があった。

「僕が経験してきたというか、(セルモのクルマは)自分が持っていた情報とはすごく違うセッティングだったんですよ。それはすごくびっくりしちゃって。でも、昨年のルーキーテストではそのセットアップできちんと走っていたから、今年に入ってからの開幕前のテストでもそのセットアップで1回走って、その後に僕らの方で考えたまったく新しいセットアップを入れたんです。それで鈴鹿のテストを最後に8番手で終われた。開幕に向けてどっちの方向性にしようというのをディスカッションして、晴南はこのチームに5年いるし、新しいことをやってみようということで今年、彼としてはまったく違うセットアップのクルマに乗ってもらっているという形です」と、渡邊エンジニア。

 そして、これまでのセルモのクルマ作りとはまったく違うセットアップのクルマが、開幕戦でいきなりポールを獲得。渡邊エンジニアも驚きを隠せない。

「去年とは全然違うセッティングで、逆にこんなに変えて、ここまで走るんだ、と。僕がびっくりしています。新しい発見ですね。こんなセッティングで走れるんだと」

 そのクルマのセットアップについて詳細は話さなかったが、これまでのセルモのクルマはレースのロングランで強く、クルマの安定感は高かったが、予選ではなかなか前に行くことができなかった。どうやら、今回の予選での阪口車は、その逆のイメージになっているようだ。

 実際、予選Q1からQ2に向けても、さらに予選の速さを引き出すために、アジャストも攻めた。

「実はドライバーもQ1で2番だったので、バランスもそんなに悪くないので最初は変えたくないという話をしていたのですけど、そのセットアップではそれ以上は臨めないので『せっかくなのでチャレンジしないと』と。ピーキーにならないように、より攻められるように調整をしました。Q1とQ2でまた路面コンディションも上がってくると自信を持ってトライしました」と、渡邊エンジニア。

 そのセットアップのアジャストが見事に奏功したが、決勝に向けてはセットアップを大きく変える予定だという。

「このセットは予選のタイムは出しに行けるのですけど、このままでは決勝は間違いなく、すごく厳しいと思います。決勝用のセットアップをまた考えないといけない。その方が大変ですね。僕は心配です(苦笑)」と、渡邊エンジニア。

 日曜の阪口のペースが楽しみだが、いずれにしてもセルモに速さが戻ってきたことは、今回の予選の最大のサプライズと言っても良い出来事だった。そして、今回のリザルトの遠因は、渡邊エンジニアを加入させて新体制を作り上げた、立川新社長の手腕であるとも言える。

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︎立川祐路社長の新生セルモのチーム作り**

「そんなことはないですよ。僕が、とかではないです」と、否定する立川社長。

「まだ経営は全然していないので。自分がいちばん、そういう柄じゃないなと思っているので(苦笑)。周りで一緒になってやってくれている連中がしっかり準備してくれているので、結果的にうまくいっていますけど、僕はいろいろ言うだけで、自分ひとりではとてもできないですね。周りの人がついてきてくれているおかげかな。今のところは」と、謙遜する立川社長。

 それでも、エンジニアリング体制の拡充は、立川社長の希望であったのは事実だ。

「晴南はもともと実力があった選手で、それをチームの力不足で本来走る位置にしてあげられていなかったので、そこはきっちりとしたかった」

「僕がドライバーの頃から感じていて、ずっとやっていかなくちゃという思いがあって、本格的に着手しました。今季はエンジニアの人数も増やしているし、他のスタッフも増えています。昨年末からみんなでいろいろ話して、そんなにエンジニアの世界で誰だどうとか詳しいわけではないので、僕が直接というわけではないですけど」と、立川社長。

「それに、誰か新しい人を連れてくればいいというわけではなくて、人の相性とかがあるのですごく難しいですけど、そのあたりを今年は気を遣いながら、ドライバーとエンジニア、データエンジニアを含めて組み合わせをいろいろ変えてきています。特に晴南の方は昨年まで苦労させていたので、どうにかしないとなとは思っていました。今年、全面的に変えて、それが最初の早い段階で形になったというのはチームとしてもひとつの自信になるし、すごくよかったなと思います」と、続ける。

 39号車は渡邊エンジニア、そしてテクニカルアドバイザーとして田中耕太郎エンジニア、さらに、データエンジニアとして岡島慎太郎の3人が協力して、クルマのセットアップやデータ解析を行っている。渡邊エンジニアも、この体制のメリットを強調する。

「恵まれているのが、今年の体制が僕の大師匠である田中耕太郎先輩がいたり、旧知の岡島(パフォーマンスエンジニア)君とかが一緒にいてくれたりするので、3人で密に話をしながら、うまくまとめながら作っていけています」と渡邊エンジニア。

 さらに、立川社長は大湯都史樹の加入もチーム全体の良い刺激になっていると話す。

「今回はまだ苦しんでいますけど、大湯(都史樹)が入ってきて、その存在もいいですよね。チームに新しい風、雰囲気を入れてくれたし、それに刺激されてやっぱり晴南だったり、スーパーGTでは石浦(宏明)だったりが頑張るので、大湯の存在も大きいと思っています。それでも今日に関しては今のところ大湯は今まで乗っていたクルマとだいぶ、印象が違うみたいで、そこのドライビングとクルマのセットアップとの合わせ込みがまだうまくいっていないので、まだ本来のパフォーマンスが出せていな状況なので、そこもまた、お互い頑張っていかないとなという感じがあります」

 2015〜2017年頃には、スーパーフォーミュラで3年連続でドライバーズチャンピオンを輩出し、スーパーGTでも優勝争い、チャンピオン争いの常連だったチーム・セルモ。その黄金時代の再来となるか。立川新体制となったチームの今シーズン、そして日曜の決勝はどうなるだろうか。

スーパーフォーミュラ参戦5年目で見事、初ポールポジションを獲得した阪口晴南(VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING)

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