【震災・原発事故13年】関連死無駄にしない 福島県内弁護士と医師 相談事例検証10年目 #知り続ける

関連死の勉強会で議論する渡辺さん(左)と坪倉さん

 福島県内の弁護士と医師の有志が東日本大震災と東京電力福島第1原発事故に伴う震災(原発事故)関連死の勉強会を続けている。「なぜ、この人は亡くならなければならなかったのか」との遺族の疑問に応えようと始まった活動は10年目を迎えた。関連死が疑われる死亡例に法律と医学の両面から向き合い、被害救済や再発防止の糸口を探ってきた。関係者は避難による死の検証が「救える命を守ることにつながる」と信じ、議論の場の制度化や情報発信の在り方を模索している。

 2月上旬にいわき市で開いた勉強会で、ある被災者が議題に上がった。双葉郡に住み、原発事故に伴う避難後に認知症を患い、肺炎で亡くなった高齢者だ。暮らしぶりを記した資料などを基に話し合った。

 「最終的には肺炎。これって認知症と関係ありますか」と尋ねる弁護士に、資料を読み込んでいた医師は「避難でせん妄(意識障害の一種)が一気に悪化している」と応じた。避難による生活環境の著しい変化がせん妄を引き起こし、認知症の一因となった可能性がある。「認知症が悪化して体の機能が低下し、肺炎などにかかったのでは」と避難と死亡の間に関連性があるとの見方を示した。

 「被災から13年がたつ今もこういう事例が埋もれている。弁護士だけでは気付かないことも多い」。浜通り法律事務所(いわき市)の弁護士渡辺淑彦さん(53)は勉強会の意義を口にした。

 勉強会は2015(平成27)年春、遺族から市町村への弔慰金申請や東電への賠償請求を支援する渡辺さん、関連死を研究する福島医大教授の坪倉正治さん(42)が集会で会ったのを機に始まった。2、3カ月に1回程度、10人前後が集まり、弁護士が扱う関連死の認定例、疑い例を遺族の許可を得て共有している。

 弁護士からすれば、被災と死亡の因果関係を書類で訴える上で医師からの専門的な助言は参考になる。医師としては関連死の課題を探るには亡くなった人の情報が重要だが、個人情報保護との兼ね合いから得るすべは限られる。坪倉さんは「彼ら(弁護士)の相談に乗りながら僕らも学べる」と協力のメリットを感じている。

 勉強会での議論を参考に東電から賠償を得たケースがあり、勉強会で扱った症例を論文にまとめて発表した医師もいる。おととしは県内外の医療と法律の関係者に参加を呼びかけ、関連死を考えるシンポジウムを催すなど成果を積み重ねてきた。

 能登半島地震を受け、改めて関連死への関心が高まっている。渡辺さんは有志の取り組みである勉強会には継続性や施策への反映などに課題があるとし「医師と弁護士が関連死について議論する『ケース検討会議』を国や自治体が制度化することも検討すべきだ」と提言している。坪倉さんは「福島で起きてしまった多くの方の死を無駄にしないため、議論してきた成果を社会と共有できる方法を見つけたい」と情報発信の手だてを探っている。

※災害関連死 地震や津波による直接死とは別に、避難生活の疲労や環境変化のストレスなどで体調が悪化して亡くなる事例。市町村が審査委員会を設けて審査し、災害と死亡の因果関係が認められると災害弔慰金が遺族に支払われる。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の関連死は昨年末現在で3802人で、原発事故が起きた福島県が2343人と6割を占める。

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