2023年9月中間期決算 中小企業等向け貸出は365兆円、過去最高を更新 貸出比率は67.80%、コロナ禍が落ち着き2年連続低下

~ 国内106銀行「中小企業等・地方公共団体向け貸出金残高」調査 ~

国内106銀行の2023年9月中間期の総貸出金残高は538兆5,999億円(前年同期比3.7%増)で、9月中間期では2012年から12年連続で増加。集計を開始した2010年以降、最高を更新した。
中小企業等向け貸出は365兆2,070億円(同3.6%増)、地方公共団体(以下、地公体)向け貸出は39兆5,098億円(同4.5%増)だった。2023年9月期は、総貸出金だけでなく、中小企業等向けと地公体向けもそろって最高を記録した。
コロナ禍は収束に向かうが、物価高や人件費上昇などのコストアップで企業の資金需要は増している。こうした状況を背景に貸出は増えたが、一方で過剰債務の中小企業への銀行の貸出姿勢が注目されている。

過去最高を記録した総貸出金残高の構成比率は、中小企業等向けが67.80%(前年同期67.85%)、地公体向けが7.33%(同7.27%)だった。9月期の貸出比率は、中小企業向けはコロナ禍の資金繰り支援が活発だった2021年をピークに、2年連続で前年同期を下回った。一方、地公体向けは2年ぶりに前年同期を上回った。
コロナ関連支援で過剰債務に陥った中小企業が多いため、貸倒リスクの低い地公体への貸出を積極的に進める銀行行動の一面が垣間見える。

負債1,000万円以上の企業倒産は、2024年2月まで23カ月連続で前年同月を上回り、増勢が鮮明になっている。業績回復が進まず、ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)の返済原資を捻出できない中小企業は多い。さらに、円安による物価高や人件費上昇でコストアップが加速し、企業の資金繰りに大きな負担となっている。金融庁は、金融機関に事業再生への取り組み強化を促すが、リスクを取りながら対応できるか金融機関の力量が問われている。

※本調査は、国内銀行106行の2023年9月中間期決算の「地方公共団体向け」と「中小企業等向け」の貸出金残高を前年同期と比較、分析した(りそな銀行、沖縄銀行は信託勘定を含む)。「中小企業等」には、個人向け貸出を含む。

中小企業等向け貸出金 過去最高の365兆円

2023年9月中間期の中小企業等向け貸出は365兆2,070億円(前年同期比3.6%増、13兆255億円増)で、前年同期(352兆1,814億円)を上回り過去最高を更新した。伸び率は、コロナ禍から売上が回復したほか、物価高などで価格が上昇し運転資金の需要が押し上げた。ただ、地場堅実企業は伸びたが、過剰債務を抱えた中小・零細企業も多く、前年同期の3.7%増より伸び率は0.1ポイント縮小した。貸出比率は67.80%(前年同期67.85%)と、2年連続で前年同期を下回った。
業態別の中小企業等向け貸出は、大手行が141兆8,587億円(前年同期比3.5%増)、地方銀行が181兆579億円(同3.9%増)、第二地銀が42兆2,903億円(同3.2%増)と、全業態で前年同期を上回った。前年同期を上回ったのは、大手行が7行すべて(前年同期6行)、地方銀行は62行のうち58行(同58行)、第二地銀は37行のうち29行(同32行)の合計94行(構成比88.6%、前年同期96行)で、前年同期から2行減少した。
貸出比率は、大手行が61.49%(前年同期61.37%)で前年同期を上回ったが、地方銀行71.70%(同71.90%)と第二地銀76.29%(同76.55%)は前年同期を下回った。
コロナ禍の資金繰り支援策の反動で過剰債務を抱えた中小企業は多く、顧客層の違いから大手行と地方銀行、第二地銀で貸出比率の伸びに差が出た。

中小企業等向け貸出 南日本銀行が貸出比率94.97%で初めてトップに

総貸出に占める中小企業等向け貸出の構成比トップは、南日本銀行の94.97%(前年同期93.76%)だった。調査を開始した2010年以降で、初めてトップになった。以下、スルガ銀行94.65%(同95.50%)、佐賀共栄銀行94.52%(同93.05%)、神奈川銀行93.45%(同94.02%)、福岡中央銀行92.64%(同87.67%)と続く。一方、最低は東邦銀行の49.99%(同49.92%)で、唯一、50%を下回った。
中小企業向け貸出比率は、大手行7行では2行の上昇にとどまった。地方銀行は、62行のうち33行(構成比53.2%)、第二地銀は37行のうち22行(同59.4%)と半数を超えた。大手や上場企業への貸出が主体の大手行と、地元中小企業がメインの地方銀行・第二地銀で対応に差が出た。
コロナ禍から本格的に経済活動が動き出したが、業績回復が遅れる企業や過剰債務を抱えた中小・零細企業の支援に金融機関がどのように取り組むか注視が必要だ。

地区別 中小企業等向け貸出比率が6地区で上昇

銀行本店の所在地別では、中小企業等向け貸出金残高は10地区すべてで前年同期を上回った。
増加率トップは、中国の5.6%増。以下、中部4.4%増、東京4.2%増の順。また、貸出比率は四国の78.24%を筆頭に、近畿76.30%、中部76.28%の順。貸出比率の上昇は、東北、東京、中部、北陸、中国、四国の6地区だった。

地公体向け貸出金 貸出比率は前年同期より0.06ポイント上昇

地公体向け貸出金残高は、39兆5,098億円(前年同期比4.5%増)で、9月中間期では調査開始した2011年以降、13年連続で前年同期を上回り、過去最高を更新した。
地公体向け貸出金残高は、北海道、中部、中国、四国を除く6地区で増加した。
106行のうち、地公体向け貸出金残高が前年同期を上回ったのは43行(構成比40.5%)で、前年同期(48行)より5行減少した。業態別では、大手行が4行(前年同期3行)で前年同期を上回ったが、地方銀行が27行(同29行)、第二地銀が12行(同16行)だった。
総貸出金残高に占める地公体向け構成比は7.33%(前年同期7.27%)だった。経済活動の再開で中小企業等向け貸出が伸び、地公体向けの貸出比率は前年同期をわずかに上回る水準にとどまった。
地公体向け貸出金の構成比が前年同期を上回ったのは34行(構成比32.0%)で、前年同期の35行から1行減少した。地公体向け貸出比率が最も高かったのは、熊本銀行の47.08%(前年同期35.92%)。次いで、青森銀行36.13%(同30.93%)、十八親和銀行35.64%(同35.36%)と続く。貸出比率30%以上は4行(同4行)、同20%以上30%未満は11行(同8行)だった。


国内106銀行の2023年9月中間期の中小企業等向け貸出金は、大手行(前年同期比3.5%増)、地方銀行(同3.9%増)、第二地銀(同3.2%増)の全業態で伸ばした。
アフターコロナに向けて経済活動は、本格的に再開した。しかし、コロナ禍からの業績回復が遅れている企業は多い。そうしたなか、円安などによる原材料やエネルギー価格の上昇、人材確保のための賃上げなどでコスト負担が上昇し、企業の資金繰りを圧迫している。こうした企業の再生のために、銀行がどこまで踏み込んだ対応ができるか、銀行の存在意義が問われている。

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