【霞む最終処分】(28)第4部 実証事業の行方 誘致検討、戸惑う村民 風間浦村 合意形成見通せず

高台への移転が計画されている風間浦村役場庁舎。築85年以上で老朽化が進む

 昨年3月、青森県風間浦村長の冨岡宏が東京電力福島第1原発事故に伴う除染土壌を再生利用する実証事業の誘致を検討していると報じられると、村内に衝撃が走った。冨岡は「福島のためになる」と説明したものの唐突感は否めず、村民に驚きと戸惑いが入り交じった。

 村商工会で総括経営指導員を務める山本義朗は「先祖が福島と歴史的な交流があるなら分かるが、縁もゆかりもない土地から土を持って来ると言われても理解に苦しむ」と本音を漏らした。村民の50代女性も「村内にも土はたくさんある。わざわざ福島から運んでくる必要はない」と断じた。

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 環境省は中間貯蔵施設(福島県大熊町、双葉町)に一時保管されている除染土壌のうち、放射性物質濃度が比較的低い土を公共工事などで再生利用する計画だ。冨岡の意向はあくまで計画の実現に向けた実証事業の誘致だったが、除染廃棄物の最終処分場の受け入れだと誤解している村民もいる。村内からは「正しく理解されなくては風評のみが広がりかねない。村長は人々と向き合い、自らの発言の趣旨をしっかりと説明してほしい」と求める声が上がる。

 昨年4月の村議選で初当選した山本聡は実証事業の誘致に反対の立場だ。元村職員で漁師でもあり、冨岡が実証事業の誘致検討を示して以降、誘致すれば風評被害が生じると懸念している。昨年6月と9月の村議会一般質問では冨岡の姿勢をただしたが、「情報収集を進める」などの答弁にとどまった。「村長から具体的な説明はなく、納得できない。情報収集していると言うが、全く進んでいないのではないか」と不信感を募らせる。

 築85年以上となった役場庁舎の高台への移転計画を巡り、村が昨年8月に開いた住民説明会では本題でないにもかかわらず、複数の村民から実証事業の誘致に反対する意見が出た。山本は「現時点で村民の合意形成は不可能だ」と指摘する。

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 人口約1600人の村は65歳以上の高齢者が約半数を占める。主要産業である漁業と観光業は後継者不足で衰退の一途をたどる。村を存続させるには安定的な雇用の確保が欠かせない。村内に住む50代男性は「除染土壌を受け入れるのは嫌だが、働く場ができるなら話は変わってくる」と複雑な心境をのぞかせた。

 村企画政策課長の亀谷孝信は「村長は福島の復興に協力したいとの強い思いを持っている」と明かし、誘致検討の中止については否定した。(敬称略)

 =第4部「実証事業の行方」は終わります=

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